第6話 一通の手紙
大学入学してからは、忙しかった。
知らない土地、新しい環境に慣れることに精一杯。
カナには時々手紙を書き、電話もしたけれど、カナも予備校通いで忙しく、電話で話せないこともあった。
僕は5月の連休には実家に戻らず、6月は部活の大会で鹿児島や沖縄に行っていたので、少しばかり連絡を怠ってしまっていた。鹿児島遠征や沖縄遠征では、日中の大会が終われば先輩や同期と街中に繰り出し、飲み歩き食べ歩き。でも夏休みに帰省して渡すつもりだったカナへのお土産は、買うのを忘れなかった。
沖縄遠征から帰ってきたとき、カナから一通の手紙が届いていた。
沖縄には1週間近く滞在していたので、消印は3日くらい前のものだ。
その手紙は、封を開けていないのに、いつもと違う感じがした。
部屋に入り、手紙の封を開ける。
「好きな人ができた」
「あなたの知っている人」
「彼は私がつらいとき、高いところに連れて行ってくれる」
「嫌いになったわけじゃない。他に好きな人ができただけ」
どこか安心してたところがあった。
カナは待っているはずと。
いつか、地元に帰ってまた一緒に歩けると。
それが、なくなった?
手紙をもう一度読み返しても、結果は変わらない。
分かっているのに、何度も、何度も読み返す。
涙は、でなかった。
混乱しているのに、ひどく冷静で。
色んな自分が、頭の中でしゃべっているのに、心はやけに平静で。
「お前がほったらかすから」
「いや、相手おれの友達じゃん、一応」
「あいつ、俺とカナの事、知ってるよね?」
「浮気するなっていってたじゃん」
・・・・・・・・・・
色々考えても、目の前にある手紙が、現在を表す全てだった。
それからひどくゆっくり部屋に戻り、いままでもらった手紙を読み返して
いつ眠りについたかは、記憶に残っていない。
まだ梅雨も明けない、6月末の夜。
外は小雨が音もなく降っていた。
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