ヨウロVSガンギマリー愛用者

「ケーシー様!ここはガンギマリー愛好家であるこの俺が足止めします!オラァ!オマエの相手はこの俺、アリアドだ!!」


 強襲の中、新鮮なガンギマリーを飲もうとしていた男、アリアドが手の指から放った糸が俺の身体を絡め取った。




「逃げるが勝ちだしー!」


 ガボッ!!


 あらかじめ仕込んでいたであろうカラクリが作動し、洞窟の天井に穴が開く。


 そし、ケーシーが身体からツタを生やして器用に上へと駆け上がる。


「ナーシェン、師匠!俺のことは気にせずにもう1人の方を追っかけて!」


 そう言いつつ、俺は青鯱魂で糸を引きちぎり、アリアドと対峙する。


 2人は俺の意図を理解したのか、ケーシーを追って地上へと向かっていった。


 バシュバシュバシュッ!


 オート発動した緑和布グリーン・シーウィードがまき散らした胞子から発生した植物が、アリアドを拘束する。


「なるほど……拘束には拘束で対抗しましたか……ですが!俺はもうガンギマリーを飲んでガンギマリなんですよぉ!」


 ブチブチブチィ!


 筋繊維を急激に増強させながら、どんどん植物による拘束をブチ破っていくアリアド。


「俺の所持スキルは指を起点に粘着性の糸を放出する『蜘蛛糸』!ガンギマリーによって脳が活性化すれば強靭さが糸に加わるのです!」


「こ、これは……開示!」


 スキルの詳細を相手に教えることで、スキルの威力や魔力の消費効率を高める技術。


 それこそが『開示』であった。


「俺の祖父であるアミノスは強靭な糸で敵を裂く立派な冒険者でした!しかし、俺の糸は貧弱だった……今は違いますけどねぇ!」


 バシュバシュバシュッ!!


先ほどより明らかに硬い糸が俺めがけて発射される。


『案外斬れるじゃねえかよっ!』


 ザシザシザシィ!


 黄剣魚が小言を挟みつつ、オート発動してすべての糸を裁断する。


『ヨウロ!オレ達が目指す勝利の形は、コイツの生け捕りでいいんだよな』

「ああ、そうだ。でも……そのためには緑和布の拘束を破れないくらい弱らせるか、別の方法で拘束しないといけない……頑張ろう」


「おい、誰としゃべっているのですか!ケーシー様もオマエの仲間二人も、すでに穴をあけて地上に出ていますよ!そうだよね、お父さん?」


 俺と黄剣魚が喋っていることに対して疑問を抱くアリアド。


 しかし、彼もまた幻覚をみているのかいないはずの父に問いかけていた。




「とりあえず、軽く手足を傷つけよう……青鯱魂ブルー・オルカソウル!」


 透過の性質を持つ魔法弾が、アリアドの手足に噛みつく。


 間髪入れずにオート発動した緑和布の胞子が芽生え、彼の身体にまとわりつく。


「あぎゃっ!ぎゃっ!ぐう……!んなもん効かねえよ!」


 しかし、ガンギマリーによって一種のドーピング状態になった彼は止まらず、再び筋力で植物をブチ破る。


「ガンギマリーを飲めばスキルが強化されるだけでなく、1日は睡眠不要で動けるようになり、3日は死にたくなくなる!ガンギマリー最強!」

  

「ぐっ……!どうすればいいんだ!」


『僕を藍さんと一緒に使え!そうすればより強靭になる!』


 その時、黄剣魚とは違う声が、俺の脳内に響き渡った。


緑和布グリーン・シーウィード……キミも自我に目覚めたんだね。よし、やろう!」


「うぉおおおおお!!させるか糸爪イトヅメ!!」


 アリアドが堅くなった糸を爪のように振りかざす。


『させるかよぉ!』

 すかさず、黄剣魚が糸を裁断する。


『今だブチ込め!!』


 黄剣魚が作った隙、無駄にはしない!


「緑和布+藍湧水インディゴ・ウォーター緑藍りょくらん併用、大海網オーシャンロープ!!」


 真水を帯びた胞子から、潤いのあるワカメのような植物がアリアドの身体へと伸び、彼の身体を拘束していく。


「うわぉ!き、筋力で……ぶ、ブチ破れ……ない!ぐそぉ!」


 アリアドはしばらく抵抗したものの、数分と経つ頃には抵抗を辞め、黙り込んだ。






「ワカメの匂いをかいで……まだ純粋だったあの頃を思い出しました……」


 蛸鎧でケーシーと2人の後を追おうとしたとき、再びアリアドが口を開き始める。


「漁村で生まれ、冒険者に憧るも……家計の都合で夢を諦め、漁に出る日々。捨てたはずの夢が心をむしばみ……気づいたらこんなになっちまった」


「……アリアドさん」


「少年よ、なんで人間って夢を抱いてしまうんでしょうか……」


「ごめん、俺はそういう哲学的な話はあんまり得意じゃないから不器用な答えになっちゃうかもしれないけど……」


 俺は自分なり答えを考え出し、アリアドに語り掛ける。


「きっと、みんなお星さまになりたいんじゃないかなって」


「お星さま……つまり、希死念慮ということ?」


「いや、かつて3人だけいたとされる0級冒険者や惑星移住を成し遂げた英雄みたいな立派な存在になってみたい……って感じの意味だ」


「ああ……なるほどです。そうだった……俺は、おじいちゃんみたいな立派な人に……なりたかったんだ」


 少しだけ哲学的な問答を交わしたアリアドは、そう言い残すと疲れたのか眠り始めた。


 俺は念のため、彼を縛る大海網の量を3倍に増やした後、穴の真下で10メトールほどジャンプをすることで地上へと向かった。

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