第13話

昼食後に俺は暇つぶしの為学園内をふらふらとぶらついていた。


といっても授業している所をうろつくのは気まずいので人が居なさそうな所を探検していた。


「広すぎて何回迷っちまったかもう忘れちまったぜ」


体育館の周りを探検していたら迷宮みたいな構造の為何回も迷ってしまってた。


探検という名の迷子になっている所人気のない倉庫から声が聞こえてくる。


何やら穏やかではない様子の声だ。


「ったく。物騒なとこに迷っちまったもんだぜ」


なんて言っているが自分の足は声の発生源へと歩みを進めていた。


最近は平和だったからか、心臓の鼓動が少し早くなる。まるで闘争を求めているかのように。


声がする方に近づくと会話の内容が少し聞き取れるようになる。


「ちょっと様子みるか…」


いきなり入っていくのもな。ここは少し様子を見るのが賢明だろう。


「可愛い子ぶってんじゃないわよ。そういうとこホントむかつく」


女の声だ。少し若いためここの学生であることは間違いないだろう。


会話の内容的に女同士の諍いだろう。


女の嫉妬か、ただの喧嘩かはまだ分からないが。


「やめて…….」


弱弱しく喋る女。気配の数は5…いや6だ。


という事は弱々しく喋る女が5人に咎められているという事だろう。


「もうやっちゃおうよ凜ちゃん。成金なんて虐めても問題になりっこないよ」


なるほど。一際声のデカかった女は凛って名前らしいな。


取り巻きだろう女が放った言葉からできる限りの情報をくみ取る。


「成金に厳しいのはイメージ通りだぜ。全く」


虐められている奴は成金の家庭に生まれたのか。確かにこの上層区域の学園に通うお嬢様たちからは良い印象は持たれなさそうではあるな。


学園初日にこんな面白いことが起こるなんてついてないぜ。


しばらくこの会話に耳を傾けよう。無駄に助けることが必ずしも良いこととは限らない。


それに俺は善人ではないからな。虐められてい奴がどうなろうと知ったことではない。


そんなことを思っていると中ではヒートアップしてきたのか、喧噪が激しくなる。


「私の異能って一時的に力が凄く強くなるんだよね。その力でビンタしてあげる」


凛とか言う女がそう言う。翼と似たような能力なんだろうか。


病院で翼にビンタされた俺はその凄まじい膂力を知っているため、一人憐れむ。


「いやっ!顔だけはやめて!お願いします……!」


あの力で殴られれば確かに無事で済まないだろう。暫く顔に痣が出来るのではないだろうか。


それを理解しているんだろう。虐められている女は目立つ場所である顔への攻撃を止めさせようとしている。


「面白そうじゃねぇか」


俺はもう待つべき理由もないため倉庫の中に侵入する。


倉庫が開く音が聞こえてか、6人全員の視線が俺に集まる。


「なんだよお前ら全員吃驚したような顔して。続きしろよ」


俺という部外者が来て女達はぎょっとした様子でこっちを見ている。


「だれよあんた!高等部は今授業中じゃないの!?」


此奴らは中等部だろうか。制服のリボンの色が翼と違っていた中等部の校舎に入っていった奴らと同じリボンの色をしていた。


「俺はここの学生じゃねぇからな。かといって先生ってわけでもねぇぜ?」


こんなナイスガイな先生が居ればたちまち噂になるだろ?


