第10話

朝だ。


結局あの後風呂に入れたのは夜中だった。


そのためか体が少し重い気がする。寝不足という奴だろう。


「今日は……そうか、学園に付いて行くんだったな……」


嫌なことを思い出したぜ。


嘆いていても仕方がないので着替える。


「これが制服か?いつの間に置いたんだ……」


俺に気配を悟らせず置いたとしたら相当の手練れだろうな。まあ多分俺がいない間に置いたんだろうが。


メイドの誰かが置いたんだろう。


「なんか不思議な気分だぜ。学生の服を俺が着るなんてな」


俺には縁の無いものと思ってたしな。記憶がなくなる前もどうせ俺は学園に通っていないだろう。普通ならあるような教養も何も無かったからな。


どんな底辺の生まれだったんだ俺は…。自分で考えて嫌になる。


そろそろ食堂に行くか。メイドが来るのを待つ理由もない。


そうして俺は食堂に向かう。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


俺は食堂に向かう廊下で大声で叫ぶ。実に気分爽快だ。


ここまででかい屋敷ならば近所迷惑とかの心配もない。メイド達に怒られるかも知れないが。


「うるさー------い!!!!!!!!!」


案の定だな。咲良が文句を言いに来る。


「あんたバカじゃないの!?」


「俺は多分天才の部類だぜ?」


冗談を冗談で返す。


「頭がいたい……。なんでこんな奴が…」


遠い目をして咲良が言う。


「俺がなんだって?」


少し含みのある言い方が気になった。


「なんでもないわ。朝食できてるから、待ってて」


そういって食堂に入っていった。


「おはよう連理くん!今日から学園デビューだね!」


「デビューしたくなかったけどな」


「いいじゃんいいじゃん制服似合ってる!」


晴香が褒める。


「褒めても手くらいしか出ねぇぞ。」


「危ないよ!手は出しちゃだめだよ!」


「全く、朝から騒々しい奴だな。」


「連理君が原因だよ!?」


訳の分からないことを。


「今日は賑やかですね。」


翼が食堂に入って来た。


「連理さん、おはようございます。今日からよろしくお願いしますね」


「ああ….。これが夢であってくれと今願っている」


頬を抓るが痛かった。


「安心してください。きっと楽しくなりますよ!」


「まあそう思った方が気は楽だな」


学園のことなんて今はもういい。飯だ飯。


今日は卵焼きに鮭か。ザ、朝食という朝食だな。


しかし、単純だからこそ、料理の腕が光るってもんだな。


流石咲良だ。白米が進む進む。


「流石俺の専属のシェフだぜ。毎日うまい飯を出しやがる」


「誰があなた専用よ。ふざけたこと言わないでよ」


「専属な専属。専用にして欲しいのか?欲張りさんめ」


冗談はこの位にしておこう。そろそろ咲良がキレる。


「弁当は頼むぞ。俺の楽しみなんだから」


「あんたの楽しみかどうかはどうでもいいけど、安心して」


実に頼もしい奴だな。


「そう言えば今日は他のメイドは起きてないけど、なんかあったか?」


「今日はちょっと用事があるのよ」


はぁん。なんか気になるな。


「今日はそうでしたか。咲良も気を付けてね」


気を付けて…?なんか危険な場所にでも行くのか?


翼にそんなつもりはないだろうが、上層区域で気を付けてなんて普通言うだろうか。


それこそ上層区域から出る時みたいだ。ただの憶測にすぎないが。


「どこ行くんだ?俺も付いて行くぞ」


あわよくば学園から逃れたい。


「定期健診みたいなものよ。付いてこなくても大丈夫よ」


定期健診行くだけで気を付けてか。薄々気が付いていたが、メイドたちはなんかあるな。


昨日は詮索しないって言ったが、やっぱ無しだ。気になるもんはしょうがない。


しょうがない!


