第11話
俺は別れた後、学園のマップを見ていた。
「しかし、こんなデカかったら迷っちまう」
具体的なデカさは解らないが、地図を見なければ確実に迷うであろう広さだった。
「図書館はっと……。」
図書館は低学年棟の横にあるらしい。この学園は小、中、高の学年ごとに棟が存在する。
低学年棟は小学生の年齢の生徒が通う。中学年棟や高学年棟も同じだ。高学年棟は一際広いため、本棟とも呼ばれているらしい。
横と言っても、連接している訳では無く、グラウンドを挟む形で図書館が建っている。ここからだと大体10分ほどだろう。
やはりここら辺は年齢的には少し幼いくらいの生徒が多い。
まだ授業開始している訳では無いため、登校している低学年だろう生徒が複数見える。
俺はそんな児童たちを尻目に図書館に入る。
図書館の中はなかなかに広く、少し中に進むと本がずらりと並んでいた。
本の数は流石というべきか、何万冊レベルの蔵書数であった。
「流石にこれだけあれば時間を潰すのは問題無さそうだ」
俺は学が無い分本などを読むことで補填していく必要がある。といっても記憶が無い部分は知識の部分では無く自分についての記憶が綺麗に無いため、コーヒーやサッカーなどがどんな物かなどは分かる。自分がどこで生まれ、何歳なのか、自分に関することだけ記憶が無い。
「異能について…ここか」
異能について知ることはこの先も必要になるだろう。翼の家にあった書物からもある程度は異能に関する知識は得た。
しかし自分が異能を使えない理由を少し調べておきたかったため、図書館に来たってわけだ。
すこし異能関連に関する本を見ていく。すると一冊の本に目が止まる。
「異能が使えなくなる理由と関係があるか分らんが、なかなか興味深いな」
本のタイトルは異能大全だった。
異能は人それぞれなため、あまり必要ないかも知れないが、どんな異能があるのか調べてみたくなった。
取り敢えず図書館の席に着く。
「うん?なんで学生が居るんだ」
今はもう授業が始まる頃だと言うのに、学生が席に座っていた。後ろ姿しか見えないが、黒いロングの髪なため、多分女だろう。わんちゃん男の可能性もあるが。
なにか特別な事情で授業を受けていないのだろうか。ただのサボりという可能性もある。明石なんかもサボっていたしな。
「よお。こんな所にいて授業はどうした?」
「……………。」
取り敢えず聞いてみる。が
随分本に夢中なのか、ただ俺を無視しているのか反応が無かった。
「おい無視すんなよ。悲しいだろ」
無視されたためもう一回問う。
「え!?私ですか!?」
すると反応が返って来た。実はちゃんと無視されていると思っていたので嬉しかった。
気づいていなかったらしい。
「お前だよお前。お前以外誰がいんだよ」
「は、はい…。話しかけられる事が無いので少し困惑してしまいました」
そういえば図書館は私語厳禁だったか。これは失敬失敬。
「お前授業は大丈夫なのか?もう始まってるんじゃないのか」
「はい。私は既に必要な授業は全て終えましたので、基本的には授業に出なくて良いんですよ」
えっへんって感じで言ってくる。授業をすべて終えたってどういう事だろうか。
「授業は同時進行じゃないのか?今日初めて学園に来たからあまり知らないんだ」
素直に聞いてみる。
「そうなんですね~。基本的には同時進行ですが、私は生徒会ですので先に必要な授業を履修させて頂きました!」
生徒会か。なるほどこんなちんちくりんでも生徒会に為れるんだな。
「なるほどな。だからこんな時間に図書館に居たのか」
「あなたは学園の生徒なんですか?制服を着ているようですが……。」
たしかに。俺も制服を着ているため、傍から見たら学生だった。
「俺はここの学生じゃないな。翼のお守してんだよ。」
「翼ちゃんの!?それは凄いですね~」
凄いかどうかは俺に判断できない。確かに良家のお嬢様だから凄いのかもしれないが、俺は翼の情?というより謝礼?で世話になってる身だ。そこには実力も何も存在していない。
「凄くないさ。ただの顔見知りってだけだ。それに翼は十分立派だろうしな俺が居なくても」
「確かに翼ちゃんは立派ですね~。でも顔見知りってだけであまり人を傍に置くような子でもないんですけどね…」
翼の知り合いだろうか。なにやら翼と面識がありそうな反応だった。
「ああ、そうだ。名前はなんていうんだ?」
一応名前を聞いておこう。
