第9話 きっと、幸せにするから、セーフです……
俺、シモンはラズリに成り済ましていた少女とクリスを連れ、3人で部屋に戻っていた。
「…………」
突然やってきて、彼女の変身を暴いたクリス。
だが今はただ押し黙り、ジッと少女を見つめている。
そして彼女は少女が逃げられないように、扉前に仁王立ちしていた。
「それで、なんでこんなことしたんだ?」
セックスをした後に、尋問するというのは中々に恥ずかしいものがある。
なにせ、彼女のアナルまで犯し中出しまで決めてしまっている。
彼女が変身でラズリに化けていた、とはいえ、あそこまでやってしまうと高圧的な態度も取りづらい。
「あ、いや、シモンさん、その、ちがう、ちが、ちがうんです……」
壊れた機械のように言葉を繰り返す彼女。
彼女のことを俺は知らない、けれども、どこか見覚えがあった。
特に、『シモンさん』という彼女の言葉が、記憶の片隅に引っかかる。
(何だったかなあ)
彼女の赤い髪は、この国にはそれほど多くない。
会ったことがある、赤い髪、そして赤い瞳。
……うーん。
『シモンさんシモンさん!一緒にお茶を飲みましょう!』
「あ!お前、…………確か、アルチェ、だ、よな?」
脳裏に赤髪の姉妹の記憶が蘇る。
王宮で出会った姉妹の内の一人、妹のほう。
アルチェが成長すれば、きっとこんな可愛らしい少女になることだろう。
アルチェか?と、そう告げると目の前の少女はビクン!と身体を震わせた。
当たり、と見ていいのかな?
「王宮で、会ったよな?覚えてないか?お前が姉殴ろうとしてて、俺が止めたらお前殴ってきたんだよー、それで俺もカッとなって叩いちゃってさぁ」
ヘラヘラと、彼女に語りかける。
彼女だったなら、少し嬉しい。
せっかく仲良くなれたのに、あれから会えなかったから。
「…………」
だが、彼女は俯いたまま、何も答えなかった。
しばし、重苦しい雰囲気が部屋に流れる。
「……まあ、茶でも淹れようか」
俺は空気に耐えかねて、紅茶を入れ始めた。
椅子から離れて3分後。紅茶を注いでいるとき。
仁王立ちするクリスが、少女のほうを見ずにポツポツと地面に向かって喋りだした。
「……いい加減、喋ったらどうなんだ?」
「…………」
少女は俯いたまま、何も答えない。
「なあ?客観的に物事を見てみろ、お前は変身魔法を使った犯罪者。それもラズリのフリをしてシモン様に抱かれた性犯罪者」
「………」
クリスの声色は段々と強くなっていく。
彼女自身も制御できていないかのように。
「お前なんて、いつだって警察に突き出せる。それをせず、話を聞いているのはシモン様のご厚意だ。……なのに貴様は、シモン様の手を、煩わせている。穢らわしい犯罪者の貴様がっ!」
「……………っ!」
「穢れた血っ!悪魔の娘っ!……似ているよ、お前は、尻軽で下劣で最低のクズになっっっ!!!何と言えよ、このクズっ!」
「落ち着け落ち着け」
クリスの忠誠心が暴走しているようだ。
でも、尻軽とか言わないでほしい、その言葉は俺にも刺さるのだから。
「ふぅーーーっ!ふぅぅっーーーっ!」
わなわなと怒りで震えるクリスの背中を叩き落ち着かせる。
これは2人にさせてはならんな。
指でクリスに指し示し、少し離れてもらった。
俺は椅子に座り、俯く少女へと紅茶を差し出す。
「飲むか?」
彼女は力なく首を横に振った。
◇
もう、おしまいだ。
まさか変身していることがバレるなんて。
いや、バレること自体は元々想定していたことではある。
けれど、ラズリに変身した状態でシモンと性行為をしたことはあまりにもまずい。
こんなバレ方は想定していなかった。
浮かれていた、浮かれすぎていた。
もみ消すことは多分できる、けれど。
シモンには、きっと嫌われる。
こんな形で、再会したくなかった。
「なんか紅茶入れてたら、当時の事を思い出したよ。よく3人で茶を飲んだな」
「……」
「でも、最後はあんまり良い別れ方じゃなかったな。プリムラが亡くなって、俺は責任を追求された。……アルチェも俺を疑ってたろ?」
「う、ん」
プリムラ、私の姉。
6年前に亡くなった彼女は、私がシモンと出会ったきっかけでもあり、シモンと離れた原因でもある。
疑っていたことに、ウソはつけない。
私は絞り出すように声を出した。
「そうか、やっぱりそうだよな」
シモンは、王宮で別れた時に見た悲しげな顔を浮かべる。
それを見ると、なぜか私が泣きそうになってしまう。
胸が締め付けられるように、苦しい。
……やはり謝ろう、素直に謝るしかない。
私はいつも間違えてばかりだ。
素直に、謝るべきだ。
『すみません、最初はラズリに成り代わってギルドの技術盗むつもりだったけど、シモンさんとセックスできそうで出来心が湧いちゃったんです。と』
それが、私にできる誠意。
「シモ「なあアルチェ、もしかして姉が亡くなった原因である、俺を恨んでこんな事したのか?」
私が喋ろうとした途端、シモンから不思議な言葉を投げかけられる。
「えっ?」
恨む?
