18話
土曜日が来た。作戦決行の日だ。
計画は入念に組んできた。
今は既に朝ご飯を終えている。すぐにでも下層区域に向かおう。
といっても勿論簡単ではない。
上層区域から出るには基本的にゲートを通る必要がある。
しかし、それは出来ない。俺一人で上層区域の外に出るのは許されないだろう。
が、出る方法はある。
ショッピングモールを利用する。あそこは既に利用しているし、あそこのゲートは俺だって行った事があるしな。
ショッピングモールを利用して中層区域に行き、そこから下層区域へ直行すればいい。
「さて、そろそろ行くか」
咲良から弁当を作ってもらっている。準備は万端だ。ありがとう咲良よ。
。
。
。
ショッピングモールに着いた。
俺の思惑通り中にはすんなりと入ることが出来た。入ることが出来た以上中層区域に行くことは叶う。
思ったよりも迷路みたいだ……。
唯一の誤算があったとすれば、このショッピングモールが広すぎたことだろう。完全に迷ってしまっていた。
「地図はどこだ!地図は!」
全く地図が見つからない。全く!地図を全フロアに置いておけ!
「あの....迷ったなら案内しますよ!」
誰だ。知らない女が話しかけてきた。
しかし、これは助かった。これでショッピングモールから出ることが出来るだろう。
「良いのか?俺は助かるが」
「全然大丈夫ですよ!どこ行きたいんですか?」
「此処から出たいんだ」
俺がそう言うと女は呆けた顔をする。
まあ、確かに自分でも可笑しいとは思うが。
「はあ…。でもわかりました!」
そんな訳で案内役をゲットすることに成功した。
「あのぉ、お名前ってなんて言うんでしょう」
「連理だ。案内助かったぜ」
「いえいえ、お気になさらず。連理さんって言うんですね!素敵です!」
「よくいる名前だろ。お前は何て名前なんだ?」
「私は愛衣!竜ケ崎愛衣って言います!」
うお。キラキラした顔で答えられる。
「そ、そうか。なんでショッピングモールに?」
毎日誰かを案内している訳では無いだろう。
此奴には此奴の用事があったのではないだろうか。
「あ~暇だったから?みたいな」
てへっとした顔で言う。結構可愛い。大学生くらいの見た目だが、思ったより子供っぽい印象もある。
「愛衣は大学生なのか?」
「そうだよ!でも良く分かったね!」
「なんとなくだけどな」
「連理君は…大学生よりちょっと大人びているね」
連理君に代わってしまった。
そういえば俺何歳なんだろうな。まあいいか適当で。
「22才だ。そんな変わんねぇだろ」
「私が18歳なので結構年上ですね!」
大学生になったばかりってことだな。
「愛衣は中層区域に住んでるのか?」
「そうだよ~。連理君はもしかして上層区域に?」
「まあな。まあ居候してるだけだが」
「もしかして凄くお金持ちとか!?」
「無一文だ」
あきらかがっかりしたような感じだな。
「こんなイケメンで金持ちな訳ないか~」
「失礼だな暇人め」
ったく。金なんて幾らでも稼げるっての
「冗談冗談。連理君は彼女さんとかいる?」
「ああ、子供のころから結婚を約束した奴がいるんだ。ゴン・キーブリーって言うな」
「それ本当?」
「冗談だ真に受けるな」
「うわ。結構女の扱い慣れてる感じなんだ」
「あいにく生まれてこの方彼女なんて出来たこと無いがな」
嘘か本当か俺にも分からないからな。適当にやり過ごそう。
「絶対嘘だ~。5人はいたでしょ」
「居たとしても記憶に残ってないけどな」
記憶が無いからな。
「うわ~悪い男だ」
「バカが俺以上に善人な男なんて存在しないぞ」
全く人を見る目が無い奴だ。
「そろそろ入り口つくよ!」
そろそろ中層区域に出られると言う事だろう。
「助かったぜ。ありがとうな」
本当に助かった。広すぎるんだよな。
「どういたしまして!それよりなんで中層区域に?」
まだ付いてくる気なのだろうか。
「ちょっと用事がな」
これからは下層区域に行くため付いてこさせる事は出来ない。
此奴に何かあったら申しわけないからな。
「案内がいつ用ならいつでも言って~!これあたしのメアド!」
そういい紙を渡される。メアドというと、携帯でやり取りする奴の事だったか。
あいにく俺は携帯を持っていないため、連絡をすることは無さそうだ。
「ああ。何かあればまた頼ることにするよ」
愛衣と別れ下層区域に向かう事にする。
本に書かれていた内容が本当ならば、下層区域と中層区域の境目は曖昧だ。
急激に治安が変化する所が境目と言って良いだろう。
本に載っていた所は、どっかのビルの裏だったが、そのビルがどれか分からないため、ある程度は勘で行くしか無さそうだ。
「とりあえず、路地裏彷徨ってたらつくだろ」
路地裏ってなんか治安悪そうじゃん?
治安悪い方に行ってたらいつか着くだろう作戦だ。完璧だろ?
