第4話 皆隠れてバフやってるからセーフ
「今からでも飛び入り参加ってできるんですかぁ?」
アオバランカーズ会場の体育館に甘ったるい声が響いた。
現在は開会式の真っただ中、司会役のシモンの『副官』が喋っているところだ。
それ以外の誰もが静まり返る中で声をあげられたものだから、発生源の隣で座っていた私、シンシアは焦ってしまう。
「ちょ、ちょっとなにしてるんですか......!開会式中ですよ、静かにしてください」
会場を見ると、突然の声に驚いた参加者や関係者がこちらを見つめていた。
100人近い数から『何事か』と訝しむ視線が私達に刺さる。
たまらず、ローブを被るクソガキを注意した。
「......はぁ、だーかーら、あなたには言ってないですよ?私はギルドマスターかシモンさんに尋ねているんです」
「......調子に乗るのも、いいかげ」「分かりました、許可しましょう、シモン!いいわよね?」
ブチギレかけた私に被せるようにギルドマスターが少し遠くの席から声を上げる。
進行を進めていたシモンもそれに応じた。
「かまいませんよ!ということで、これからプロ未満限定大会『アオバランカーズ』開幕だ。お前ら、飛び込みなんかに負けるなよ!」
おう!と言う威勢の良い声が参加者から上がる。
その中には、こちらを睨みつける者もいた。
しかし、ローブの少女に気にする素振りはない。
凹凸の少ない身体で胸を張り、嘲るような声を出す。
「ふふん、哀れな人達ですね。私に勝てるはずないでしょ。ね、案内のお姉さん」
「……」
私も飛び込み参加できないかな。
できたらコイツに圧勝してやるのに。
◇
「飛び入りなんて!あんなの、許しておけない!絶対に妨害しよう!」
ルーキーズトーナメントで優勝し、シモンに抱かれた青髪の少女。
ラズリは憤っていた。
同期たちに向けて、妨害と協力を呼びかける。
「おう、妨害するわ。お前のついでにな」
「同室のよしみだから言ってあげるけど、ラズリはいっぺん死んだほうがいいと思う」
「恥知らず、こっちに来ないで」
対する、同期入団組の反応は悪い。
先月の大会後、約束していた八百長に手を貸さないと宣言したためであった。
『お前には、協力してやらない』
そんな態度を全身で示していた。
「マリー!アンタもそっち側なの!?」
ギルド宿舎で暮らすラズリと、同室の少女、マリー。
同じ魔法使いということもあり、意気投合していた親友。彼女ですら蔑んだ目を向けていた。
金髪で赤い瞳を持つ彼女の眼光はとても鋭かった。
「ラズリ、アンタは友達。でも大会期間中は違うわ。お前は仲間じゃなくて、猿。性欲しか頭にない猿よ。処女の誓いで結ばれたルーキー同盟の悲願のため、私は猿を殺すと決めたのよ」
「くッ!」
ラズリは焦っていた。
このままでは1年ルーキーの協力なしでアオバランカーズを戦うことになる。
ただでさえ、この大会は1年にとって不利。
2年、3年の訓練されきった奴らと同じ舞台で競わされる。
勝ち上がるためには、協力が必要不可欠。
どうしたら、奴らを協力させられる。
…………。
「……必勝法がある」
「なんだと……?」
ルーキーズトーナメントではシモンを独占したラズリ。
同期達と竿姉妹になりたくない、可能であれば私が独占したい。そんな思いだった。
けれど、このままでは先輩風を吹かす女どもや、飛び入り参加の生意気な女にシモンを取られてしまう。
ラズリは二つを天秤にかけ。
そして、同期と姉妹になることを覚悟した。
「もし優勝できたら、シモン教官を独占しない、……同期皆で『特別訓練』を受けられるように掛け合うよ、だから協力して」
◇
ギルドメンバーの能力測定を主目的とする大会、アオバランカーズ。
それには最低限のルールがある。
能力測定中は他者の邪魔をしないこと。
大会の裏で直接的に危害を加えないこと。
その他、犯罪行為。
『マナーの悪い冒険者でも、これぐらいは守れ』という最低限のルール。