「だったらどっか行ってよ。私たちに関わらないで!」


この状況で色々と喋りかけてくる。


「なんでだよ。俺も混ぜてくれよ。別に誰かに言おうなんて思ってないぜ」


実際誰かに報告するだなんて思っていない。面倒くさいからな。


「あの、私のことは良いですから…」


凛とか言う女とその取り巻きに囲まれていた女が言う。


その少女は小学生とも中学生とも言えそうな見た目であった。平均的な黒髪黒目、しかし顔立ちはとても端正で美少女と呼ばれるものだった。


「あ?誰もお前を助けようだとか思ってないぜ。面白そうだったからな見物させてもらいに来たんだよ」


そう言うとなんかがっかりしたように項垂れる。あの感じは助けてくれることを期待していたんだろうな。分かりやすいこったな。


「何なのよこいつ…。バレたら私たちどうなっちゃうのよ…」


凛が言う。別に言いふらすつもりなんて無いんだがな。先ほども伝えた筈なんだがな。物わかりの悪い少女らしい。


取り巻きも深刻そうに顔を俯かせる。


「何も悲観することはないぞ。部外者である俺を排除すれば今までと変わりないからな」


この言葉が意味することを理解したのだろう。女たちが何やらぶつぶつと喋っている。


「あの、お兄さん逃げた方がいいです…」


この状況で自分ではなく俺の心配をするとは中々肝が据わっている少女である。


「なんでだ?いいから黙って見とけ」


この状況にしたのは俺の意図通りだ。暴力の標的を少女から俺に変更させる。


理由は何個もあるが、第一は様々な異能を見たい事だな。標的を俺にしたのは異能を俺に使ってほしかったからである。


異能を使われることで俺の異能が思い出せる可能性もある。そうなれば一石二鳥だ。


「あんたたち!あいつをやるよ!」


凛達がこちらに向かってくる。取り巻きの内何人かは離れた位置に着く。遠距離で使用するタイプの異能なんだろう。


直ぐに戦闘態勢を取れたことは評価しても良いんじゃないだろうか。


「おいおい、物騒だな!俺は今日ここに来たばっかっていうのに」


適当に相手を焚き付けつつ俺も戦闘態勢に入る。といっても子供相手に本気でやろうとは思っていない。


「はっ!」


凛が異能を発動させたのだろう。少女には似つかわしくない速度で俺に肉薄する。


後ろの少女達も凜に続いて俺に近づいてくる。


が、動きは初心者そのものであった。喧嘩なんてしたことがないだろう、そんな少女達の初めての喧嘩なのではないだろうか。


「このっ!逃げないでよ!」


別に逃げてなんていない。そもそも攻撃する意思はあまりなかったのだろう。攻撃を動いていない俺を掠めていくだけだった。


人を傷つけるのは思ったよりも勇気がいる物だ。この少女たちは今それを実感しているのではないだろうか。


「傷つけるのは怖いか?怖いだろ。それが普通なんだよ」


躊躇いなく傷つけることが出来る奴は異常者だ。上層区域で育った以上倫理観は人並み以上あるだろう。


虐めもどうせ思春期特有の些細なことからだろうな。まあそれで虐められる方はたまったものじゃないだろうがな。


「くっ!許さない…!」


別に許しを請った覚えはない。


頭に血が上りすぎなのか、顔を真っ赤にして俺に仕掛けてくる。


「俺と力比べか?いいぜ乗ってやるよ」


俺につかみ掛かってくる凜。その膂力はとてもじゃないが少女のものとは思えなかった。


骨が軋む音がする。


異能の力が途轍もないという事を再確認できた。


が、俺も負けるつもりはない。


「なかなかやるじゃねぇか。力比べといこうか」


そういい掴まれた腕を俺は掴み返す。


途轍もない膂力で掴まれているが、その腕が徐々に離れ始める。


「え!?ありえない!あんたもそっち系の異能ってこと!?」


凜が何やら叫ぶが、その憶測はたぶん外れだろう。俺の異能が何であるかは俺すらも知らないんだからな。


「さあな!ったく、痛かったぜ?」


腕を完全に引きはがすことに成功する。俺の腕は凛の指の跡がくっきりと残っていた。


凜の膂力を引きはがした俺を見てからは取り巻きの少女たちは臆しているのか、凜の後ろでオドオドした様子でこちらを伺っていた。


この様子じゃ既に勝敗は決したも同然だな。少女たちの戦意は完全に恐怖に代わっていた。


「に、逃げようよ…」


取り巻きの一人がぽつりと零す。


「っ!そうね…」


そういい俺が立っている方向と逆の方向に走っていった。


「あっちにも扉あるんかい」


呆気なく終わった事に少しがっかりする。


結局見れた異能は凛の怪力だけだった。


「あ、あのっ!ありがとうございましたっ!」


囲まれた少女がこっちにやってきて礼を述べる。


身長は150㎝も無いだろう。晴香より少し身長が低い。


「まあもうあいつ等も無茶な事出来ないんじゃねぇか?」


これ以上ここに居ても特に何も無いため一言告げて去ろうとする。


「ま、待ってください!あの…お礼をさせて頂けませんか?」


律儀な奴だ。


「そんな事気にすんな。ただの気まぐれだ」


尚食い下がろうとする少女に対し俺は背を向けながら倉庫から離れる。


倉庫から出た俺は追いかけられることを考慮し、倉庫の屋根へ上る。これで仮に少女から追いかけられても撒く事ができる。


案の定少女は追いかけてきたのか、倉庫から出てくる。


「あれ?あの人は??」


困惑しているのかその場に立ち尽くす。


俺が倉庫の屋根に居るとは思いもしないだろう。


暫くその場できょろきょろしていたが、俺がいないことを悟ったのか中等部の校舎へと向かう道へ向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る