私がシモンさんを?
なぜ、そんな結論になるんだ???
「お前、確か王女だろう?平民が王女をレイプしたとなっちゃ大問題。俺の首なんか物理的に飛んじまう。……姉の復讐のために、そこまでして俺をハメようとしたのか?」
「い、いや、ちが」
「アルチェ」
シモンは私の目を見つめ、力強く私の手を握る。
手から伝わる体温は暖かく、彼の瞳はどこまでも真剣だった。
そんな彼は、優しく声をかけてきた。
「悪かった、ちゃんとお前と向き合おうとしなかった俺が悪いよ。だから、頼む。俺にできることは何でもする、どうか、許してくれないか……?」
「い、いやいや!いやいやいや!シモンさんにわる」
悪いところなんて、ない。悪いのは、アイツ。
そう言おうとした私の口が、本能的にグッと止まった。
(俺にできることは何でも、する?)
あれ?これはチャンスなんじゃないか?
王族とは言え、変身して相手を騙し性行為をしたなんて醜聞は許されない。
しかも、相手は今をときめく有名冒険者『青剣』のシモン。そこらの平民ってわけじゃない。
それにこちらは性欲の強い女で、相手は男。
どこをどう見ても、まず間違いなく、こっちが悪者。
だが、シモンはなぜか、私のほうが優位だと思っている???
私が変身しシモンとセックスしたのは、姉がシモンの薬で死んだことへの復讐だと。
王女を犯した罪でシモンを極刑にするため、手の込んだ芝居を打ったのだ、と。そう言った。
……そんなこと、ある???
私がそれ主張しても、勝てなくない???
誰も、信じなくない?????
…………いや、いや。でも、確かにシモンの言ってることも通らなくはない、か?
最っ低な話だが、今となっては変身していたことを知るのはシモンとクリスの2人だけ。
王族の政治力でゴリ押せば、シモンから逆レイプしたことにできる、か?
一応、ギリギリだが、通らなくはない、か?
…………口の悪いクズ貴族の間ではシモンはビッチと言う噂が流れている。
ならば通らなくは、ないかもしれない。理屈としては、成立する。
成立する、ならば、…………お、おどせる?
(し、シモンを脅せば……この窮地を、逃れられる?し、シモンがなんでも、してくれる?)
……いけるか?いけるのか?
いや、そもそもいってもいいのか?シモンを悪者のように言うのは、流石に不義理なんじゃ……。
私は前にもシモンを裏切っているんだぞ、形式上でもそんなことは、できない……。
そんな、そんなこと……。
………………。
…………………………なんでもする、か。
………………なんでも……………………。
…………………………………………………………………。
「………………そ、そそ、そ、そうです!そうですよ!
あ、あの事件で私は姉を失いました!
ず、ずっとシモンのことを!す、……う、恨んでいてぇ、あ、あのそれでシモンを私のものにしたくて!
……えっと、いや、だから、そのそのその!」
「お、王女に種付けするなんて許されませんよ!
関係各所にいったらとんでもないことになります!
なるんです!極刑です!だ、だからシモン!バラされたくなければ私の言う事を聞くんです!聞きなさい!」
◇
「ふざっ、ふざけるなぁぁぁっっ!」
少し離れた場所から見ていたクリス。
彼女の赤い瞳の瞳孔は開き、今にも襲いかからんばかりにズンズンとアルチェに歩み寄る。
「おまえっ、おまえがっ!何をぉっっ!」
「クリス、悪いけど落ち着いてくれ、これは俺と彼女の間での話だ、だから、な」
半ばタックルをするように、前に進もうとする彼女の身体を全身で抑えつける。
それでも彼女は止まらなかったので、お姫様抱っこするように彼女を持ち上げた。
「…………!!!」
しばらくそのまま、腕の中で彼女を抱きしめる。
「本当に、本当に、悪いんだが。一度出ていってくれるか?後でなにがあったかは伝えるから」
クリスは鼻息荒く、血走った目でアルチェを見つめていたが、ギュッと抱きしめると、苦々しく「分かり、ました……」と呟いた。
彼女は荒々しく、出ていった。アルチェを最後まで殺すような目で睨みつけながら。
「悪いな、話の途中に」
「こ、困った人ですねぇ!あはは!」
まあ、忠誠心が高いやつなのだ。
きっと、自分の主が悪しざまに言われて腹がたったのだろう。
後で、フォローはするつもりだ。
「……それで、アルチェは俺に何をさせようって言うんだ?」
「ほえ?」
そう問いかけると、目の前の彼女は、ぽかんとした顔を見せた。
「えーと、それは、ですね」
かと思えば、だらだらと汗を流し、右上、左上に目玉が泳ぐ。
……もしかして、考えてなかったのだろうか?
「…………が、学園!学園です!私が通っている学園に、貴方も一緒に来なさい!そこで私を『訓練』して強くなるのに協力しなさい!そ、そ、そこでの頑張りによってはゆ、許してあげてもいいですよ!?」
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