ハルパー元工場長、逆恨みでヨウロに挑む

「やあ……久しぶりだなぁ!」


 飛来物が着弾する日、ハルパー工場長もといアダマス・ハルパーはヨウロとナーシェンの前に立ちふさがった。


 ガンギマリーと自身のスキルで全身の筋肉を極限まで膨張させた姿で。






 話は前日の夜にさかのぼる。


「なんで……なんでこうなるんだよ……」


 息子ジュピテルによって逆らうと電撃が流れる首輪型魔道具を付けられ、イキテーク・オレラの地下牢に閉じ込められたアダマス。


「息子にも、副工場長にも裏切られた……2人とも、ザコオスのヨウロになびきやがって……俺の方がオスとして立派なのに!」


 アダマスは動物のような思考回路をしていた。


 男らしさが、力強さが人間社会においても有利になると信じて疑わない脳筋馬鹿であった。


「ヨウロを殺し、俺の方が立派なオスだと証明できれば……ジュピテルやサイクルォ副工場長の心を取り戻せる!」


 彼の単細胞な思考回路が、ハチャメチャな逆恨みを成立させた。


 そして、彼が逆恨みを醸成したことは、近くに置かれていた盗聴器型魔道具を通じ、別室にいたジュピテルが把握することになった。


「うへぇ……やっぱり親父はケダモノだな……これ、身体操るより本人の意思を尊重した方がよっぽどやっかいな足止めになるのでは?」


 ジュピテルの脳内に、アダマスの尊厳を破壊しつつ、明日の作戦で冒険者の足止めもできる最高の計画が書き起こされていった。




 翌朝、ジュピテルは遺跡にある中にある物の腐敗を阻止してくれる不思議な倉庫から、ケーシーが遺したガンギマリーを1本取り出し、父親への食事に混ぜた。


「俺ええええええ!!ヨウロっ!!殺したいっ!!」

 

 ガンギマリーの作用により、本能がモロ出しになったアダマスが堂々と殺意を口に出す。


「うん、いいよ!じゃあ首都ナゴン近くにワープさせるね!」


 ジュピテルがわざとらしい笑顔でそれ了承し、ワープ用魔道具『縮地扉』でガンギマリな父親ごと自分をナゴン近郊にあるアジトに転移した。


「おお!首都が遠目で見える見えるぜっ!」


「じゃあ、僕は遺跡に戻るね、バイバイ」


 そう言ってジュピテルはアダマスをその場において、イキテーク・オレラへと帰っていった。


「……ふふ、パワー頼りの親父がアイツに勝てるわけねえだろ。そのままヨウロにボコボコにされて、くたばっとけ」


 帰還後、ヨウロが1年の間にスキルを沢山獲得したことをすで知っていたジュピテルは遺跡の中で親父の負けを確信し、静かに笑った。







「……工場長、今はちょっと急いでいるので、話なら後に」


「全身の筋肉を研ぎ澄ませて、ようやく見つけたんだ!今ここでオマエをブチのめして、弱肉強食こそが正義であると証明してやるぅううううう!!」


 前日までの精神的ショックと不意に飲んでしまったガンギマリーによって、もはやアダマスに理性などなかった。


 自分より弱いとみなしたオスをいたぶろうとするあわれなオスの害獣が、そこにいた。

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