4話

こっけこっこー!!


「この擬音は果たして正しいのだろうか。確かに朝になれば聞こえてくるが、鶏が野生化しているとでもいうのだろうか」


どうでもいいことを朝からつぶやきつつ起床する。


今日は日曜日だ。学園も無ければ予定もない。


今日は何してすごそうか。


1. トレーニングおよび情報収集

2. 町に出て娯楽を愉しむ

3. メイド達の秘密を探る


リストにするとこんな所だろう。


朝食を食ってから考えることにしよう。もしかしたら翼から何か手伝えと言ってくる可能性もあるからな。


「連理くん~朝食できたよ~」


今日は優菜が呼びに来た。


「ああ、すぐ行く」


いつものやり取りをしながら俺は食堂へ向かう。


「おっはよー!」


晴香が元気よく挨拶をする。ガキは朝から元気がいいらしい。


「ああ。朝から元気なこった」


「連理さんおはようございます」


「あ?舞と美穂は朝飯抜きか?珍しいな」


食堂には舞と美穂が居なかった。


まあ日曜日だからな、好きなことでもしているのかもしれない。


「ああ、舞と美穂は今出かけています。日曜日はたまにありますね」


翼が簡潔に答えてくれる。


そういえば舞は読モだか何だかをたまにしているだとかなんだとか....。美穂はその付き添いだろう。


「ああ、そんなことも言ってたような」


「今日は早いみたいですね。いつもは昼過ぎ位なんですけど......」


今は朝の7時だ。たしかに早すぎるような気がせんでもない。


まあ俺はそこら辺のことは良く分からんからな。そんなもんなんだろう。


そんな珍しい朝だった。


「予定は無難に2か。メイド達についてはまだ分からないことが多いからな。暫く様子を見ておこう」


あの引き出しにあった紙は気がかりだが。


「ショッピングモールに行けば適当に時間は潰せるか」


金は無いが。本屋にでも行けば時間は無限に潰せるだろう。


着替えたらすぐ行こう。


てなわけで現在ショッピングモールである。


このだだっ広い敷地から本屋を探すのは困難ではないのだろうか。


「まったく、地図位置いておけよな」


「地図あるよ?」


背面から声が聞こえる。気配は確かに感じていたが話しかけてくるとは思わなった。


「あん?お前たしか......」


「愛衣だよ!忘れちゃった?」


「いや、名前を覚えるのが苦手なんだ。悪気はないすまんな」


「別にいいよ~。連理くんは今日はどしたの?」


これは丁度いい奴が現れたもんだ。


どのみち迷うなら此奴に案内させた方が時短できる。


「本屋に行こうと思ってな。金はないから買わねぇんだけどな」


「それで迷ってたわけなんだ」


迷ってないと言いたいが、事実なのでやめておこう。


「お前は暇人なのか?前もうろついてたよな」


此奴は何を目的にショッピングモールにいるのだろうか。前も暇そうにしていたが。


「うーん。友達探しみたいな?大学に友達いないからね~」


意外ではあるが、案外そんなものなのだろうか。


友達が出来そうな性格はしていると思うが。大学に行っていないので何とも言えないが。


もしかしたらトンデモない性格のクズの可能性だってあるわけだ。


「まあがんばれな...。哀れな子羊よ」


「哀れまないで!地元に帰ればいっぱい居るから!」


此奴は叢雲出身では無いらしい。


「そんな事より!携帯もってたの!?連絡先交換しようよ!」


俺の手にある携帯を見て言う。


「じゃあ本屋まで案内してくれ」


「勿論!暇だったしね」


契約を交わし、連絡先を教える。


「やった!これで友達が....!」


