第3話 好きな人の前では、カッコつけたいものなんです。

高校では「いっつも一緒にいる」と周知の仲になっていた。

とはいえ、一度もクラスは一緒になってないし、普段はそれぞれのクラスの仲間とお互い行動していた。

だから、一緒にいるのは登校時と下校時だけだったし、別に目立ったことはしていなかった・・・はず。


体育祭の時のハチマキづくりは、僕の担当になった女子がわざわざカナのもとに行って「作っていいか?」と聞きにきたらしい。カナは手芸が得意で、いろいろ手縫いのものをプレゼントしてくれたほどだったけど、この時はなぜか「私じゃなくてもいいよー」と言ったらしい。体育祭前に僕にハチマキを渡してくれた女子から、「ごめんねーカナさんじゃなくて」と、変な謝罪をされてしまった。


「いや、なんで作ってくれなかったん??楽しみにしてたのに・・・」


「だって恥ずかしくて・・・つい」


体育祭ではクラスは違うけど、お互い学級退校リレーの代表だったので「朝練」も一緒に行っていた。カナのクラスは陸上部が多く、まず1位をとるだろうと予測されていたけど、うちのクラスは良くて3位とれるかどうか。1学年9クラスあるので、1レースで結構な人数が走ることになり、本番では接触転倒のため、アンカーの僕に渡った時には順位は最下位。


ただ、この時は我ながら神懸っていた。

スタートして半周で3人抜き、カーブで2人抜き、3位の陸上部に追いついた。最後の直線、30m。最後の最後で追い抜き、力尽きてひっくり返っていたら、いろんな友達にもみくちゃにされた。


今でも覚えているのは、転倒して責任を感じていた女の子の泣き顔と、もみくちゃになって覆いかぶさって騒いでる野郎どもの隙間から見えた、カナの笑顔。


あと、陸上部の友達が、悔しそうに空を見上げてる顔。


僕はカナの前でかっこつけられたので、言うことなしだった。

で、この後は紅白対抗リレーの選手として、応援団から引きずられていくことになる。



・・・後日、「火事場のクソ力」の代償として、ひどい筋肉痛に襲われることになった。

後にも先にもこんなリミッターが完全に外れたような動きができたのは、この時だけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る