第3話 100人の乙女

 翌日、神殿に100人の女の子が集められていた。

 

「うわあ……すごい……みんな綺麗だ……」

 

 窓のスキマからこっそり覗くと、広間に集まったのは本当に綺麗なお姉さんばかりだった。大神官様はどんな募集をしたんだろうか。いやそれより、この人たちみんなと僕が今からキスするのか……!

 ドキドキと手の震えが止まらない。

 昨日のソフィアさんとの『練習』で少しは慣れたかと思ったけれど。

 

「ふふ、その初々しさのままでよいのですわ、勇者様」

 

 隣のソフィアさんが言った。彼女は僕に用意された神殿の部屋――キス用の部屋で水挿しとタオルをたくさん用意していた。もちろん百人とキスするんだったらそういうのが必要なんだけど、なんだか生々しい……

 

「それでは早速、一人目をお呼び致しますね」

「は、はい……うう、うまくできるかなあ……」

「ふふ、大丈夫ですわ。あんなに練習したんですもの。それでももし迷うことがあったら……」

 

 ソフィアさんはぱちりとウインクをして。

 

「彼女達にここに来た理由を聞いてくださいませ。それで大丈夫です」

「……?」

「それでは呼んで参ります」

 

 ソフィアさんは出ていった。

 やがて数分後、入ってきたのは。

 

「……きみが、例の勇者様?」

「う、うん……」

「そう」

 

 青い髪をショートにまとめた、冷たい雰囲気のお姉さんだった。背は百七十センチはありそうだ。ソフィアさんと正反対の雰囲気で……うわあ、めちゃくちゃ緊張する……ど、どうしよう……。

 

「……しないの? キス」

「まま待って、えっとええと」

「ひとり持ち時間は三分だそうだし……そんなに時間ないよ?」


 持ち時間とかあったの!?

 そりゃ百人とキスを一日で済ますとなると当然あるか。

 いやでも、とにかくまだキスするわけにはいかない。だって僕はこのお姉さんのことをなんにも知らないんだ。何も知らない、何も関係ない人にキスするなんて、そんなの間違ってる。

 だから僕は聞いた。

 

「あの……お姉さん、名前は?」

「名前? リーエよ」

「えと……ご、ご職業は?」

「花屋だけど」

 

 花屋さんなんだ……いい匂いがするのはそのせいかな……。

 いや、聞きたいのはそういうことじゃなくて、ええと……そうだ。

 

「リーエさんは、なんでここに来たの?」

「キスするためだけど」

「そうじゃなくて……見ず知らずの僕とキスするなんて、なんで?」

「なぜって大神官様のお願いよ。断るわけがないでしょう」

 

 リーエお姉さんは不思議そうに首をひねった。

 

「私には恋人もいないし、予定もないし、キスしても何かが減るわけでもないし。なら断る理由なんてないわ。だから貴方は別に、罪悪感を覚える必要なんてないのよ」

「…………」

「満足した? それじゃキスしましょう」

 

 僕は……どきっとした。

 そしてソフィアさんの教え通り、声を出すことにした。

 

「僕、リーエさんのこと好きです」

「……え」

「僕のこと気を使ってくれて……一見冷たい感じなのに、実際はすごく信心深くて、優しくて、すごい美人なのにぜんぜん気取った感じがしなくて……あの、なんというか、だから好きです。大好きです!」

「………………」

 

 リーエさんは面食らった様子だった。

 やがて頬をぽりぽりとかいて、僕から視線をそらすと。

 

「なるほど。そう言えって神官様に指導されたのね」

「うっ! ご、ごめんなさい……」

 

 や、やっぱりソフィアさんみたいにうまくはいかないなあ……。

 でも好きだっていうのは本気だったんだけど……言っているうちに本当に好きになってきたし……ほんと、印象は冷たいけどあったかい人だ。花屋さんもお似合いだと思う。

 

「謝らなくていいわ。ちょっと気持ちよかったし」

「え、そ、そうですか!」

「でもそれ、他の99人の子にも続けるの? ものすごい大変よ?」

「か、覚悟してます」

 

 女の子にキスしてしまうのだ。

 このぐらいの努力、なんでもない。

 

「そう。すごい覚悟ね」

 

 リーエさんは薄く笑って僕の手を取った。

 そして、ちゅっ。

 

「……あっ」

「私もキミのこと、ちょっとだけ好きになったわ」

 

 ニ回目のキスは、花の蜜の味がした。

 そして僕の試練が始まった。

 

 ――三人目、グリエルさん。

 ウェーブしたロングの髪ですごく都会のお姉さんぽい。

 

「やっほやっほ。勇者様ってキミ? かーいーねえー♪」

「あ、ありがとうございます! グリエルさんこそ、目も鼻も声もめちゃくちゃかわいいです! 僕、感激してます!!」

「お、お、おお? あははー♪ キミ、ホストの素質あるねえ。勇者に飽きたらうちの店においで。たーくさんサービスしてあげるから」

「え……かかか、考えておきます!」

 

 ――十二人目、キサラちゃん。

 七歳(!!)。僕の胸ぐらいしか背がない金髪ロールのお嬢様。

 

「えへへ、ゆーしゃさまとちゅーだー♪」

「うわあああ。なんというかその……ご、ごめん!」

「ゆーしゃさま、なんであやまるの?」

「なんというか改めて僕の能力の犯罪性を自覚しちゃってですね」

「ふーん? よくわかんないけどー」

 

 キサラちゃんはにっこりと笑って僕の頭をよしよしと撫でた。

 

「ゆーしゃさまはね、なさけない顔しちゃダメなんだよー?」

「うっ」

「もっとがんばって。」

 

 ああ……ちっちゃいのになんて包容力のある子なんだ……! 好きだ、大好きだ……いや犯罪的な意味じゃなくて……じゃあどういう意味だと言われたら困るけど、とにかく違うのだ!

 

「それじゃ、ちゅー♪」

「んっ……!」

 

 キサラちゃんはキャンディの味がした。

 めちゃくちゃ、おいしかった。

 

「えへへ、キスってきもちいーね♪」

「………………………………うん」

 

 すみません違いません。僕はロリコンで犯罪者です。それでいいです。

 

 ――三十ニ人目、鍛冶屋のミサキさん。

 

「よう、なんか大変みてーだな、勇者様」

「お気遣いありがとうございます! 優しいですね、好きです!!」

「お、おう……!? ははは、社交辞令でも嬉しいぜ、ありがとよ」

「その謙遜っぷりが可愛いです! 大好きですミサキさん!」

「うおおおおお!? 恥ずかしいなおまえー!?」

 

 照れ屋さんのミサキさんはキス後も照れていてほんとにかわいかったです。

 

 ――そんな感じで。

 半日もの間、僕は女の子を好きになってキスをし続けた。

 

「ぜえはあ、ぜえはあ、ぜえはあ……」

 

 もはや唇はキスしすぎてふにゃふにゃ。喉は好きだと言いすぎてカラカラ。心臓はドキドキしっぱなしで心拍数は限界突破。それでも後悔はない、充実感と幸せ感でふわふわしている感じだった。

 これでソフィアさんも含めて九十九人。

 ついにあと一人だ……さあ、最後まで大好きになるぞ!!

 気合を入れてドアを開けると、そこにいたのは。

 

「――ユウ」

 

 どくんっ。

 限界突破していた心拍数が更に跳ね上がった。

 なぜって、そこにいたのは僕の幼馴染トレノだったからだ。


----------------

あとがき

純情ショタ勇者がハーレム王になる話がかきたかったのです……

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