第2章

第12話

 ミトさんのお家にお世話になり始めてから2週間。未だにメイには話せていない。


 だってそうだろ?

 自分の叶えられない夢を代わりに実現するのが夢とまで言った人間が、仕事のパートナーとはいえ別の異性の家に住むようになったなんて伝えられるか?


 僕らには愛情もあるというのに。


「だから最近、会うのが憂鬱なんですよ……」


「レボル君にそんな子がいるなんて意外でしたけど、不適性の君があそこまでギルドメンバーになることに執着していた理由と考えると納得ですね」


「あの、サーシャさん。面と向かって才能がないって言われるの、慣れたとはいえ、辛いです」


 サーシャさんは僕がいつ心が折れて辞めるのか賭けているんじゃないかというほど、ここに来る度に才能がないとかミトさんの足でまといになってないかとか嫌味なことを言ってくる。


 事実な上に自覚があるから深く傷つきはしないんだけど。それに魔弾しか撃てないとしても、メイのためになるなら現状に不満はない。


 それはそれとして、どうして僕に対してそんな態度を取るのか。僕なりに考えてみたのはこうだ。


「話は変わりますが、もしかして、サーシャさんってミトさんのこと好きなんですか?」


「…………はい?」


 あっ、僕今日死ぬかも。


 冷えた鋭く睨む目がこれまで掛けられたどの言葉よりも深く突き刺さった。


「な、なーんて冗談ですよ! あはは──」


「笑えない冗談ですね」


「──は、はは……すみません」


 これまでの接し方からして嫌っているわけじゃないとは思う。どちらかといえば、好き嫌いよりこれまで与えられた苦労に対する嫌悪感を持っているんじゃないかな。


 てっきりミトさんに好意を抱くからこそ、その身近にいる無能な僕の存在が疎ましくて嫌がらせをしているものだと思っていたのはとんだ見当違いだったみたい。


「何を勘違いしてさきの馬鹿げた発言をしたのかはわかりかねますが、ここ2週間ミトの使いでしか役に立てていないレボル君の思考を読むのは至難の技ですからね」


 なんだか棘がいつもよりキツくなっている気がする。

 でも実際、同居を始めてからの僕は毎度のようにモンスターを躊躇無く殺すミトさんの後ろで構えるだけで狩りには一切関わっていないんだよね。


「とにかく、ミトがレボル君を選んだ以上強引に離すことは出来ないけれど、深入りはしないこと。それから満足できる収入を得られたらこの仕事を辞めることですね。……のためにも」


「えっ? 今、なんて言いました?」


「ミトから離れて自分に合った職を探しなさいと言ったんです」


「いや、そのあとになにか」


「なにも言ってませんよ?」


 そんなことは無いと思うんだけど、何でもないことだったのかな。無意識に出た言葉だとか。


「ほら、早く今日の換金書受け取って帰りなさい」


 雑に紙を1枚渡され、追い出されるようにギルドを後にした。


 今日のサーシャさんの様子はおかしかったなぁ。

 僕のことじゃなくて、やっぱりミトさんのことでなにか思うところがあるんじゃないかと邪推しておくのは悪いことじゃなさそうだ。


「というか、メイのこと全然話せなかったじゃん!」


 悩みの種はいつ取り除かれるのだろう……。

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