破壊神、王国領土にあらわれる

『そうか……そうか……破壊は好まないんだねぇ……この、期待はずれがっ!』


 想定外の言動を取った破壊神ことホムンクルスのイドルに対し、ブチギレるリンガ。


『ならばオマエを無理やり操って、人類の幸せを壊す!』

バシューーーン‼


 リンガがスキルで作った提灯から光のビームを発射する。


「エイヤァ!」

 スボッ!


 イドルはビーム直撃前にあらかじめ身体に穴を開け、ダメージを最低限に押さえる。


 ホムンクルスは生まれながらにして、自らの肉体を自由に変形させるスキルを所持している。


 このスキルが戦闘においてとても強く、ホムンクルスは人間より優れた唯一の生物とも言われている。


 ジャラララララララ……ラン!

『部屋の壁から鎖がっ……しかも、拘束されたところが痛い!』


「この部屋はかつて、オレたちの先祖が破壊神が攻めてきた時のために作った部屋だ!破壊神は居るだけで体力を消耗するぞ!」


「その鎖は、ホムンクルスや魔物にダメージを与える神聖な鎖だねぇ。キミの魔力を関知して作動したんだろうねぇ」


 バシュバシュバシュ!!

『くっ……!』


 拘束された各部の筋肉を肥大化させ、鎖を砕くイドル。


『少し……息苦しい……さては、周辺の大気にも僕特効の毒かなにかが入っているな!』

イドルが自分が出した結論に基づき、光合成用の葉っぱを全身に生やし始める。


『ご名答だねぇ。先祖が大気を人類向けにした際、君を蝕みそうな成分を入れていたんだよねぇ』


 そう言い終えるやいなや、唐突に無いはずの右目を見開くリンガ。


 その眼窩には、レーシックドラゴンの目玉を加工した義眼型魔道具『ホーリーアイ』が嵌め込まれていた。


ジャララララララ……ラン!!

『くっ……!肉体変化できない!!』


 『目を閉じるまで視界に入った生物のスキルを1つ封じる』というホーリーアイの効果により、肉体変化のスキルを使えなくなり窮地に陥るイドル。


「フッハッハッハァ!見てよメイオーン少年、ワシらの力で、キンキランドでは最強の生物と恐れられた破壊神を、拘束できたぜぇ!」


「じゃあさっそく、洗脳するぜ!!」


 刺々しい輪っかの形をした破壊神専用洗脳装置が、イドルに被せられる。


「破壊神!今から市街地に行ってを人間ぶっ殺せ!!」


『ウガッ……!ガッ……!嫌だ……嫌だ!!』


 多量の電気信号による動作の強制と洗脳に抗い、イドルはメイオーンやリンガを睨み付ける。


『ぐっ……こうなったらもっと装置の出力を強めてやるぜ!』


『グッグアアアアアアア!!グア!グッ……』


イドルの動きが止まり、気を失う。


「……ワシらの勝利じゃな」 


 油断したリンガが無意識に右目を閉じた。


 その些細なミスが、引き金になった。




「アッガッ……ガアアアアアッ!!アアアア!!ヘループ!!ヘループゥウゥウ!!!」


 洗脳装置の効果により、イドルの肉体変化が暴走しはじてしまった。


瞬く間に、彼の身体が黄金色のジェルで一気に覆われ、どんどんと膨張していく。


「しまったぁ!ワシがドジって目を閉じたせいでぇ!しかも、間に黄金の液体があるせいかもうスキルを無効化できない!!」


「ど、どうすればいいんだ!?」


「アイツの身体でこの部屋が潰される前に、さっさと別の場所に転送だぁ!!トバシーテ・カナータ!」


 リンガの古代言語による命令に神去の間が応え、暴走したイドルはオワリス王国の東部地域へと転送されていった。


 この時のリンガは知らなかった。


 今回の召喚行為が、自らの野望が潰えるきっかけになることを。




◆◇◆◇◆




「な、なんだあれは……あんな魔物、図鑑では見たことがない……!」




 イドルの転送から数分後、近くにいたヨウロとナーシェンが彼の存在に気づく。


 彼の身体は触手が人間の手になっている巨大なメンダコのような形状に変化しており、両目からはひたすらに涙を流していた。


『トトキサン……ドジョーサン……トウサン……マテリア……!タスケテ!タスケテェ!』


 全長は少しずつ長くなっており、テレパシーで知り合いの名と共に助けを求めていた。


「知らない単語と共に、助けを呼ぶテレパシーが聞こえる……!」


「もしかしたら、あの魔物の中に誰か居るのかもしれません!だったらボク、助けたいです!」


「よし、助けにいこう!」


 こうして、2人の将来有望な冒険者によるホムンクルス救出作戦が始まったのであった。

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