極悪人リンガ、ちょっと焦り始める

 16年前、王子リチャードが産まれた日の晩、リンガはひどい癇癪かんしゃくを起し、王族を襲い始めた。


「なぜだ!なぜこんな状態の子を活かす!彼はこの先、絶大な苦労をする!ならば今、ここで殺すのが慈悲というものだろぉ!ワシが、殺して救う!!」


 リチャードには、生まれつき両方の脚と腕がなかった。


 


「私たちはどうなっても構いません……どうか……どうか、息子だけは見逃してください!!」


 リンガが暴れ始めてからしばらく経った後、彼女の前でリチャードの両親である国王と王妃が土下座し、懇願こんがんする。


「……そういう問題じゃ、ないんだけどねぇ」


 出生時に顔の右半分が裂けていたリンガは知っていた。


 生まれつき不備を抱えた者が、どれだけ苦しむのかを。


 劣った者にとって、人生がどれだけ苦行なのかを。


 最高権力者の土下座を無視して蒼い炎が灯ったランタンを作り、攻撃体勢に入ろうとするリンガ。


「どうか……どうか……!」

 

 しかし、震えながらも我が子の助命を懇願する王と王妃を見てひとつの疑問が浮かんだリンガは攻撃するのをやめ、取引をすることにした。


「……今後、生き残った王族たちがワシを追ったり、逮捕したり、殺そうとしなければ、息子の命は保障しようかねぇ」


「……くっ、分かりました!!」


「ふっ、ふはははは……国賊の討伐より、子供の命を優先するだなんて……親ってよくわかんないなぁ!」


 国より子を優先した王を嘲笑うリンガの中には、ひとつの疑問が浮かびつつあった。


 自分の子供という存在は、そんなに尊いものなのかと。


 




「セン公!セン公!起きてくれ!ケーシーが、監獄へパクられちまった!!」


「……は!な、なんだってぇ!」


 リンガの昼寝は新聞を持ったメイオーンによって、終わってしまった。


「昔の忌々しい記憶を夢で見て不快になっていたというのに……現実でも忌々しいことが起きやがってぇ!」


 新聞の一面記事に載ったケーシーの名を見て、怒りをあらわにするリンガ。


「クソッ!クソゥ!ギルドめ!なぜオマエはワシに屈さず邪魔をする!」


 オワリス国王や騎士団のみならず、老いですら屈服させたリンガ導師に屈しなかったものが、3つだけあった。


 1つ目はサイコロの目、2つ目はオワリス国境西側を流れるキーソン川の氾濫。


 3つ目は、冒険者および彼らをまとめるギルドセンターであった。


「なぜ抗う!ワシの八つ当たりを素直に受けろ!そして滅べ!」


 生徒の前で、大人げなく癇癪かんしゃくを起こすリンガ。


 「セン公……落ち着いてくれ、オレの破壊神召喚計画が成功すれば、他の連中を待たずとも、セン公の真の目的は達成されるんスから!」


「そうだったメイオーン……過程とか救済とかどうでも良かったんだ。ワシ以外の人々が持つ夢を、壊して踏みにじれるのなら……ねぇ」




 リンガの真の目的。


 それは、人類を絶滅へ導くことで、自分以外の人々の夢も潰して壊して踏みにじることであった。


「ワシの『舞台役者になりたい』という夢は生まれ持った不備のせいで潰えてしまった……だから、ワシ以外の夢も、潰えて欲しいんだぁ」


「そうッスね……みんな、全員が幸せになるか、全員が不幸になるべきっスよね」


 そして、そのことを知る生徒は、メイオーンのみであった。




「さてと……じゃあ、今日も破壊神召喚の準備をしようかねぇ」


 そう言いつつ、2人は金髪青眼の破壊神が壁に描かれた廊下を渡り終え、遺跡内にあるエンジン制御室へと足を踏み入れた。

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