添い寝と夢で見たスキルの新境地

「うへへ……やっぱりヨウロの布団の中は、あったかいです」


 プルサさんが緊急1級冒険者会議から帰宅した後、俺の部屋にいつものごとくナーシェンがやって来た。


 そして今日も、俺の布団の中にはナーシェンがいた。




「ヨウロ……顔赤いけど、大丈夫ですか!?」


「あ、ああ……大丈夫だ。その……ちょっと心臓がうるさいだけだ」


 大丈夫なわけがない。


 異性が自分の至近距離にいるというのは、何回経験してもドギマギするものである。


「まあ、そうですよね……違う性別の人の近くにいるとドキドキするのが人間だって、プルサお姉ちゃんも言ってましたし……」


 暗闇であまり良く見えないが、ナーシェンの顔が少し色づいている気がした。




「……じつはボク、生まれた時からずっと、たまに見る悪夢が……あるんです」


 だいぶ眠気を帯びた声で、ナーシェンが俺に語り始める。


「左眼しかないバケモノが……ボクの顔を焼こうとするんです……それで、無意識のうちにスキルを使ってバケモノを焼いてしまう……そんな……夢です……」


「そっか……悪夢を見ないために俺にできることがあったら……教えて……ほしい……」


 俺もだいぶ眠気に飲まれたような声で、ナーシェンに問いかける。


「大丈夫……ですよ。だって、キミと添い寝し始めてから……見なく……なった……か、らぁ……」


 そう言い終えると、ナーシェンの口は寝息を語りかけはじめた。


「……おやすみ」


 俺も、眠りに落ちていった。





 

その晩、俺は夢を見た。


 俺は1人で故郷であるイヌヤ村にいて、村の方では毎年恒例の収穫祭が開催されていてにぎわっていた。


「よぉ、ヨウロ!」 


 人込みの中を歩いていると、モヒカン頭の男性が目の前にあらわれた。


 俺の知り合いに、こんな人はいない。


 しかし、彼が何者なのかはすぐにわかった。


 声に関しては半日前に聞いたばかりであった。


「その声は……黄剣魚イエロー・ソードフィッシュ!」


 男の正体、それは修行によって俺の脳内に後天的に刻まれたスキル、黄剣魚そのものであった。


「なんで、ただの技能であるはずのスキルが人格を得たのか……気になってるんじゃないのか?」


「そりゃあ、気になってる」


「じゃ、ちょっと今からオレと酒場に行こうぜ!そこできっちり話してやる」


 俺は黄剣魚さんに連れられ、本物のイヌヤ村にはなかった巨大な酒場へと足を踏み入れた。


「理由その1、オレはもともと、最低限の自我が存在していた!」


 いつの間にテーブル席にいた俺に対し、黄剣魚がいきなり理由を話し始める。


「自我って……もしかして、俺に攻撃が当たりそうかどうかを判別する機構……のことかな」


「まあ、それだな!大変なんだぜ、オレはオマエが冒険者活動しているときは基本ずっと動いているから」


「ああ……確かに!見張っとかないと急な危機に動けないしな」


「んで、理由その2!これで最後!オマエが1年の間にオレ含め4つのスキルを習得したことでスキルの輪郭を知覚し、それがスキルの自立性を促した!」


「……ごめん、何言っているか、わからないや」


 正直、俺は魔術理論にうといのだ。


「オマエ、さては理論すっ飛ばして感覚と思い込みだけでスキル習得したな……要約すると、スキルいっぱい覚えたことが原因だということだ!」


「なるほど……んで、俺はどうすればいいの?」


「助言しよう!他4つのスキルにも人格を与えろ!そうすればオマエは、他にはない強さを得ることができる!オマエらも来い!」


 そう言うと、酒場におぼろげな人影が4人分現れた。


 それぞれ、赤、青、緑、そして藍色がかっており、それらが俺のスキルそのものであることは、本能的にわかった。


「で、でもどうやって……そうか!修行法を思いついたぞ!」

 

「おっ、さすが俺たちの生みの親、どうするんだい?」


「他のスキルにも自動発動の仕様を入れて黄剣魚さんに近い状態にして、人格形成を誘発させればいいんだ!」


「いい案だなっ!じゃ、修行頼んだぜ!」


 黄剣魚にそう言われた直後、俺の夢は終わり、眼が覚めた。




「おはよう……ヨウロ……二度寝しよ……」


 俺の隣で半眠り状態になっているナーシェンが、二度寝を

推奨してくる。


「うん……そうだね……」


 おれはそれを承諾し、再び浅い眠りに就き始める……









『二度寝するな!もう8時だぞ!』


「す、すみませんイエローさん!!起きます!起きます!」


 夢の中で黄剣魚に怒られ、俺の二度寝はたった数十秒ちょっとで終わった。


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