第11話 1章end

 ど、どういうこと?


 僕が一人暮らしをするための貯金の話をしたら、お世話になり始めたばかりの先輩ギルドメンバーから同居のお誘い頂いたんだけど。


 もちろん嬉しくないわけがない。ただあまりの展開に思考が追いつかないんだ。


「もしかして、嫌だったりする?」


「いえいえ! そんなことは……」


 ミトさんの優しさをふいにする人間なんていないと思う。


「じゃあ、いいじゃん」


 そんな勢いで決めちゃっていいことなんですか? あー、でもモンスターの血がべったりついた大剣を携える人を目の前にして断る気も起きてこないよ……。


「それじゃあ、お試しで」


「お試し?」


 っ!? なんだこの殺気!

 次の返事を間違えたらここまで見てきたモンスター同様僕の身体が血飛沫をあげて消えてしまいそうな。


「いえ! ぜひともご一緒に住まわせてください!」


 全力で頭を下げる。

 肩に乗っていたモンスターの死体がボトッと視界の先に落ちてきたせいで、余計自分の死を感じてしまう。


「うんうん! それなら明日はお休みにして家に案内してあげる」


「ありがとうございます!」


 案内くらいならこれをギルドに持っていったあとでもいいと思うんだけど、そこは汚い家を見せたくないとか汚れたままで帰りたくないとか女性らしい理由なのかな。


 でもこの1週間一緒に狩りしてきて、特別そのあたりを気にしている素振りは感じた事がないというのは、言わないようにしておこう。


「でもあれだね。このまま私の家に来るってなったら、本当に拾われたみたいになるねー。

 家持ち家賃なし、生活費は戦闘なしで傷を治すだけで稼げて、貯金をする余裕まである新人なんてどこ探してもいないよ」


「ほ、本当にありがとうございます……」


 ご機嫌にそう言ってギルドに向かっていくミトさんの後ろで、惨めさになんとも言えない表情を浮かべる僕はメイに合わせる顔がないよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る