ガンギマリー編

邪悪の巣窟、リンガアカデミア

 オワリス王国があるウミツロード大陸は、惑星トウガイアにおける唯一の大陸であった。


 そして、その中心部には、3000年前の人類が結託して作り上げた石造の巨大都市『イキテーク・オレラ』が半壊した状態で今も佇んでいた。


「みんな、ワシのもとに来てくれてありがとうねぇ。今日はね、みんなの卒業課題の進捗を、見せてもらうよぉ」


 そんな由緒ある遺跡の一角にて、顔の右半分に傷があり、右目がない白髪の少女が6人の生徒を相手に授業を始める。


 彼女の名は、リンガ・トムソロ。


 かつてこの星の人類を衰退させ、今でも『学校』という手段を使って人類滅亡を目指している、惑星トウガイア最大の巨悪である。




「はい!まずは僕の進捗を見てください!」


 生徒の1人でハルパー工場長の息子でもある少年、ジュピテルが真っ先に手を挙げる。


「親父の部下を手助けして、、親父の工場で苦しんでいた従業員たちをよりよい環境に転職させました!」


 自作魔道具で撮影した集団退職の様子を、自慢げに見せるジュピテル。


「親父という名の悪を懲らしめ、同時に苦しんでいた人々を救う!救世主としてはこれ以上にない行為ですよね?」

 

 リンガは一瞬だけ邪悪な笑みを浮かべ、すぐに当たり障りのない笑みを浮かべなおした。


「いいねぇ!ワシが一番大好きな救世主の形じゃん!弱きを助け、強きをくじく!最高!ジュピテル少年、もっと親父さん苦しめちゃおうかぁ!」


「はい!褒めてくださりありがとうございます!次は同級生で友人のソクゼンくんを使ってもっと親父を苦しめます!」




 ジュピテルの発表が終わった後も、リンガは他の生徒たちの進捗を聞いていく。


「ジュピテル助けつつ……各地の魔物を強化していってる……この間は内陸部でノーズリザードにメザメ食わせて、0級魔物誕生させた」


 魔物を缶に入れ自在に使役するスキル『魔物自販機』を持つ男子生徒、ソクゼンが自らの所業を少し誇らしく語る。


「なるほどぉ!凶暴な魔物をいっぱい作り、『社会』という邪悪な機構を崩壊させることで人々に救済する作戦!ソクゼン少年、なかなか賢いねぇ!」

 


「刺さった人間を無性別の完璧な人間へと変えるスキル……残念ながらまだ上手くできていない……すまない」



 男性の正装を着用した女子生徒、コピペトロが自身のスキル作成が不調であることを告げる。


「いいんだよぉ!まだ卒業まで時間あるし、焦んなくていい!それにぃ、今の状態でも十分立派なスキルだよ!コピペトロ少年、引き続きがんばろぉ!」


 

「あーしが作った違法ポーションによる救済計画、バリバリ順調に進んでるしー。半島のみんなが、薬の作用で幸せになってたーよ」


 服に植物のツタが巻き付いている女子生徒、ケーシーが自作のポーション「ガンギマリー」を使った計画の進捗をローテンションで話す。


「いいねぇ!ただ、冒険者たちに嗅ぎつけられないようにねぇ!ワシ、騎士団は口封じできても、冒険者はムリだからぁ!」


「わかったー。今後はちゃんとー、その辺も気を付けるねー」


 

「体細胞の一部を媒体に対象を召喚するスキルで破壊神を呼ぶ計画、まだ魔力が確保できていないぜ!」


 黒髪の男子生徒、メイオーンが資材不足を報告する。


「わかったぁ!魔力の確保については、この後ワシと相談しよう!」



「ここ数週間、国はずれの食料が足りない村をめぐり、スキルで作ったパンと飲み水を提供していました」


 頭に頭巾をした女子生徒、パスティアが社会倫理的にまともな『救済』を実行したことを述べる。


「そうかぁ……パスティア少女、社会が作った倫理なんて守っていたら……人々はいつまでたっても、救えないんだよぉ・・・・・・今後に期待だねぇ」


 パスティアの建設的な行動にリンガは落胆し、遠回しに改善を促した。




 ここは、リンガアカデミア。


 リンガが若者たちに歪んだ教育を行い、人類を絶滅に導いてくれる『救世主』を生み出すために、遺跡の一室内に作った教育機関である。


「さて、中間成績だけど……これで確定だねぇ!」


 そう言うとリンガは、主観100%で作り上げた成績順位表を黒板に書きあげていった。


==========

 1位:ソクゼン

 2位:ケーシー

 3位:ジュピテル

 4位:コピペトロ

 5位:メイオーン

 6位:パスティア

==========

 

「前も言った通り、卒業時に1位だった子には、ワシの全てを相続する権利が与えられるよぉ!頑張ってねぇ!」


 こうして、生徒への激励によって今日のリンガアカデミアは閉講したのであった。




「先生ぇ、またねー」

「導師先生、また会おう」


「ケーシー少女、コピペトロ少年、またねぇ!」


 ヴァン!!


 放課後、生徒たちが扉型の魔道具『縮地扉』を開けてくぐり、それぞれの拠点へと戻っていく。



「あっ……そういえば先生、この間レーシックドラゴンの活躍を物陰で見ていたときに、先生と顔がほぼ同じな少女を見かけたんだけど……」


 ソクゼンの証言を聞いたリンガの顔が、一瞬でこわばり、不快感に満ちた表情を浮かべる。


「ひぃ!嫌な話題しちゃってすみませんでした!」


 理由はわからないがとりあえず謝るソクゼンを見たリンガは、次第に落ち着きを取り戻していった。


「……ごめんねぇ。ちょっと、15年前の嫌な思い出を思い出しちゃっただけで、キミは何も悪くないよぉ。さあ、お帰り」


「は、はい!」


 ソクゼンは急いで扉をくぐり、教室を去っていった。




 「……そうかぁ。捨てたアイツも、もう冒険者になれる年頃だったかぁ」


「セン公、どうしたんだ!?」


「いや、なんでもないよぉ。それより、ちょっと今から魔力確保の相談をしようかぁ」


 過去に行った試みとその顛末を思い出しつつ、リンガは頭のかさを深く被り、メイオーンとの相談を始めた。

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