ヨウロ&ナーシェンVSリンガ

「なんだぁ、そのスキルは!ただ濡れ濡れになっているだけじゃないか!ムカつくなぁ!」


 俺が藍湧水でリンガが放出した青い炎をかき消したことに対し、リンガは煽りながらもイラつきをあらわにする。


「言っとくが、電気も効かないぞ!」


 俺の藍湧水で放出される水は電気を通さない純粋な水である。

 

 そのため、提灯ランタンの中で唯一俺に効く攻撃は光線のみになる。


『どうやら、相性勝ちできたみたいだなっ!このまま攻め立てようぜ!』


 黄剣魚がナーシェンへの攻撃を弾きつつ、俺に語り掛ける。


「ソクゼンッ!キミから託された魔物缶、使わせてもらうよぉ!」


 リンガはランタンごと上昇しながら、下に缶を10個ほど投下した。


『『『ヴェノスラァアアアア!!』』』


 缶のひとつひとつから、俺の因縁の魔物であるヴェノムスラッグが現れた。 


「さあ、感動の再会だぁ!ジュピテルからキミの過去を聞いた後、わざわざソクゼンに用意させたんだぁ!喜んでくれよぉ!」


「アンタやっぱり……最低だなぁ!」


 俺は怒りを表しつつ、内心焦っていた。


 ヴェノムスラッグは聖力を用いた方法以外で倒すと土地を汚染する毒をまき散らしながら爆散する厄介な性質がある。


 そしていま、俺とナーシェンには聖力を使う手段がない。


 やはり、汚染覚悟で潰すしかないのか……?


「ナメクジは……聖力が使える私に任せてくださいっ!」


 その時、全速力でゼロッタさんが駆け付けてきた。


『では、拙者が今からそなたを空へ連れて行くでござる!』


 赤蛸足がタコの足を上手く組み合わせ、翼を作り上げ俺を空へと羽ばたかせる。


 同時に青鯱魂がリンガの体内を調べるべく、いくつかシャチ型魔法弾を飛ばす。


臨我りんが奥義・魔罵焚まばたきっ!ミジメに堕ちろぉ!ヨウロ・ギンズぅ!」

 

 リンガがスキル封じの効果を持つ魔道具がハマった右眼を見開き、そして何度も瞬きを行う。


 スキルが1つだけ使えなくなってはまた使えるようになる感覚が一瞬の間に何度も過ぎ去っていく。


 俺は赤蛸足が封じられる度にバランスを崩し、飛行が不安定になる。


「そう来たか!リンガッ!」


「キミがワシの右眼のことを知っているようにぃ……ワシもキミがスキルいっぱい持っていることは知っているんだよぉ!さあ、ブザマに墜らグボォッ!」


 リンガの右眼に、黄剣魚と青鯱魂、藍湧水が作った追尾機能を持った鋭い魔法弾がブチ当たる。


『よしっ!右眼にはめ込んでいた魔道具をアタシらの魔法弾で壊したぞ!』


「……バランスを崩しているのに的確に当てるだなんてぇ……さてはキミ、ただのスキルコレクターじゃないねぇ……!全力で潰してやるぅ!」


 リンガが巨大な提灯を作り、天へと放つ。


 俺はその技を見たことがある。


 間違いない。

 

 露光提灯アテン・ランタンが来る!


「守ってランタン!防いで光明!」


ナーシェンがとっさに地上に降りた俺と自身をランタンに入れ守りの姿勢に入る。


 ヴェノムスラッグを倒し切ったゼロッタさんも『籠』で周囲のガレキや岩を使って自身を覆う。


露光提灯アテン・ランタン!」


 たちまち、あらゆる方向に光線が放たれる。


 光線の太さや数はナーシェンのそれに劣るものの、それでもなお、その一撃は脅威であった。


 『提灯』が出す3パターンの攻撃の中でも、光だけは俺が独力で防げない。


『アタシの魔法弾は藍湧水で水をまとわないと遠くまで飛べない以上、ランタンの中にいては攻撃を行えない……!』


「はぁ……!どこまで耐えられるのかなぁ!」

 ザスッ


 万事休すと思われたその時、はるか遠くから影のように黒い矢がリンガの額を直撃した。


「ぐぁああああああああ!!痛いよぉ!」


 想定外の負傷によってバランスが崩れたのか、リンガの耐性が崩れる。


『あの矢はおそらく、プルサのスキルで生まれたものだろう。つまり、ここはすでにプルサ師匠の射程圏内ってことだ』


 師匠のスキルは光を確実に防ぐ。


 俺の藍湧水は炎と雷を確実に防ぐ。


 ギブアップルは赤蛸足のオート発動のおかげでどうにかなる。


 今、俺はリンガの手札をすべて無力化できる状態にある。


 いける。


 俺が……いや、俺達がリンガを、確実に拘束して全てを終わらせるんだ!




「改新……世界ぃ!」


 リンガの口から、いま一番聞きたくない一言がこぼれ出る。


 まずい。


 いまこの場にいる人の中で、改新世界を展開できるのはナーシェンのみ。


 しかも、魔力節約のために90秒の事前準備が必要である。


 プルサ師匠は攻撃範囲が広い分、ここからはるか遠くにいる可能性も十分ある。


 そうこうしているうちに、どんどん劇場のような世界が広がっていく。


深淵舞台ディープ・ステージの……開幕だぁ!」


 気付けばそこは、大穴の底にある舞台劇場のような世界になっていた。


 俺は、諦めたくなっていた。


「この改新世界ではねぇ……ワシ以外の人間が、諦めの感情を非常に抱きやすくなるんだぁ……さてと、そろそろワシに勝つことを諦めてほしいなぁ」 


 ダメだ。


 抗う気持ちが全くわかない。


「ブツブツブツ……」


 今度はナーシェンも影響を受けたのか、顔を下に向け、何かを小声でつぶやいていた。


 もう、どうあがいても無駄な気がしてきた。


 工場をクビになった時と同様、俺は全てを諦めようとしていた。


 その時。




『ヨウロ!まだ諦めないで!』


 母さんに少し似た声が、俺の頭の中にこだました。


「その声は……インディゴ……湧水ウォーター……!」


『そうよ!少し時間はかかっちゃったけど、あなたの訓練が実を結び、ようやく私も人格を得たわ!』


「でも……僕はもう……諦めることしかできないんだよ……!」


『でも、アタシたちは人間じゃなくてスキルだから、ギブアップルも、改新世界の影響も全然受けないんだぜ!』


『だから、ここから先は拙者たちがそなたの身体を動かすことになる……異論はあとで聞くっ!』


 俺の身体が、勝手に動き始める。


 身体はタコ触手の鎧で覆われ、胞子がばらまかれ、鋭い角を持ったシャチ型魔法弾が飛び、業火を純水がかき消していく。

 

「……術式に動かしてもらうとはっ!なんて情けないタマ無し野郎なんだぁ!」


「勘違いするなよっ!オレたちが自我を得たことは、ヨウロが努力した結果なんだっ!ヨウロはとても、デカい男だぜっ!」


 黄剣魚が俺の口を仮り、若干焦っているようにも見えるリンガに反論を行う。


「……改新世界、万人舞台エブリワンマンライブ!」


 直後、諦め状態になっていたと思っていたナーシェンが改新世界を発動させる。


『どうやら、先ほどのギブアップルと同様に、ナーシェン氏には改新世界の改変が効かなかったみたいだな』


 赤蛸足が補足説明を入れる。


「諦めたフリしてボソボソと詠唱していたとは……ナーシェン・ウルティメイトォオオオオオオ!!」


 ナーシェンの名をフルネームで叫び、怒りと焦りをあらわにするリンガ。


2人の改新世界の精度は同じくらいだったためか、お互いの舞台がまじりあった状態になった。


 戦いに希望が見えた。


「みんな、ありがとう……リンガ!俺はもう、諦めるのを辞めたっ!」

 

「ひっ!ひえええええええ!!びええっ!」


 全てのアドバンテージを失ったリンガが冷や汗をかきながら焦りの表情を浮かべる。


藍湧水インディゴ・ウォーター!』『赤蛸足レッド・オクトパス!』『黄剣魚イエロー・ソードフィッシュ!』『緑和布グリーン・シーウィード!』『青鯱魂ブルー・オルカソウル!』


 5つのスキルによる詠唱。


「五色併用!恵比寿オーシャンズ・トレジャー!!」


 そして、俺の詠唱。


「ギャアアアアアアアアアアアア!!」


 ガプッ! 


 超巨大なシャチの魔法弾がリンガを飲み込む。


 ガシャシャ!グシャシャッ!


 そして、内部に潜む小型の魔法弾たちが彼女の四肢の筋肉に数日動けなくなるレベルのダメージを与えていく。


 やがてリンガは失神し、白眼をむいた状態でシャチの口から吐き出された。


 改新世界は解除され、周囲は丘に近い平原へと戻った。




 俺達は全ての元凶に、勝利することができた。

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