「いきたい!いきたい!俺もいきたーい!」


「駄目です」


おわた。


「朝食を食べたら直ぐに学園に向かいますね。準備は特に必要ないと思いますが、一応」


心の準備は必要だがな。


憂鬱な気持ちになりながら、朝食を食べた。


ー-----------------------------ー-------


今学園に向かっている。


「今日はいい天気ですね。気持ちが晴れやかになります」


確かにいい天気だな。


「だな。そういえば翼は17歳だっけか」


「はい。今は高等部2年に在籍しています。連理さんからしたら子供ですけどね」


ふふっと笑いながら言う。


「俺はまだ若いぞ。そんな年も変わんねぇだろ」


「じゃあ連理さんは何歳なのですか?」


「.............。15歳だ」


「じゃあこれからは私のことはさん付けでお願いね。連理くん」


くそう。俺の記憶が無いことを良いことに。


「間違えた間違えた。25歳だ。お前が敬語を使うんだな!」


「おじさんですね……。わかりましたおじさん」


「……………。やめだやめ。いつも通り行こうぜ」


おじさんは心にくる。まだ決しておじさんと呼ばれるような年齢ではないはず。多分。


「はい、そうしましょう。でも学園の令嬢たちにため口だと怒られるかもしれませんよ?」


そう言って笑う翼がなんか少し怖い。


「口を開かなければ良いじゃねぇか。余裕だ余裕」


そもそも誰とも喋るつもりもない。


「そう簡単に出来れば良いですけどね~。少々変わった人たちが居ますので」


気になる言い方をしやがる。


暫く歩いただろうか。やはり人通り自体は殆どなかった。


あの少し先に見えるデカい建物が学園だろう。


叢雲とか言う奴が理事長だったっけな。


「あともう少しで学園に着きます。学園に着いたら基本的に自由にしてもらって結構ですよ」


「入るときは認証か何か必要なんだっけか」


確かそんなことを言っていた気がする。


「はい。私が既に連理さんを登録してありますので気にする必要はありません」


ちまちまと学生だろう奴らが複数歩いているのが見える。


「仰々しいな。あれはボディーガードか?」


学生服を着ている奴らの後ろにはガタイのいい男や、若い男などが付いている。


「そうですね。普通はあのように護衛を付けますね」


「あのおっさん達も学園に入るのか?」


そうなれば学園はなかなかむさ苦しい空間になりそうだ。


「基本的には学園内は居ませんね。学園に無事に届けることが仕事でしょうし」


なるほどな。マッスル地獄は回避されたようだ。


しかし、俺が少々浮いてしまう気がするが.....。


「心配は要らないですよ。連理さんみたいに少数ですが護衛を連れている人はいます」


そういえばメイド連れてるバカも居るって言ってたな。


「取り敢えず、俺は連理で良いぞ。周りからも変に思われるかも知れないからな」


今まではさん付けだったため、変に思われる可能性がある。


変な関係は間違いないが、翼に迷惑を掛けるのも気が引ける。


「そうですね。ではこれからは連理と呼ばせていただきます」


「敬語も必要ないぜ」


「それは……。敬語が喋り慣れているので難しいかも知れません」


たしかに、メイド達にも敬語で喋っていた気がする。


まあ無理にとは言わないが。


「確かに敬語以外喋っている翼はあまり想像が付かないかもな」


病院でぶん殴られたときは流石に敬語ではなかったが。


「基本的に敬語で喋りますから。連理も敬語で話す姿が想像できないです」


確かにな。必要があるなら俺も敬語で喋るけどな。


「そろそろ着きそうだな。にしてもバカでけぇ」


普通にあのショッピングモールくらいあるんじゃねぇの。


叢雲とか言う奴は相当な金持ちなんだろうな。


「そうですね。やはり生徒も多いからでしょう。小中学生も通いますから」


にしてもデカい。


これは暇をつぶすには問題無さそうだな。


「なんか見られてんな」