そんな訳で絶賛路地裏で迷….捜索中だ。
上層区域には無い光景が多くてな、ちょっと寄り道しまくってたらこうなった訳だ。
「これは風俗店か。こっちはキャバクラね」
路地裏にはそういった店が大多数だった。キャッチは居ないな。路地裏に来ている時点でキャッチする必要ないんだろう。
逆に表にはキャッチが一杯いるだろうが。
「やめてください!離してっ!!」
あん?
風俗街に悲鳴が響き渡る。
なかなか面白そうじゃないか。
「離してじゃねぇよ!早くついて来いよ!」
男が女の手を掴んでいる。
その周りを男の仲間らしき男たちが囲んでいる。
こんな所だから誰も助けようとはしない。厄介事お断りの雰囲気を皆が漂わせている。
「はっ悪趣味な奴だな」
取り敢えず此処からじゃ良く見えない。もう少し近づこう。
そうして問題が発生している場所に近づく。
あれは…唯か?
喧噪の中心に居たのは九折坂唯だった。
なんでこんな所に居るんだあいつ。
取り敢えず放っては置けないな。
「おい。俺の連れになんか用か?」
「れ、連理さん!?何故ここに」
「何故ってそれはこっちのセリフだ馬鹿」
唯がポカンとした表情で言う。
「あ?連れだぁ?関係ねぇよそんなんはな!」
唯の腕を掴んでいる男が言う。明石君と違い喧嘩慣れしてそうだ。
体つきからして違う。
「取り敢えず手を放してくれ。唯が痛がってるだろ」
「うるせえよ!邪魔すんじゃねぇ!」
男は激高しながら殴りかかってくる。
「血の気多すぎだろ!?」
取り敢えず俺を殴って来たことで唯から手を離したな。
「唯、俺の手を掴め」
「は、はい!」
唯の手を掴み全力で引き寄せる。
「わぷっ!」
唯が変な声を出すが構わず抱きかかえる。
「我慢しろよっ!このままこっから出る」
殴りかかってきた男の頭を飛び越え走る。
「なっ!?クソ!お前ら追うぞ!」
後ろから物騒な声が聞こえる。全く変な問題ばっか降りかかってくる。
「おい唯。案内頼むぞ。」
「わかりました!そこ右です!」
路地裏の迷路を進んでいく。
暫くしたら後ろからの声も聞こえなくなっていた。
「なんであんな所に居たんだお前」
もしかしたらキャバ嬢とか風俗嬢なのかとも思ったが、そうでは無いだろう。
「それは…言えません」
「助けてやった俺にもか?」
特別な事情があるのだろうか、俺には知る由もないがこのまま終わりという訳にはいかない。
「これは私の問題だから…」
「問題ねぇ。こうなった以上俺だって無関係じゃ無いだろ?」
巻き込まれたんだぜ?まあ実際には巻き込まれに行ったんだが。
「でも…連理さんにまで迷惑を掛ける訳には....
「迷惑結構。翼がお前に何かあったら悲しむだろうが」
此処は翼の名前を出して引き出そう。
「そう.....ですね。でも本当に誰にも迷惑は掛けたくないんです」
「いいから話してみろよ」
「はい......。その、少し前の事なんですけど」
そこからは唯の話を静かに聞いた。
話の内容は掻い摘んで話すと、探し物だな。
昔、翼から誕生日プレゼントでもらった腕輪を少し前にショッピングモールで無くしたらしい。
何故ここに居るのかは、先ほどショッピングモールで探してた時にあの男たちに声を掛けられたって訳だな。こっちで探し物の腕輪を見たって言ってな。
まんまと付いて行く此奴も此奴だ。
「全く、危機感ってものがねぇのか」
すみません…と蹲っている。
蹲っているせいか胸の谷間が見えてしまっている。
「でも連理さんもなんでこんなところに?」
むむ。そういえば言い訳を用意していない。
素直に下層区域に行きたかったですなんて此奴に言えない。
どうするか。
「あー暇つぶしだよ暇つぶし。さっきショッピングモールに居たんだけどな、迷っちまったんだ」
「迷ったって…全然場所違いますよ」
「中層区域なんて来ないからな。迷ったんだ」
事実ではある。重要な部分は伏せておくが。
「お前俺が居なかったらどうしたんだよ。マジで危なかったぞ」
「それは…ごめんなさい……」
謝れる元気があるなら大丈夫か。
「お前の落とし物は俺が探しとく。お前は帰るんだ。危ないぞ」
取り敢えず今は帰らせよう。
「上まで送るから今日は家に帰れ」
「わかりました。すみませんホント…」
そんなこんなで下層区域の調査は遅れに遅れた。
。。。
「ここまで来ればもう帰れるか?」
ショッピングモールの上層区域側の出口に着いた。
「はい。本当に今日はありがとうございました」
「懲りたなら一人では行くなよ?どうしてもって言うなら俺を連れていけ」
一人で行かれるよりは良いだろう。
「でも...流石に連理さんに迷惑を掛けるのは...」
「勝手に行かれる方が迷惑だ」
「……わかりました。その時は頼らせていただきます」