「やっぱボッチなんだな」


「っく!そんなことないのに...」


もしかしたら此奴も何か事情が有るのかもしれないな。俺には関係ないだろうが。


なかなか人は見かけによらず秘密の一つや二つあるもんだ。


そんな秘密に首を突っ込んでみたいというのが俺なのだがな。


「まあそんなことはなんだっていい。本屋だ本屋」


「君から言い出したのに...。」


そんなやり取りがあったが、無事本屋まで案内してくれることになった。


そんな訳で今はでっかい本屋に居る


「学園に行けばあるんだろうが、借りるのがめんどくさいんだよな」


「でもお金持ってないんでしょ?ここで読んでいく気?」


勿論だ。あいにく足腰は強いのでな。


「ああ。金なんて無くても読めるからな」


「えー!あたしが暇じゃ~ん」


それは知らんがな。何を言われようと俺はここで数冊本を読んでいく。


「私が欲しい本買ってあげるからさ、ここで読まずに家で読みなよ!」


むむ。前言撤回だ。買ってくれるとなると話は別。俺は足腰の弱い漢女だからな。


「良いのか?返せとか言われても多分無理だぞ」


金を稼ぐ手段なんて今の俺にはない。あいにくバイトも仕事もしてないんでな。


「別に大丈夫だよ。こう見えてお金はあるから!」


「苦しゅうないな。我が家臣よ」


「誰が家臣じゃ!」


まあ此奴が良いってんなら遠慮なく甘えさせてもらおう。


「これとこれと、これもだな。ああ、あとこれとこれ.......」


めぼしい物を手に取っていく。


「がっつり行くね.....」


「俺の金じゃないからな。遠慮はしない主義なんだ」


ふんぞり返りながら言う。


「あんま胸張るところじゃないような...」


「気にすんな」


「私のお金...いや、なんでもいいや!これから何かするの?」


「帰って本を読むに決まってんだろ。せっかく買ってもらったんだからな」


流石に冗談だが。此奴の顔を見るになにやら一緒に居て欲しそうな眼差しをしている。本を買ってもらった恩もあることだ、少しくらい付き合ってもいいだろう。どうせすることも無いんだ。


「冗談だからそんな顔すんな」


「ど、どんな顔なの!?」


「そんなことはどうでもいい。あとはお前に任せたぞ。俺は土地勘がないからな」


何をするにしても俺が主導で出来ることは少ない。それこそ下層区域に行く事くらいしかな。


これからの事はこいつに任せた方が多少はマシだろう。


「ま、まかせてよ!私ここばっかいたから!」


なんとも悲しい文言である。友達が居ないのは事実なのかも知れない。


「まずは何をするんだ?」


手始めに何をするかを聞いてみる。


「そうだね~、やっぱゲーセンでしょ!」


ゲーセンな。いった記憶はないが、この前ここに来た時に晴香がボソッと言ってたような気はするな。なにやら面白い所だとかなんとか。


「じゃあ決まりだな」


そういい俺たちはゲーセンに向かって歩みを進めた。


「活気が溢れてるな。過剰なくらいだ」


なにやら凄く賑やかな所であった。人間の声もそうだが、なにより機械から発せられる音がデカい。


「クレーンゲームでもしよっか!」


クレーンゲームは多分アームを操作して景品を取るゲームの事だろう。目の前にはクレーンゲームと思わしきものが無数にあった。


愛衣は両替してくる!といいどっかに行ってしまった。


金がかかるらしい。


「これは.......たしか」


ある景品が目につく。たしか、このキャラはメイド達の引き出しにあったキャラと同じ見た目をしている。あっちはキーホルダーだったが、景品はぬいぐるみになっているらしい。


「おまたせ~!ん?連理君はこのにゃん五郎が欲しいの?」


何やらこの奇抜な見た目のキャラはにゃん五郎と言うらしい。


「いや、なんか見たことあるなと思ってな」


「へ~以外!結構マイナーな方のゆるキャラなのに」


マイナーらしい。


「まあいいや!じゃあこれやってみようよ!」


そういい愛衣がお金を機械に入れ始める。


機械からけたたましい音がなり、アームが少し動いた。


「まずは私が見本を見せるから連理君みててね」


そういうとボタンを巧みに操作していきあアームをぬいぐるみの丁度真上になるように動かす。


意外と簡単なんだろうか?と思ってると、持ち上げられたぬいぐるみがアームからスポッと抜けてしまう。


「なんだ今の。アームが勝手に開いたぞ」


「そんなもんだよ~何回かやって力が強い時に持ち上げればゲットできる設定だと思うよ」


それがクレーンゲームというものなのか。


「じゃあ俺がやってみてもいいか?練習練習」


「勿論!どぞどぞ」


お金は既に入ってあるのであとはボタンを操作するだけで良さそうだ。


「むむ、結構むずいな。あ、行き過ぎた」


俺が操作していたアームはぬいぐるみから少し離れた位置に行ってしまった。


これは諦めるしか無さそうだ……。


「え!?連理君凄いよ!タグにアームが引っかかってる!」


「ん?なんか持ち上げれてるな」


なんとぬいぐるみに付いていたタグにアームが入り込む形で持ち上げられたらしい。完全に奇跡というほかないが、運も実力の内だ。


「それ連理君が持って帰ったら?私の家に一杯あるんだよね~」


なんか申しわけないな。俺の金じゃないからな


「いいのか?もしかしたら夜になると燃やされてるかもだぜ?」


「ん~まあいいんじゃない?なんかにゃん五郎って連理君に似てる気がするんだよね~」


「嘘だろ!?俺がこんな間抜けな顔してるわけ無いだろ!?」


「うわ!?急に大声出さないでよ~」


お前が変なこと言うからだと言いたかったがやめておこう。


まあこのぬいぐるみは晴香あたりにでもあげよう。咽び泣いて喜ぶことだろう。


「次はあのイニシャルBっていうレースゲームだね。私もやったことないけど....」


愛衣が指さす先には車の運転席みたいな見た目のゲームがあった。


見た目でやることは大体わかるのが良心的だな。


「結構人が多いが、待つのか?」


レースゲームの周りには人が多く、ほかのゲームより熱狂しているのか外野も騒々しい。


「う~ん、待っても良いけど…ほかのとこ回ってみる?」


「いや、待ってても良いんじゃないか?」


一々ここに戻ってくるのも面倒くさいからな。今のうちに経験しておくのが賢明だろう。


「連理君がいいならそうしよっか。一回大体5分くらいだから割とすぐ順番回ってくるかもだしね」


そういう事なので俺たちは人が掃けるまで少し待つことにした。


待つこと10分くらいだろうか、なにやら俺たちの列の前で諍いが起こっているようだった。


「あれれ、なんかあったのかな?」


俺たちは待っている間は適当な話をしていたため、諍いの理由を見ていなかった。


「状況的に割り込みとかじゃないか?にしても客層も客層だな」


改めて周りを見ると半グレなのか、ただの不良なのか分からないが、そういった人種が目立つ。


なにやらその不良たちが、レースゲームをしていた奴らを脅迫してゲームをしているらしい。


「物騒になったね。ほかのとこ行こっか?」


愛衣がそういうが、既に10分も待ってたので流石にむかついてくる。


別に喧嘩しようって訳じゃない。少し話し合うだけだ。


そう思い、俺は不良たちのグループに近づく。


「俺たちも並んでるんだ、割り込みは遠慮してくれ」


簡潔に手短に伝える。が、不良たちは俺の顔をみてニヤリと笑った。


「おいおい!お前まじか!俺たちが誰かわかってんの?」


と言われるが知ったこっちゃない。


「知らん。なんだ?有名な不細工アイドルグループかなんかか?」


相当な不細工かつグループだというのなら芸人か、アイドルなのだろうか。


こんな奴らを推している奴らの気が知れないが。


「なんだてめぇ!俺たちはヘッドライオンって言う暴走族なんだよ!」


なんだへッドライオンって。趣味がわりぃな。


