極悪人リンガ、一世一代の大勝負に出る

「申し訳ねぇ!!オワリス東部に逃したはずの破壊神の行方が全然つかめねえです!」


 イドルがオニカザ町で匿われてから数日後の昼、ようやく事態の重篤さに気付いたメイオーンがイキテーク・オレラの中庭でうろたえ始める。


 黒に近い灰色の髪をむしり、顔には焦りの表情を浮かべていた。


「心配ないよぉ、メイオーン少年。キミの計画はまだ死んではいないんだぁ」


 そう言いつつ、リンガが実家から持ち出した望遠鏡型魔道具『マナスコープ』で空を見通す。


「数時間前、惑星キンキランドから膨大な魔力の塊がこちらへ向かい始めたんだよねぇ……ワシ今、とってもワクワクしているよぉ!」


「な、なんでなんだ……!別に、膨大な魔力の塊がこっちに来ることなんてフライドラゴンの一斉里帰りとかでもありうることだろ?」


「量がねぇ……異常なんだよぉ!100万マナを体内に保有した生物が1匹やってきているんだぁ!人間なら魔力保有量100万ってとこかなぁ?」


「魔力保有量……100万!?それって、あの破壊神とほぼ同じ保有量じゃねえか?!俺達の技術力で対応できねぇぞ!!」


「だからいいんだよ、メイオーン少年!この生物はおそらく、キンキランドが破壊神奪還のために派遣した生物兵器だぁ!上手くいけば星間戦争へ発展するぞぉ!」


「星間……戦争!」


 明らかに犠牲者がいっぱい出そうな単語に、メイオーンが目をキラキラと輝かせる。


「破壊神をもう一度作れるほどの技術力を持ったキンキランドに、トウガイア人とかいうクソザコは敵わない!すなわち、大敗北!最高だろぉ?」


「でも……もしもキンキランドが平和主義者で戦争ではなく和平を求めてきたなら……?」


「そのためにワシがいるんだよぉ!メイオーン少年!ワシが直接出向いて、どうにか星間戦争に、持っていく!」


「マジすか!?ほんとにそんなことが可能なんか⁈」


「ワシの対応を惑星トウガイア全体の対応と誤認させればいいだけなんだぁ。どうせ相手は人間じゃなくて生物兵器だろう……ケダモノを騙すのは簡単だよ」


 そう言うとリンガは屋内に戻り、黒板を置いている部屋へ向かった。


 そして、チョークで生物兵器が着陸する予測時刻と生物兵器の予想図を書き出した。




「このままいけば、生物兵器は2日後の正午に到着するだろう。到着場所は予測できないけどねぇ」


「つまり、どこに到着してもすぐに現場に向かえる場所に待機するしかないってことか?!」


「違うねぇ、向かうんじゃない、向かわせるんだァ!」


リンガが勢いよく生物兵器の絵に青い炎を書き足していく。


「程よく落ちてきたら、ワシのランタンで、墜落させる!」


「そんなことしたら、冒険者どもに作戦がバレるって!そしたらどうすんだよセン公!アンタ、1級冒険者に勝てる自信ないんでしょ!」


 メイオーンの言う通り、リンガは「自分は一級冒険者に勝てない」と確信に近い思い込みを持っている。


 実は、リンガはかなり打たれ弱く、過去数回ほど1級冒険者に返り討ちにされたことで、そのような思い込みを抱いてしまったのだ。


「これはギャンブルなんだよぉメイオーン少年!1級冒険者にバレるのが先か、星間戦争に持ち込めるのが先かぁ!一世一代の大勝負なんだぁ!」


「なる……ほど……!」


 勢いで納得したメイオーンの手に、リンガが自分の髪の毛を握らせる。


「あ、そうそう。この作戦では、キミはお留守番だよ……もしもワシが逮捕されてしまった時、卒業式の日にワシを連れ帰すの役目があるからねぇ」


「……わかったぜ!!オレ、精一杯お留守番する!!」


 


 こうして、リンガの一世一代の賭けが始まろうとしていた。


 

 リンガは知らなかった。


 トウガイアに向かっているのは生物兵器ではなく、魔力保有量が100万以上ある人間……それもイドルの妻であったことを。


 そして、数日後には自分の身が牢獄の中にあることを。

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