異文化交流ならぬ異星交流

「ど、どうしよう……俺、テレパシーとかそういうの持っていないから、この人と会話できない……」

「ボクもです……」


『あの……2人はテレパシーとかって、使えたりするかな……』


 金髪青眼の少年救出後、俺達3人はオワリス王国東部の平原で固まっていた。


 助けた少年が喋る言葉は、明らかに俺達の母国語であるトウガイア語と大きく異なっていた。


 こうなるともうジェスチャーかテレパシーでしか意思疎通の手段がなくなってしまい、事情聴取すら困難になってしまう。


「おっ!ヨウロ、ナーシェン!この辺で黄金色の未知の魔物が出たらしいが、見かけなかったか?」


 そんな中、筋肉質な身体と額に二本の角を持つ一級冒険者、アルク・シュタインさんが巨大な馬で現場にかけつける。


『たぶん……その魔物ってのは、さっきまで魔道具のせいで暴走しちゃっていた僕だと思う』


「なんだと!!じゃあ早速取り調べしないと!ちょっとおれの家に来てくれるか?」


「あ、その人どうやらボク達とは違う言語圏の人なので、テレパシー使わないと言葉が通じないです!」


「そうか。じゃあ、おれがこの角を通じて簡易的なテレパシーで伝えるか」


 アルクさんは、様々な機能を持った角と筋肉が付きやすい身体を持って生まれた特別な人間なのだという。


 本人いわく『人間社会の終焉に最適化した身体』らしい。


『おれ、聞きたい、あなたの、話。あなた、案内する、おれの、家に』


 彼の角が発する簡易的なメッセージが、俺達の脳にも響き渡る。


『ありがとう、じゃあ、付いていくよ』


「おれの家にはテレパシー機能がついたお面型魔道具がある。キミたちにもそれを介して彼の話を聞いてくれ……これは、歴史的一大事だ」


 意味深な一言を残しつつ、アルクさんは近隣にある街へと馬で駆けていった。


 俺たち3人も彼の後についていった。


 


 オニカザ町は東オワリス最大の都市にして、アルク率いるシュタイン家が支配する街である。


 もともとはシュタイン家とは関係のない町長が治めていたのだが、5年前に町内にいた孤児数十名を本人の意思を無視して安楽死させていたことが発覚。

 

 町長は国の勅命を受けたアルクさんによって成敗され、それ以降は彼とその一派でどうにか治めることになった。


 そんな街の中にあるアルクさんの家に今、俺達はいた。


『なるほど、要するにおまえは他の惑星からこの星へと召喚系スキルで転移させられたホムンクルスってわけだな……』


「確か……キンキランドからの訪問者は150年ぶりだったはずです!これは歴史的な遭遇ですね!』


『まあ、僕の星が辿った歴史はあとで話すよ。それより言わなきゃいけいないことがあるからね』


 そう言うと、少年改めイドルさんは信じがたいことを伝えた。


 彼曰く、この星に転移して真っ先に接触した2人の人間のうち一人がナーシェンに酷似した外見とスキルを持っていたのだという。


『ああ……その女は惑星トウガイア最大の巨悪、リンガ・トムソロだ』


 師匠から度々雑談で聞いた悪人の名が、アルクの口が出る。


「ボクと……リンガの顔が……そっくり……」


 師匠いわく、トムソロ家の人々は皆同じ遺伝子を持っており、外見も酷似していたのだという。


 そして、トムソロ家のリンガとナーシェンが類似した顔であるという証言。


 自分が悪人リンガの血縁者かもしれないという確信に近い疑惑が、そこにあった。


「……すまない、不用意に言ってしまった」


「大丈夫です……!ボク、そのことはずっと前から知っていたので!」


 潤んでいた両目を拭き、気丈に振る舞うナーシェン。


『遺伝子で人間の全てが決まる』などという風潮が主流な昨今において、ナーシェンはこれまでも己の血に悩んできたのだろう。


 それでも、笑顔で明るく振る舞おうとする彼女に、俺は敬意に似た好意を抱いた。


『大丈夫だよ、お嬢さん。僕もあの破壊神と遺伝子的には同一の存在だし……大事なのは、どう生まれたかじゃなくて、どう生きるからだから!』


 イドルさんが己の境遇を語りつつ、ナーシェンを励ます。


「ありがとうございます……!イドルさん!」

 ゴツン!


 全力で頭を机にぶつけながら礼をするナーシェン。


「痛いです……」


「今回使わなかった回復ポーション、ここで飲む?」


「飲みます!」


 俺が用意したポーションを受け取り、ナーシェンはごくごくと飲み干した。




 


 まあ、こんなやり取りが数時間続いて日が暮れた頃、イドルさんの尋問は終わった。


 この星にキンキランドに送還する技術が現状ない以上、彼の処遇はキンキランドの対応待ちということになった。

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