学園の近くに来るにつれ、こちらを見る視線が増える。


ちらほらと周りには学生が見える。学園の近くは結構学生がいるらしい。学園近くまで車で来ているのだろう。


「罪な男になっちまったもんだぜ、全く」


「思いあがりも甚だしいですね。(ボソッ」


「え?」


なんか不穏な言葉が聞こえたが聞き間違いだろう。そうに違いない。翼がそんな事言うわけないからな。


「いえ、なんでもありませんよ」


しかし、女が多いような気がする。


「女の方が多いのか?見た感じそう見えるが」


「はい。8割ほどは女性ですね。なぜかは私もよく知りませんが、男性の方はこの学園には通わないことが良くあるそうです」


不思議なもんだな。


翼が知らないならこれ以上聞いても意味が無いな。


そろそろ周りに人がぞろぞろ増え始める。


確かに誰を見ても護衛が後ろに控えていた。


「あそこか」


「はい。あれがゲートです。既に登録してあるので、素通りできますよ」


学園の正門でだろう所は人通りが一際多かった。


そこでは護衛のやつらが学生達と別れ帰っていく。


こそこそと耳にも聞こえる声で話声が聞こえてくる。


「翼様と一緒にいる方は誰でしょうか。許嫁かしら?」


「素敵です……。私も許嫁が欲しいです」


「護衛の方じゃありません?翼様が今までお連れしているのは見たことがありませんが…」


俺らを見て色々憶測を立てているようだ。


まあ異性とあまり接触が無かったらこうなるだろうな。


「俺はこの学園のハーレム王になるんだ!」


「なにバカなことを言ってるんですか……早く行きますよ」


聞かれていたらしい。しかしバカとは。俺ならばこのコミュニケーションで瞬く間にハーレム王になれることだろう。ドヤァ


「っと、悪い」


誰かにぶつかってしまう。


あ?こいつ…なんだっけ。明石だっけか言う男だった。


「どこ見て歩いてんだよ!ってお前あん時の…」


「お前がどこ見てんだよ。俺の高級な服が汚れたじゃねぇか。」


全く困り果てた奴だな。俺の服はオーダーメイドだぞ。


「高級って!ただの制服じゃねぇか!」


「制服だって十分たけぇだろ」


ボンボンからしたらそんな事無いだろうけどな。


「なんだお前ここの学生だったのか?それとなんで飛鳥さんと一緒にいるんだ!」


飛鳥って確か翼の苗字か。一緒に居るからなんだというのだろうか。


「学生じゃないけどな。まあ翼のお守をしてやってんだ。」


「お守はやめてください。普通に私のボディーガードとして屋敷で雇っている方です。」


「な!?飛鳥さんが!?お前はどこの人間なんだ!?」


「俺?俺はただのイギリス人だ。見ろこの高い鼻を」


「うるせえ!飛鳥家の護衛だからって調子乗んなよ!」


俺がいつ調子に乗ったんだ!


全く言いがかりも甚だしい。


「それは飛鳥家の使用人に対する侮辱と受け取ってもよろしいですか?」


珍しく翼が少し強く言った。


「そうだ俺はあの飛鳥の使用人だぞ。弁えろ」


取り敢えず言い返しておく。この手の輩は自分の優位性を保ちたがるからな。


咎めるやつが居なければ際限なく増長するタイプだ。


「連理も連理です。早く行きますよ」


「お前のせいで俺も怒られちまったじゃねぇか」


「お前が悪いだろ!使用人のくせに生意気だぞ!」


使用人かどうかは関係ないだろう。生意気な奴は使用人とか関係なく生意気ってもんだ。


周りを見るとなかなか視線を集めていた。


それが明石にとっては不快だったのか、視線に気づくとバツが悪そうに校舎に入って行く。


「ったく。変な奴に絡まれちまったぜ」


「連理も連理です。あまり刺激しないでください。面倒くさいので」


案外毒舌キャラなのか?


「じゃあ俺は図書館にでも行くぜ。また昼になったら教室に行く。」


「わかりました。教室は2-A教室です。本棟の3回にありますので、待っていますね」


そういい俺らは一旦別れる。

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