19話
俺は女に案内され、下層区域へ向かっている。
「そういえば、あなた名前は?」
「連理だ。上の名前は無いから連理って呼んでくれ」
「わかったわ。あたしの名前は梓よ。気軽にあーちゃんって呼んでちょうだい」
「わかったよ梓」
「あら連れない子」
なんて冗談を言い合っている内に周りの雰囲気がガラッと変わる。
「此処が下層区域か。確かに雰囲気から違うな」
「気を付けて。いつ襲われてもおかしくないわ」
物騒なこった。
「助けてくれっ!!誰か!」
男の助けを呼ぶ声が聞こえる。
「無視しなさい。一々構ってたらキリがないわ」
よく見ると襲われている男はさっき唯をナンパしていた男だった。
取り巻きは既に死んでいるのか気絶しているのか、周りで倒れていた。
「はっ。自業自得だなバカが」
ここは梓の言うとおり無視して進むのが良さそうだ。
暫く歩いただろうか。少し町が明るくなった気がする。
此処は…闇市か?
「ここは?さっきに比べて随分活気にあふれているが」
「ここはここに住む人たちの市場よ。欲しいものはここで手に入れるの」
なるほどな。下層区域にも市場はあるのか。勉強になった。
「ここは安全そうだな」
「そうでもないわ。よく盗みで人が殺されているもの」
流石の治安といった所だな。
市場から少し進んだ所に集合住宅が並んでいた。
ここが孤児院か?
「ついたわ。ここが孤児院よ」
「孤児院にしては部屋が多くないか?」
「周りに行き場のない女が住んでいるのよ」
下層区域では女一人では生きていけないからだろう。群れていた方が襲われにくいって言うのががあるだろうな。
「あ~あーちゃんだー!!!」
子供が走ってくる。
「こら!あーちゃんじゃなくてお母さんでしょ!」
意外としっかり母親しているんだな。
「あーちゃんこの人だれ!もしかしてお父さん!?」
失礼な間違いをするガキだな。年齢を考えろ年齢を。
「今何か失礼な事考えたわね?」
「い、いやなんでも」
女の勘はいつも鋭い。実に厄介だな
「あとお父さんじゃないわ。連理おにいちゃんよ~」
こっちに丸投げするつもりだ。
わらわらと子供たちが近寄ってくる。
「おにいちゃんかっこいいねー!あそぼー!!」
遊ぶことが俺に与えられた任務なので仕方ないが、付き合ってやるとするか。
。。。。。
「おにいちゃんよわーい!!」
「な、なんだと.......」
此奴ら!なかなかやるじゃねぇか!!!
俺たちは絶賛トランプでババ抜き中だ。
が、既に俺は10連敗。
何故だ?何故勝てない!?
「ガキども異能使ってるな!?そうじゃなきゃ説明できん!」
「ぎゃはは!!異能はまだ使えないよ!」
むきー!!こうなったら力ずくだ!
「ほら、これで俺の勝ちだ!ガキどもが、大人を舐めるんじゃねぇ!」
子供たちから無理やりカードをはぎ取り、ジョーカーをガキの手に渡らせる。
「ずるーい!!反則だよおにいちゃん!!」
「わっはっは!これが大人の力というものだ!」
「あなた、案外楽しんでるわね.......」
「………。」
梓が声を掛けてくる。断じて楽しんでなど居ない。ガキどもに大人の力を教えてやっただけだ。
「俺6時までにショッピングモール行かないと行けないからそこだけはよろしくな」
「わかったわ。一人で帰れるわよね?」
「当然だ」
子供たちと楽しんだので、そろそろ麗との約束のデートに向かおうとしよう。
「またなガキども。次あったときはもっと大人の力ってやつを教えてやるよ」
「えー!おにいちゃん帰っちゃうの……?」
そんな泣きそうな目で見るな。
「こら。文句言わないの」
ありがとう梓。今度からはあーちゃんと呼んでやろう。
「連理、ありがとうね。こんな事頼める人いなかったから助かったわ」
「こっちこそな。助かったぜ」
手短に別れを告げ。約束の場所に向かった。
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予想外に時間を取られたな。
既に時刻は5時前だった。約束は夜の6時からなので、急がないといけないだろう。
「ショッピングモールの入り口だっけか。ギリギリ間に合うだろ」
汗臭いのはどうしようもないな。色々あったしな。
まあデートって言ってもお礼みたいなもんだ。すぐ解散するだろう。
そんなことを考えながら俺はショッピングモールへ全速力で向かった。
「すまん待ったか?」
多分ちょっと遅刻した気がする。時計を暫く見てないから分からんけど。
「いえいえ!私も今着いたところです!」
そんな訳無いと思うが、俺を気遣ってか今着いたことにしたらしい。
「今日はどうするんだ?」
そういえば何をするのかは決まっていない。麗のなかでは決まっているのかも知れないが。
「今日はですね、ディナーをご馳走しようと思いまして…..」
ほう。確かに、謝礼としてはメジャーだろう。物欲が特にない俺からしたら一番のお礼かもしれない。
「ほほう。それは楽しみだぜ」
「あ、あああの!連理さんって休日とかってどうされていますか!?」
なんかきょどりながら聞いてくる。やはり少し晴香に似ているような気がする。
「休日か....どうしてんだろうな。俺にも分らん」
そういえば俺って何して過ごしてたんだろうな。記憶もないし、拷問されてたくらいしか覚えてないぞ。
「で、ではお暇な時は、また誘っても良いでしょうか…?」
「別に問題はないが…俺なんかと一緒に居ても特に楽しくないぜ?」
「そんなことないです!連理さんはユーモアで私なんかと話してくれて…」
やっぱ成金には厳しいだろうな。本当にしょうもない奴らだな。
「お前がそう言うなら俺はいいぜ。だが土曜は厳しいかも知れないな」
「連理さんのお暇な時で大丈夫です!私はいつでも大丈夫ですけど......」
ようするにボッチってことか。
まあ基本俺もそうだが。
「では予約してあるので向かいましょう!」
既に予約がしてあるのか。
「因みに何料理なんだ?」
「今日はイタリア料理のお店を予約しました!私が前食べた時に凄くおいしかったので連理さんにもと……。連理さんは何か食べれない物などありましたでしょうか?」
「特にないぜ。いいチョイスだぜ」
丁度ピザでも食べかった所だ。
暫く歩くと雰囲気のある店に着いた。確かにイタリアぽい見た目の店だ。
「くぁ!腹が減って来た!」
店の中に入るとトマトを主軸としたいい匂いが鼻を刺激する。
昼におにぎりを食べたくらいなので腹が鳴る。
「ふふっ。連理さんって意外にも食いしん坊さんなんですね」
麗が何が可笑しいのか笑う。
「俺の楽しみは食だからな」
「良いことを聞いちゃいました。今度は私の手料理をご馳走出来たら……」
なにやらぶつぶつと呟いている。
「これはこれは、麗様。すぐにお席を案内させていただきます」
初老の男が出てくるなり、席に案内をされる。
「あ、ありがとうございます。連理さん行きましょう」
俺たちは席に案内されメニューを見る。
ふぅむ。食べたことが無い物しかないが、何が美味しいのだろうか。
「麗のおすすめとかってあるか?俺イタリア料理なんて食ったことないからな」
「そうなんですか?では、私の大好物でも大丈夫でしょうか?」
「ああ頼む。気になったがこの時間に中学生が一人で親は許してくれたのか?」
麗は中学生だ。普通ならばこの時間に一人で出歩くことなんて許されないと思うが。
「父には伝えました。ですが、父はいつも忙しいので家に居ないことが多いんです….」
「母親とか他にも家族がいるだろ?」
「母は入院していて家に居ないんです。もう十年近くあえてません…」
「会えてない?お見舞いに行けないってことか?」
「そうなんです。だから私は家に居ても一人でした」
母親に会えず、父親の帰りは遅い。年頃の少女には聊か酷って奴だな。
虐められても親にも相談できずってところだな。
「寂しいのか?」
「…もう慣れました。そんな事より、連理さんの事を聞きたいです!」
慣れたか。そんなことは無いと思うがな。
まあ此奴が言うならそう言う事にしておこう。
「何が聞きたい?特になんもないぜ」
「れ、連理さんと翼様の出会いからとか........」
「はぁん。出会いねぇ」
言うべきかどうか迷うな。表ざたになっていないって翼も言ってたしな。
少し濁して言えば大丈夫か。
「翼に助けられたんだよ。俺が虐められている所をな」
濁すと麗との出会いと概ね一緒になってしまった。
「私と似てますね…。でも凄いです。翼様も連理さんも」
「何がだ?」
「私の事を助けてくれたり、翼様は連理さんを助けたり…凄いです」
助けたか。まあ此奴がそう思ってるならそうしておこう。
別に助けたわけじゃ無いんだからね!
「あ、料理が来ましたね」
運ばれてきた料理はどれもとても美味しそうであった。
イタリアつったらピザとパスタだよな!
「うっま!イタリア料理なんて初めて食ったぜ」
「お口に合ったようで良かったです!私もここの料理は大好きなんです」
いやぁ、記憶に新しいのが咲良の料理とネズミだからなぁ。
最近はうまい飯が食えて幸せだぜ。
そこからは食事を楽しんだ。麗は一人じゃないことが嬉しいのかずっとにこにこと笑っていた。
普段の麗より一層可愛いじゃねぇの。
。。。
「今日はありがとうな。流石に送ってくぜ」
「ありがとうございます。本当に連理さんは……」
連理さんは?
「毎日は無理だが、まあ暇があったら何時でも付き合うぞ」
「連理さん……。そう言ってもらえて私……でも翼様に迷惑が掛かるといけないし…」
「気にすんな。翼だって邪険にすることは無いだろ。翼の屋敷に今度誘ってやるよ」
「そんな、悪いです。私翼様と接点ありませんし…」
俺という接点があれば十分だろと思ったが言わないことにした。
「気にすんな俺が言ったんだ」
それっきり麗は俯いたまま喋らなくなってしまった。
麗の横をゆっくりと歩きながら空を見上げる。
夜空ってのは寂しい色をしてやがる。この空を一人でずっと眺めてたら寂しくなっちまうよな。
年端もいかない少女にそんな思いをさせる訳には行かないよな。
「此処がお前の家か?俺はそろそろ帰るぜ。またな」
「はい....。おやすみなさい連理さん。ではまた」
泣き顔を見せたくないのだろうか、麗が振り返ることは無かった。
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