結構有名なお嬢様の可能性もあるしな。
「私は九折坂唯です。一応翼さんとは幼いころから面識がありますよ」
*九折坂…。どこかで聞いたような。
やはり面識があったようだ。幼少期からの付き合いという事は飛鳥に匹敵するくらいの家系なんだろう。どこか知性や品を感じさせる雰囲気をしている。
「俺は連理だ。一応今は翼の家で世話になっている」
相手にだけ一方的に聞き出すのもなんなので、一応名乗っておく。
翼の知り合いならこれからも会う事はあるだろうしな。名乗っておいて損はない。
「連理さんですか。よろしくお願いしますね!」
「ああよろしくな」
それからは2時間くらい色々唯と話しつつ、異能について調べていた。
異能はやはり様々な種類があるらしく、ただ単に炎を出すだけじゃなく、熱くない炎を出す異能だとか、炎に関する異能でも千差万別だった。
異能大全を見ても強力な異能は必ず制約があると言う風に書かれていた。しかしながら、異能の強さは制約が無くても個人差があるらしく、制約なしでも強力な異能は制約のある異能に匹敵するくらいの強さを秘めているらしい。
「異能が使えないってのは異常なんだろうな」
呟くと思ってもみない反応が返ってくる。
「私はできれば異能は使いたくありませんね。無くても生きていけますし」
この時代では異能は便利な能力なため、あまり異能を毛嫌いする奴は少ない。
しかし唯はなんらかの理由で異能を使いたくは無いらしい。
「それはなんでだ?便利なんじゃないのか」
「私の異能は少し特殊で、代償が少し大きいんですよね……」
制約タイプの異能か。すなわち強力な異能を持っているという事だろう。
「使いたくない程に重い代償なのか?」
「はい。私の異能は再生という異能なのですが、万物を再生できる代わりに自身の生命エネルギーを消費してしまうので長時間使用すると生活に影響が出てしまいます」
生命エネルギーか。確かにそれは重い代償だろう。
にしても再生か。強力な異能であることは間違いないな。
異能大全は全て目を通したが再生なんて異能は記載されていなかった。
近い治癒などの異能は記載されていたが….。
「万物の再生ってとてつもないな。それこそどんな怪我でも直してしまえるんじゃないか?」
代償は確かに重いが、神に近しい異能だ。それこそ死んだ人間さえ再生出来るのではないだろうか。
「確かにそうかも知れませんが、能力を使うと途中で倒れてしまうことが多くて…」
なるほどな。生命エネルギーは寿命というわけでは無く、体力もとい活動するためのエネルギーというわけか。
たしかに倒れてしまっては異能は使えない。神とまでは行かないようだ。
「確かにそれは異能を使いたく無いかも知れないな。すまないな変なことを聞いて」
「いえ、全然大丈夫です。連理さんは異能が使えないんですか?」
「ああ。異能に関する記憶がすべて無くてな。使いたくてもどう使えばいいのか分からないんだ」
ここは自分に関する記憶のことは伏せて異能の記憶が無いことにしておこう。
「そうですか….。私も異能が使えなくなるなんて聞いたことがありませんね…」
やはりか。異能が使えなくなったなんて普通じゃありえないだろうな。普通は記憶が無くても使えるだろうからな。俺が特別なんだろう。
「まあこれは、追々調べて行くとするよ。今日はありがとうな」
「はい。またお会い出来たらうれしいです」
取り敢えず話に付き合ってもらったため礼をして立ち去る。
にしても、生徒会か…。相当な権力者なんだろうな。
取り敢えず今の時間はっと……。図書館の入り口にある時計を見る。
現在時刻は10時30分だった。
二時間ちょっと話していたようだな。
「筋トレでもするか」
やることも無いので日課のトレーニングでもしようと思い、外に出る。
悲しいことにこの学園に筋トレ用の器具は無いだろう。あった方が可笑しいのかも知れないが。
過半数は女子なのだから器具を導入しても効果が薄いだろうしな。
今は走ることしか出来なそうだな。
走ることにした俺は誰も使っていないグラウンドをさがす。
幸いなことに高学年用のグラウンドが空いていた。
「昼までは後1時間半か。そこそこ走れそうだな」
今日は一時間半走りこもう。屋敷ではあまり走れなかったしな。
てな感じで昼まで走り続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます