リンガ、ヨウロたちの前に現る
チュドーーーーンッ!!
捕縛した工場長を後を追って来たギルドの受付員さんに引き渡した数分後、飛来物にナーシェンの光線によく似たビームが直撃した。
「これは……!」
幸い、飛来物はバリアを展開して光線を防いでくれた。
しかし、よくわからない未知の物体を攻撃するという行為はあまりにもリスキーすぎる。
「……さっきの光線を放ったのは……リンガだと思います」
静かにナーシェンが見解を述べる。
「なるほど……現在存命している可能性がある『
真面目な顔でコクリとうなずくナーシェン。
「どうするナーシェン……ここは俺たちだけで光線が出ていた場所まで向かうか?」
先ほどの光線は少し遠くにある小高い丘の上から出ていた。
ランタンに乗って行けば数分足らずでたどり着けるであろう
「できれば、ボクたちに加えて1級冒険者があとひとり欲しいです……」
イドルさんを保護した日以降、俺はいつか対峙したときのため、修行の合間にリンガに関する資料を読み込んでいた。
付け焼き刃の知識でも、リンガ・トムソロという人物の危険性は嫌というほどわかる。
「やあ、仲良しカップルさんたち。こんなところで立ち止まって、何をしているのかなぁ?」
ナーシェンに類似した声が、俺たちの頭上から響き渡る。
ヤツが、リンガ導師が、来てしまった。
資料で見た通り、リンガはナーシェンに極めて近い見た目をしていた。
中のサラシが見えるくらいはだけた和服をまとい、頭には傘を被っていた。
顔の右側には稲妻のような傷が涙のように走っており、唯一開いた左目にはナーシェンと違って輝きが宿っていなかった。
「あなたは、もしかしてリンガ……!どうしてここにいるんですかっ!」
少し震えながらも、ランタンの上に乗って俺たちを見下ろすリンガに勢いよく問いかけるナーシェン。
俺も無意識のうちに蛸鎧で全身を再び覆っていた。
「そうだねぇ……15年前に捨てた娘に会いに来たんだよぉ……って言えば、満足するのかなぁ?」
「娘……!」
ナーシェンがひどく動揺する。
正直、覚悟はしていた。
トムソロ家の血筋はリンガによって壊滅に等しい打撃を受け、ここ数十年はクローンを作ったという記録もなかった。
ナーシェンの母がリンガであることは、彼女の出自として一番考えられる線だったのだ。
「動揺しているねぇ……まぁ、無理もないよ。自分が惑星一の凶悪犯罪者の娘だと自覚しちゃったんだからさぁ!」
「ナーシェン!キミはキミなんだ!あんなヤツの言葉に騙されるなっ!」
「うちの実家にはこんな家訓があるんだ……血は水よりも濃いっ!……オマエも夢が潰れたら、ワシに並ぶ犯罪者になるだろうねぇ!!」
「うっ……ボクは、抗ってみせるもんっ!」
「涙でびしょ濡れのカワイイ娘よ、いいことを教えてやろう。人間の性格の4割は遺伝子で決まるんだぜぇ!オマエは4割がた犯罪者なんだぁ!」
「うっ、うわぁ……わぁ……!」
「ヴァッハハハァ!泣いちゃったねぇ……そのまま負け犬みたいだねぇ……!」
ドゴッ!
「これ以上俺の大事な人を侮辱するなっ!」
我慢できなくなった俺は、リンガの顔を思いっきりぶん殴った。
「……クソガキィ!ただでさえ醜いワシの顔をもっと醜くする気かぁ!」
「醜いのは顔じゃなくて心の方ですっ!」
泣き顔のまま反論するナーシェン。
「……リンガッ!オマエのせいで、俺の実家の畑が大変なことになったんだ!だから、今ここで……討つ!」
「おいおい……オマエの実家みたいな凡骨に、ワシは関わったことなんてないけどなぁ!」
「ヨウロの実家は、冒険者の人材不足のせいで野放しにされた1級魔物のせいで汚染されたんです!」
「そして、人材不足の原因は……オマエが『スキル後から追加習得できない』というふざけたデマを流したからだろっ!許さんっ!!」
こうして、俺たちとリンガの戦闘が始まった。
◆◇◆◇◆
(はぁ……やはりワシと同じ遺伝子の者にギブアップルは効かなかったか。初手から厳しいねぇ……)
リンガは心の中で弱音を吐いていた。
リンガはヨウロ達の前に現れたとき、隠し持っていたギブアップルの香水から吸うと諦めやすくなる匂いを放出していた。
しかし、自分には効かないように調整していたことが仇となり、同じ遺伝子のナーシェンには全然効かなかった。
ヨウロの方も、オートで発動した蛸鎧が鼻口周りを塞いだことであまり吸ってくれなかった。
彼女の不意打ちは、失敗に終わった。
(まあいい……いつものごとく、年の功で
リンガは知らなかった。
ヨウロが自分にとって、とても相性の悪い相手であることを。
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