「次一人であそこに居たら尻揉むからな」
「えっ!?なんでですか!?」
「当たり前だろ。罰だ罰」
今から揉んでやろうか。
「じゃあわかったなら気を付けろよ?次何かあっても助けれるとは限らねぇぞ」
「それは…わかりました」
口酸っぱく注意をしたところで別れた。
この経験は唯にとって成長になってほしいと願うばかりだ。
「さてと、戻るか」
俺は下層区域の調査があるため、今からまたあそこの風俗街に戻る必要がある。
まあこっからだと全速力で30分くらいってところだな。
「その前に、飯だな。もう昼じゃねぇか」
咲良にもらったおにぎりをポケットから取り出す。
「おっ、中身は梅か。分かってんじゃん」
梅干しは良い。栄養価も塩分も取れる。白米にもバッチリ合うしな。
やっぱ咲良は解っているな。
ご飯を食べながら風俗街への道を走っていく。
「ここらへんだな」
先ほど唯が絡まれていただろう所に戻って来た。
男たちは既にいない。
下層区域へ行く道を聞くのも良いな。ここに居る奴らに聞いても特に問題はあるまい。
「すまない。下層区域への生き方を知りたいんだが」
手始めに頭がつるつるの親父に声を掛ける。
「あ?知らないよ。なんだってそんな所に?」
「ちょっと用があるんだよ。知ってることがあれば何でも教えてくれ」
「知ってることね。ああ、そういえばラブリスって店の嬢が下層区域出身だって話を聞いたことがあるな。名前は思い出せないけど」
ナイスだおっさん。
「その店はどこにあるんだ?」
「ああ、それはね…」
ラブリスへの道を聞き出すことに成功した。
「助かったぜおっさん。せいぜい今日は愉しむんだな」
おっさんと別れ店へと向かう。
生憎金はないため、門前払いされる可能性もあるが。
「ここか」
俺はラブリスの中へと入る。中にはパネルが並んでいるが今は後だ。
「すまない。少しきたい事があるんだが.....だれか居ないか?」
俺がそう言うと奥から男が出てくる。
「何か用ですか?あんたは一体……」
「すまないな。下層区域出身の女が居るって聞いたんだが…居るか?」
「……。仮に下層区域出身の子がいるとしてもどんな用で?」
「下層区域への生き方を聞きたい」
端的に告げる。ここで嘘をついても意味が無い。
「ああ、後金はない」
一番重要な事だ。あとから金を払えとか言われても無理だからな。
「少し待っててください。オーナーに伝えてきます」
そういい黒服は奥に戻っていった。
暫くすると奥からとんでもなくグラマラスな女が出てくる。
「あなたが下層区域に行きたいって子?イケメンじゃない」
「あ?なんだ急に。教えてくれるのか?」
「そうねぇ。私の事抱いてくれたら考えるかも」
なんだこの女は。
「さっきも言ったが金は無いぞ?」
「大丈夫よ。これは一つの契約みたいなもの」
契約だ?セックスが契約ってどういう事だ。
「どういうことだ?」
「私の異能よ。えっちした相手の記憶を見ることが出来るの」
それで俺が信頼できるかどうかを見定めようって事か
「いいぜ。でも手短にな。急いでるんだ」
「勿論よ。私はプロよ?」
はっ!どっちが優位に立てるか教えてやろうじゃねぇか。
。
。
。
「なかなかやるじゃない......」
「そんなことはどうでもいい。下層区域への生き方教えてくれ」
頬を上気させながら女が言う。
「そうねぇ。でもあなた程のイケメンを行かせるのは気が引けるわ~」
「セックスしなくても異能使えるだろお前」
此奴がセックス中に異能を使ったそぶりを見せなかった。ブラフだった訳だな。
必要な経費だったと自分に言い聞かせよう。
「あら?バレた?いいわ。教えてあげる」
でも、と繰り返し続ける。
「条件は月一回私の家に来ること。それが無理ならばこの話は無しよ」
すっげー!面倒くさい!!!なんだこの女。嫌すぎる
「えぇぇ」
「どうするの?」
「……わかった。条件を飲もう」
仕方がない。今は下層区域に行くことが最優先だ。契約なんて反故にすれば良いだけだ。
「そうそう、私の異能ってえっちした相手と契約を結ぶことなのよ。破ろうだなんて考えてないわよね?」
「…………破ったらどうなる?」
「さあ?どうなるんだろうね~♡」
嵌められてしまった。これは後々面倒臭いことになりそうだな。
「安心して。ガキたちと遊ぶだけよ」
「ガキ?どういうことだ?」
「私の家って孤児院なのよ」
そういう事か。子供たちの遊び相手として俺を来させようってことか
「まあいいけどなそれくらいなら」
「報酬は出すわ。月20でどう?」
「あ?別に要らねぇよ」
契約は契約だ。そこに報酬なんて無かった。
「無欲なのね。契約成立よ」
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