第5話 テレカのカウントダウンの速さが表すものは 二人の距離
カナは「生物」の遺伝子に興味を持っていたので、理系を選んだ。
僕は最初「宇宙関係」に行きたいと思っていたけど、どうにも英語と数学が苦手なので、文系を選んだ。
同じ大学を目指していたが、その年の共通テストはテストの制作者がよっぽどひねくれていたのか、今まで見たことないような問題が散発し、教科によっては差を埋めるべく何点か加算されるという事態に。 また、動揺して他の教科も大幅に得点を下げることになってしまった。
それこそ、「足切り」されてもおかしくない、散々な点数だった
その結果
僕は県外の大学に志願校の変更を、カナは浪人覚悟でそのまま第1希望の地元大学を゙受けることになった。
ここがひとつ目の分岐点。
僕は地元の私立大に合格したので、変更した国立大学にあまり興味を゙持てず、どんなところかもろくに調べなかった。カナと距離が開くのが嫌だったし、正直に言って落ちて地元大学に通うつもりでいた。
でもカナは最後の僅かな希望にかけて、猛勉強していた。そんな頑張り屋のカナだからこそ好きになったわけだし、この1ヶ月半程は時々連絡をとるくらいで会うこと・しゃべることを我慢した。
2月の終わりに国立大学の受験、そして3月1日に卒業。第2ボタンは渡したけど、この日はそれぞれ家族と一緒に過ごすことになり、あまり話せなかった。友達は卒業ライブを集まってするから、こないか?と誘ってきたけど、参加する気にはなれず、断った。
そして迎えた国立大学の合格発表日。
道沿いに植えられた桜の木が赤く染まり、花蕾が膨らんでいた。
僕に届いたのは合格の2文字
カナに届いたのは不合格の3文字
僕は散々悩んだ末、県外の国立大学に進学することに決め、
春一番が吹く日に、電話ボックスからカナにそのことを告げた。
これが2つ目の分岐点。
カナは絶対に泣いてしまうから新幹線ホームに見送りにいかないと言うので、前の日に会うことになった。彼女は気丈に笑って、これから頑張って大学の希望学科に入学するって言ってたけど、でも結局、別れ際には寂しさが溢れて泣いてしまい、僕はじっと彼女を抱きしめるしかできなかった。
泣きながら でも 少し笑いながら カナが言った。
「ちゃんと帰ってきて。浮気したらダメだからね。」
そして旅立ちの日。
新幹線に乗る時間は伝えてたから、もしかしたら来るかもと思ってずっと周りを゙見渡してたけど、カナの姿は見えなかった。
僕も泣きじゃくる年の離れた妹をあやすのでいっぱいだった。
時間が来た。
新幹線の扉が音をたてて閉まり、ホームからゆっくり離れていく。僕は申し訳ないけど家族よりカナが気になって、最後まで探したけど、見つからなかった。
新幹線から電車へ乗り継ぎ、大学のある駅から歩いてお世話になる下宿に向かう途中で電話ボックスを見つけたので、親とカナに着いたことを連絡した。
テレホンカードの数字が減っていくスピードが速い。それがカナとの間にできてしまった「距離」を表していた。
下宿に着き、挨拶をして自分の部屋の扉を開ける。
段ボール7個
組み立てる前コタツと布団
それが全て。
以前の自分と、今の自分をつなぐ全て。
周りに知った人は、誰もいない。
初めて涙で目が潤んだ。
もしあのとき、
カナと浪人覚悟で、第1希望を受けていたら
地元の大学に進む決心をしていたら
このあとの運命は、違うものになっていたかもしれない
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