逆に言えばそれ以外はやっていい。
ここにいる者たちは、そう解釈している。
『『『支援魔法:攻撃力強化!!!』』』
故に、きっとこれが最適解。
「サンキュー、みんな」
ラズリの考えた必勝法。
それは個々の能力値を測定するアオバランカーズにて、事前に支援魔法を使うことで能力値を上げる。という違反スレスレの行為だった。
もしも発覚すれば、出場停止もあり得るとラズリは考えてはいる。
けれども公開されたルールブックには、禁止事項に入っていない。
ならば、やらないほうが馬鹿なのだ。
ルーキー達の中で支援魔法を使える人間は4名。
その中にはラズリも含まれている。
お互いに支援を掛け合う代わりに、優勝した場合には『特別訓練』を皆で受けるという約束だった。
「ラズリ、前へ!」
「はい!」
第1種目、『筋力測定』
その内容はとてもシンプル。
銅鑼を素手で殴る。それだけ。
測定用の銅鑼は、魔法の道具『魔具』となっており与えられた衝撃の分だけ光を放出する仕組みだ。
また、銅鑼の横には数字が表示される測定機も取り付けられ、どれぐらいの威力か数字として見ることができる。
「……ふっ!!!」
右手を一度引き、持ちうるすべてを乗せて右ストレート。
瞬間、爆発したかと思うほどの光が銅鑼から放出された。
「ら、ラズリ、よんひゃく!、458!」
少し慌てたように、計測をしてくれたギルドの事務員が数字を叫ぶ。
「……やたっ!!!」
他のルーキーを圧倒する数字。
同室のマリーはバフ込みで336。他の同期はもっともっと低い。
それを思えば、これは良い数字のはずだ。
本業が魔法使いであるラズリがここまでの数字を出せた、これはとてつもなく大きい。
『優勝』
そんな2文字が頭に浮かんでくる。
(いける、いけるんだ!私はまた、教官に抱いてもらえるんだ!)
◇
会場のルーキー達が騒ぐ中、ローブの少女、アルチェは静かにそれを眺めていた。
(あのラズリとかいう人、やりますねぇ)
アルチェはここに来る前に、入団した新人達について調べさせていた。
入団前の人間性、能力値から入団後のデータまで。
その中で、最も能力値が上がっているのがラズリだろう。
入団前のラズリは取るに足らない存在だったはずだ。
田舎町の学校にて、男子の着替えを覗いただの、ストーカーしていただの、そんな信憑性が分からない程度の噂しか出てこないエロガキ。
それが入団から数ヶ月でここまで伸びている。
異常だ、異常にも程がある。
そしてそれは、ラズリに限った話ではない。
最近の、このギルドの勢い、それを支えるメンバー達の強さ。
明らかに異常である。
下手すれば、一国に匹敵するほどの巨大な力を持っている、持ち始めている。
アルチェは、その異常を探るためにギルドへ体験入団しにきていた。
(理由としては、やはり)
シモングランプリ主催者、シモン。
彼が優勝者のみに行うという、『特別訓練』
それを受けたものは、飛躍的に強くなれるという噂がある。
真実かは分からない、けれど事実ラズリの能力は頭一つ飛び抜けている。
(これは、優勝して特別訓練を受けさせてもらわないと、ですねぇ)
「次!……えー、そこの貴方、お願いします」
名前も分からないローブの少女へと、測定員が困惑気味に声を掛ける。
どこかアンタッチャブルな彼女にどこまで言って良いのか分からなかったのだ。
「はいはーい♪」
(そろそろ、分からせて上げますか。調子に乗った平民達に尊き血の力ってやつを、ね♪)
少女が小さく拳を作り、それを撃ち出す。
銅鑼に当たると同時、轟音は高らかに鳴り響いた。
そして次の瞬間。
会場中の人の視界が真っ白に染まる。
「え?」
どこか間抜けな測定員の声。
そして遅れるように会場中からどよめきの声が上がる。
「ま、当然、ですね♪」
そのディスプレイには上限値、『999』と示されていた。
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