クァガミVSソクゼン

「ソクゼン!貴方の兄の首を絞めるその手を放してくださいっ!」


「クァガミ……なんでキミが……ここに?」


 王都南部にあるジュノー家本邸大広間にて、2人の仲間を連れたクァガミと数日前に髪を切ったばかりのソクゼンがにらみ合う。




「ブハッ……ゲホゲホ……死ぬかと思ったぁ……」


 驚きのあまり緩んだ手から落ちたソクゼンの兄、ヴァルカン・ジュノーが咳をしながらほふく前進でソクゼンから離れていく。


「……ああ、そうか、父さんには何もかもバレていたのか……くそっ……くそっ……!」


 クァガミが持っていたサーチマップを見て、ソクゼンはすべてを察した。


 ソクゼン達の父はとても察しの良い男であった。


 経済の動きも、幼子のイタズラも、息子の苦しみですらも、すべて事前に察知した。


 そして、外出機会の多さとスキルの変容から、ソクゼンの悪行にもいち早く気付いた。


「まあ……水を出し入れする缶を作るスキルがいつの間にか魔物を出し入れするスキルになったら……困惑するよな……」


 ソクゼンは数年前、大人気舞台役者の勧誘がきっかけでリンガアカデミアに入学した。


 彼はそこで学んだことを活かし、生まれつき持っていたスキル『水缶』を『魔物自販機』へと改造したのだ。


「じゃあもう……こんな家壊しても……いいよなぁ!行け、ケブカホーンたち!」


 ソクゼンが身体から缶を取り出し、そこからサイに似た一級魔物『ケブカホーン』を計四体も繰り出してくる。


 いくら豪勢な大広間といえど、さすがに大型魔物四体の重量には耐えられず、たちまち床にヒビが入り始める。


『サァーーーイッ!!』


 ケブカホーンが個性的な雄叫びを上げるなか、ソクゼンがそそくさと屋敷の奥へと逃げていく。


「……よしっ!」


 クァガミも同じオルドアークスの名字を持つ仲間2人と自分の視線を合わせることで、戦闘準備を行う。




「「ロックドロップッ!」」

 ドゴゴロゴロゴゴーン!


 クァガミと彼の仲間であるロックナダレが同時にスキル「落石」を発動し、ケブカホーンの脳天に岩を落下させる。


 急所を的確に狙われたケブカホーンたちは昏睡状態に陥り、一斉に横たわった。


「「ナットエスケイプっ!」」

 バシッバシバシィーーー!


 続いて、クァガミと彼の仲間であるネバネヴァが同時にスキル「ナットビーンズ」を発動し、ソクゼンめがけ粘着性の豆をてのひらから複数発射した。


「ウギャッ!壁に豆がひっついて!動けない!……こうなれば!」


 ソクゼンが咄嗟に出した缶から、手乗りサイズの人型魔物『バッドピクシー』が数十匹近く現れる。


『ピィイイイイイ!!』


 黒い蝶のような羽を羽ばたかせ、ススをまき散らしながらクァガミの方へ向かうバッドピクシー。


「バッドピクシーは沼地に生息し、魔力の多い生物を優先的に襲う習性を持つ魔物……!だからわたくしを狙っているのですね!」


 そう言うとクァガミは後ろの仲間2人を庇うような姿勢を取り、ソクゼンの眼を見つめながらこう宣言した。


「いいでしょう!この私が、ピクシー全員まとめて、受けて立ちましょう!」


「ホントにいいのか!?バッドピクシーはピンチになると自爆するんだぞ!全員が自爆したら、一級のアンタでもタダではすまない!」


 屋敷から避難しようとしていたヴァルカンがとっさに振り向き、クァガミに忠告を入れる。


「大丈夫ですよ……!さあ、かかってきなさい!」


 そう言った次の瞬間、スキル『魔物自販機』が発動し、ピクシーは全員缶の中に入っていった。


 発動者は、クァガミであった。


「……まさか、コピーしていきなり使いこなすとは……やっぱりクァガミはすごいなぁ……」

 

 クァガミのスキル、『写鏡』は2つの鏡を連携させ、片方の映像や音、匂いをもう片方に映せるようにすることができる。


 それだけではない。


 彼は己のスキルを独学で鍛え上げ、自分と視線を合わせた存在のスキルを5分だけ使える効果を新たに追加したのだ。


「オルドアークス家に養子入りしてからというもの、毎日様々なスキルをコピーしきたもんで、見様見真似は得意なのですよ!」


 クァガミはもともと、モノマネを得意とした道化師の両親から生まれた子供であった。


 9歳の頃、独学でスキルを伸ばした彼の技能を高く買ったオルドアークス家から養子の誘いを受け、自分と両親同意のもとで養子になったのだ。


「ソクゼン、貴方はもう詰んでいます……缶から出した魔物を制御できない以上、あとはもう塩試合ですよ」


「あの短時間で……そこまで理解していたのか」


 魔物を缶に押し込めて、任意のタイミングで解放することができる。


 一見すると夢のスキルのように思える魔物自販機には、致命的な欠陥が1つだけあった。


「そうだよ……魔物の身体の自由は奪えても……心までは奪えないんだ。俺……仲良くなるのが苦手だからさ……人も魔物も」


「そうか……」

バシッバシバシィ……


 ソクゼンの話を聞きつつ、ナットビーンズで彼の四肢を床に固定させるクァガミ。


 直後、鏡の形をした封印用魔道具『牢獄鏡』を取り出し、ソクゼンの眼を見ながら確認を取り始める。


「では、今から封印用魔道具で捕縛します。最後に言い残すことは……ありますか?」




「……なんとも味気ないな……俺の人生ってのは。でも……まだやり直せる。俺はそう……信じている」



 懺悔とも開き直りとも取れる言葉を残し、ソクゼンは牢獄鏡に取り込まれていった。

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