ハルパー工場長、身体を操られ自分の工場を焼いてしまう。

バチッ!

「はっ!!」


 ヨウロ達がケーシーを逮捕してから約5日後の深夜、ハルパー工場長ことアダマス・ハルパーはビリッとした感覚で目を覚ましてしまった。




(な、なんだ……目は冴えているのに……身体が動かない……どういうことだ?睡眠薬はきちんと飲んだはずなんだが……)


 バチッ!


 二度目の電撃のような感覚で、彼の身体は起き上がり始めた。


(お、おい……俺の身体が勝手に……!変な魔術にでもかけられたのか⁈)


 そうこうしているうちに、彼の身体はとある魔道具を握りしめる。


 それは、この間の誕生日で息子のジュピテルがくれた、底を押すだけで火がつく松明型の魔道具『オートーチ』であった。


(なんだ……どこに行くんだ!階段を降りるな!外に出るな!)


 やがて、彼の身体は屋外へと出ていってしまう。


(んん!俺の額に謎の輪っかがある!もしかしてこれが操っているのか!!)


 ふと目に入った水たまりの向こうには、額に黄色く光るトゲついた輪っかをかぶった自分がいた。


 しかし、だからといって彼にできることはなかった。


 彼の身体はもう、家の隣にある自分が男手ひとつで建てた工場の中にあった。


 右手に持ったオートーチの底を、左手が叩く。


 ボゥ!


 あおい炎が、彼の人生と横暴の象徴を照らす。


 ボオッ!!ボオオ!!


 トーチの火が、工場の壁へと渡されていく。


 ボオ!!ボオボ!!ボボッ!


(あっ!!やめろ!!おい!!おい!!)


 1か所のみならず、複数個所の壁にも火がくべられる。


 やがて、自分の身が危なくなる頃には、アダマスの身体は工場の外にあった。


 顔は、常に燃え盛る工場の方を向いていた。


(なんで……なんでだ……)


『ざまあみろ!!僕を否定したクソ野郎!!』


 バリィ!!

 

 ノイズがかった声と共に、彼の額にあった謎の魔道具が砕け散った。


「あ……!ああ!急いで消防団を呼ばないと!!呼ばないとぉ!!」




 結果として、もう手遅れであった。


 消防隊が駆け付ける頃には工場はほぼ全焼しており、彼の家も側面に焦げ目がついていた。


 そして、その日からアダマスの息子であるジュピテルは、姿を消した。


 アダマスに残ったのは、かつて今は亡き妻と共に買った自分の家のみであった。




◆◇◆◇◆




「自分のスキルで作った洗脳装置の使用実験は、ひとまず成功ってとこだな。声や顔が見れなかったのは残念だけど」


「ほう……よかったね」


 工場が全焼した翌日、古代遺跡イキテーク・オレラの中で新聞を持ったジュピテルとソクゼンが会話を交わしていた。


 新聞には、工場が全焼したことが三面記事に載っていた。


「キミを工場に潜入させて魔物発生騒ぎを起こして評判を下げるってのもかんがえたけど、この嫌がらせの方が苦しんでくれると思ってね」


「そんなことに全力注いでいたら……もう首席争いに関われなくなるぞ」


「いいんだよ別に。僕はクソ親父の心身をボロボロに出来たらそれで満足だし」


 ジュピテルは自信満々にウソをついた。


 彼は企んでいた。


 父親につかった洗脳装置を更に改良し、卒業式の日に使用することを。


 そして、洗脳したリンガを操って自らが首席になることを。


「ああ、今後が楽しみだな……」


 ジュピテルは新聞を床に捨て、昨日メイオーンに作成を依頼された破壊神用洗脳装置を作りながらリンガに匹敵する邪悪な笑みを浮かべた。

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