「お前の顔は間違いなく馬かロバだけどな」


おっと、思ったことが口から洩れてしまった。後ろに立っていた愛衣も思わず吹き出してしまったようだ。


「クソが!ぜってぇ殺してやる!」


馬がそう言うと後ろで見ていた他の不良たちも群がってくる。


「れ、連理君大丈夫そ?なんか不穏な空気が....」


「なんか怒らせてしまったみたいだな」


「それ多分さっきの.....」


愛衣はこいつらが起こっている理由に心あたりがあるようだな。


「おい!そこの女はお前の連れだろ?そいつちょっと貸してくれや?」


愛衣の事だろう。


「お呼びだぞ。じゃあ俺は帰るわ」


そういい俺はこの場を後にしようとする。


「ちょちょちょ!!!待って待って!?」


急いで俺の腕を掴んでくる愛衣。お前も来いって事だろうか。


「私ひどい事されちゃうよ!?」


それはお前の被害妄想では無いだろうか。まだ此奴らは貸してくれとしか言っていないからな。


「そうなのか?」


「そんな訳ねぇだろ?いい事だよ良い事」


「ほら良い事だってよ」


「なんで連理君はそっち側なの!?」


どっちに着いた覚えもないが。


「冗談だ冗談。まだゲームしてねぇしな」


「っち。じゃあ力づくで連れてくまでよ!」


そういい馬がこっちに歩み寄ってくる。


「れれれ連理君!?ここえだじえおう!?」


愛衣がてんぱって何を言ってるのかわからない。


誰も居なかったら応戦してもいいんだが、生憎ギャラリーが多すぎる。変に目立つのは避けたい。


これは逃げの一手か。


「めんどくせぇな。逃げるか?」


「ににににげよう!」


という事なので逃げることにしよう。少し癪だが、仕方のない事だろう。愛衣にまで迷惑を掛ける訳にはいかない。


「いや、待てよ。お前ってほぼ毎日ここに居るんだろ?大丈夫なのか此奴らに目を付けられて」


俺がそう言うと愛衣はなにやら思う事があるのか渋い顔をしながら言う。


「た、確かに。でも来るのを暫く控えたら大丈夫だよ」


..............愛衣が此処に来るのは何か理由があるのでは無いのだろうか。

此奴には此奴の事情があるんだ、迷惑を掛けるのは後味が悪い。

となるとすることは一つ。


「しゃあねえ。愛衣、あいつ等おびき寄せるぞ」


そうなればあいつらを人気のない所でヤる必要がある。


「おびき寄せるってなにするの!?」


「何言ってんだ。ぶちのめすに決まってんだろ」


それが今一番都合が良く行く方法だろう。知らんけど


「愛衣あの馬達を適当にショッピングモールの外にある裏路地に連れていくぞ」


理由は何だっていい。適当について来させれば俺たちの思い通りだ。


「え?え?どういうことどういうこと!?」


「あいつらが一生ここに来れねぇようにぶちのめすんだよ」


「おいお前ら!何ひそひそ喋ってんだよ」


「少しな、愛衣がお前らの相手しくれるらしいぞ良かったな」


俺は愛衣に耳打ちをする。


「りょ、了解」


「へへ、分かってんじゃねぇか」


下卑た笑みを浮かべながら馬が言う。


「じゃあ俺はこれで失礼するぜ?」


「早くどっか行け!」


なんとも失礼な男である。確かにモテなそうな風貌をしているが。


一応愛衣には何かあったら直ぐに助けるとだけ伝えておいた。


これから俺はこいつらにバレずに尾行していく必要がある。それはさほど難しい事では無いだろう。


が、こいつらが愛衣に素直に従うとも思えない。暫くは様子見しておこう。


「は、恥ずかしいから人気のない所の方がいいかな~」


声を震わせながら言う愛衣。怖いのも無理はない。複数の男に囲まれて下卑た視線を浴びている訳だ。これからは少し優しくしてやろう。


別に今まで意地悪をしていた訳でもないが。


そんな訳で愛衣の言葉を違う意味に捕らえた男どもが一斉に出ていく。


こんだけ居たら見失うことも無いだろう。仮に巻かれてもどこにいるか愛衣から連絡が来るだろう。


くあ~眠い。なんか眠くなってきたわ。


そうこうしてるうちに男たちはショッピングモールから出ていく。


閉じかけの目を擦りながら追いかける。

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