第34話 だって狂っちゃったんだもん
少しだけ仮眠を取ってしまうわたし達は、お互いが何か言いたそうにしていて、落ち着かない様子だった。
わたしは正直に言うと帰りたくない。まだ五十嵐先輩と一緒にいたい。
言うならば泊まりたい、わたしの家でもいい。
そわそわしてる五十嵐先輩の考えている事と、わたしの考えてる事が同じならいいなと思ってしまう。
でも、そんな気持ちを言えないくらいに、わたしにも思う所がある。
多分考えすぎとか、気にしすぎなのかと思うけど、わたし達だけ楽しむのは何か申し訳ない。
もちろん、先生に対してだ。
冗談で明日から停学と言ってたけれど、やっぱり騒ぎを起こしたのは自分で、しっかりと反省はしないといけないんじゃないかと思う。
先生を辞めるほどの覚悟で、わたし達を守ってくれたから、だから遊ぶのは今日だけ。
「千秋、またお泊りしたいけどさ、やっぱり反省はするべきかなって思うんだ」
多分五十嵐先輩の口から「お泊りしたい」って言ってきたら、わたしは簡単に流されたと思う。だから同じ気持ちってだけで嬉しいし、でも少し寂しいのもある。
「はい、わたしも同じ考えですよ」
五十嵐先輩もちょっと残念な顔をして、笑う。
外は真っ暗でわたしは根っこでも生えたかのような腰を、無理矢理引っこ抜く。
「じゃあそろそろ帰りますね」
「ん」
忘れ物がないようにしっかり確認をしてから部屋を出る。
まぁ忘れてもいいんだけど、少しでも一緒にいたい為の悪あがきだ。
玄関まではお互い無言で、靴を履くと後ろから抱き着かれる。
「離れたくなぁい」
泣きそうな声というか、すごく甘えた声でわたしを引き止める。
こんな甘えたがりの一面もあるとは思わなかった。あまりにも不意打ちすぎるそれにわたしは、何故か目頭が熱くなる。
「いがっ――」
「なんて言ったら困るよな……わりぃっ!ほら早く帰った帰った!」
振り返ろうとした時、五十嵐先輩はわたしの背中を押した。
足が一歩二歩と前に出て、わたしは振り向くと五十嵐先輩は、涙ぐんだ笑顔で手を振る。
「じゃあな」
「うん、また、ね」
わたしだけ1人外にいる、それは当たり前の事で。
この玄関のドア1枚の向こうに五十嵐先輩がいる、それも当たり前の事で。
またすぐに会える、これも当たり前の事。
ほらこんな風に
「千秋!」
五十嵐先輩がドアの向こうから勢いよく飛び出してきた。
裸足で飛び足してきて危ないじゃん。シャワーも浴びたのに、また浴びるつもりなの?
まだ別れてから1分くらいだよ?そんな寂しそうな顔で、そんな必死になって、そんなに両手を広げて、どんだけわたしの事が好きなの?
「先輩!」
それはわたしも一緒か。
五十嵐先輩の家の前で唇を重ねる。でも夜だからきっと誰にも分からない。
見つかってもいいや、どうでもいい。今はわたし達だけの世界。誰にも邪魔なんかさせない。そんな思いでわたしは五十嵐先輩の腰に手を回す。強く、離れないように。
唇を離すと、目が合う。五十嵐先輩の目はとろんとしてて少し色っぽく見えた。わたしは今どんな目をしてるのだろう?でもそれは五十嵐先輩にしか見えない所。
多分同じ目をしてるのかなって思う。
「先輩……もう1回、いい?いいよね?するよ」
返事を待たずに自分から五十嵐先輩の唇に唇を重ねる。
デジャブを感じるけど、今は罪悪感などない。わたしはただ求めるだけ、五十嵐先輩の事を。
ただ重ねているだけなのに、熱くて、もどかしくて、でもこんなにも幸せを感じる。
唇を重ねたまま、五十嵐先輩の吐息が短く漏れた。
「ハァ、まだ、する?」
今度はわたしが返事をする前に体が勝手に動いてしまった。
そんな事言われたらするに決まってる。したいに決まってる。
今度は鎖骨辺りにキスして次は首元、徐々にキスする場所は上へと上がって、また唇を重ねる。
無意識にわたしの手は五十嵐先輩の胸を触っていた。でもそれもただ服の上から手を置いているだけ。
「千秋っ、外っだから……ダメだって」
小声で拒まれるけれど、抵抗はない。わたしだって分かってる、ここで止めないといけないのは、分かってるけど止まらない。頭でははっきり理解してるけど、その理解してる部分がどんどん頭の外に追いやられて分からなくなる。
「ダメなのは分かってる。だってこんなに狂っちゃったんだもん」
ダメだ、止まれ、止まらない。
ここは、外なんだ、止まらない。
五十嵐先輩だって困ってるはず、暗くて分かりにくいはずだけど、これだけ近いから関係なかった。五十嵐先輩の目は最初よりも蕩けてて、口はふにゃふにゃで、口の端は少し濡れている。
わたしはそこを舌で舐めてしまう。味なんてない、でも余計にわたしの歯車が狂いだしてしまった。
わたしの手はスルリと服の中に、そして下着の中すらも無理に手を入れてしまう。
初めて触る五十嵐先輩の生の感触。服や下着の上からだとここまで違った柔らかさと、大きさにまた興奮を覚えてしまう。
「ば、ばかっ!さすがにそれはっ――んっ……」
すべすべな感触に、少し指が埋もれる感じ。撫でるように触ると指が肌ではない物を擦ってしまう。五十嵐先輩の肩がピクンと小さく跳ねると、わたしはそれを人差し指と中指でキュッと挟む。さっきよりも体がビクッと跳ねた。
挟んだまま少しずつ引っ張ると、それは指から離れ、五十嵐先輩の体がまた跳ねる。
今度は人指し指の腹で触ると、それはさっきよりも少し主張してて、固さも変わっている。
五十嵐先輩の顔を見ながら、それを小さく円を描くように、優しくこねると、何かを我慢してる様子が目に入った。
時には小さく口を開けて、吐息を漏らしては口をキュッと閉じる。
それがどうしようもないくらい可愛くて、愛おしくて、指に力が入ってしまう。
「ちあきぃ……ダメっ……」
「なんで?すごく可愛いよ?」
「ちあ、き……止めてっ…」
「止めていいの?」
ビクビクと体を震わせる五十嵐先輩が見たくて止まらない。
「千秋……止めろって言ってんだろ!!」
「おぐっ!」
わたしのお腹に何かとんでもない衝撃が走った。
顔を上げると顔を真っ赤にしてる五十嵐先輩。
拳をわなわなと震わせている。
「あははっ、恥ずかしすぎました?」
「この顔は、怒ってんだよ!バカ!」
ぽこんと頭を叩かれる。正直お腹を殴られた時の方が何倍も痛かった。
「正気に戻ったのかよ?」
「はいぃ、すみません。調子に乗りました」
「場所を考えろってんだっ」
本当に反省してる。外でこんな事するのは危ない。
わたしはシュンと俯いていると、五十嵐先輩が下から顔を覗かせてきて
「だからまた、今度……な?」
その言葉を聞いた途端に、わたしの反省はもうどこかに飛んで行ってしまった。
「はいっまた今度!」
また今度。
そんな約束を交わして今度こそ、わたし達はお互いの家に帰る。
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