導師リンガの影と人類を救い出す『象徴』
「0級魔物を討伐したのですか……ヨウロなら、我々が求めている人類の希望………『象徴』になれるかもしれませぬ」
緊急1級冒険者会議中、ヨウロたちの話を聞いたクァガミが彼に期待を寄せはじめた。
「彼ならば……我々と違い一般的な家庭に生まれ、後天的に強さを得た彼なら……導師リンガがまき散らしたデマを一掃できるはず……でしょうよ」
『スキル』は強化することもできないし、後天的に習得することもできない。
それはオワリス王国のみならず、この惑星中で語られている常識である。
しかし、その実態はたった1人の人間が創り出したデマであった。
「まったく……『自分自身の想いが的確に反映される』という魔術の技術を悪用してデマを真実にするなんて……リンガのアホンダラァ!」
スキル……もとい術式は魔術における武術の流派のようなものであった。
魔力を特定の物へ変換したり、物を動かすのに使ったり、物の性質そのものに干渉したり……
そういった動きを繰り返していくうち、それは脳内に『型』として刻まれ、術式へと変貌していく。
そして、子供にはその一部が受け継がれることもある。
それこそが、スキルもとい術式が生まれる仕組みであり、真実であった。
決して、手相や髪質のような生まれながらに決まり、固定されるものではなかったのだ。
しかし、現在ではアーラメの言う通り、そのことを知る者は少なく、大衆は一般常識を信じ、『できない』と断じスキルを追加習得しなくなってしまった。
結果、半世紀ほど前からオワリス王国の各種技術が衰退し始め、社会存続の危機が迫りつつあるのだ。
「私が証拠の論文を出しても、ゼロッタが『剣聖』を後天的に習得しても、みんな『家柄』と『才能』を理由に信じてくれなかった……ままならないね」
プルサは一般常識がデマであることを物心ついた時点で気付き、15歳のときに『硬化』のスキルを習得しデマを論破するための論文を書き上げた。
大衆は『オマエは魔術御三家で才能があるからできたんだろ』と決めつけ、彼女の論文を信じようとしなかった。
1年前、ゼロッタが後天的に『剣聖』を習得し、宣伝工作が得意な1級冒険者のクァガミに頼んでそれを大々的にアピールした。
しかし、大衆は『ゼロッタは代々優秀な冒険者を排出した名家で才能があったから出来たんだろ。俺たちには無理だ!』と聞く耳を持たなかった。
「でも、バックボーンのないヨウロなら……みんなが真実を信じてくれる証拠に、なりえるかもしれない」
ヨウロの先祖には、著名な冒険者も魔術師も、役人もいない。
「そう、その通りです。持たざる者だからこそ……彼は我々冒険者でもたどりつけなかった、リンガが振りまいたデマと絶望を振り払える存在になり得るのですよ!」
クァガミが導師リンガが文字通り、かつては絶望そのものも振りまいたことに触れつつヨウロに期待を寄せ続けた。
「にしても……今更聞くんだが、なんでリンガ導師とやらは、積極的に人類を苦しめようとしたんだぁ?」
リンガに関する知識が1級冒険者会議で得たものしかなかったアーラメが、導師そのものに切り込んでいく。
「ああ……確かに、導師の話は外では禁句みたいなものだから、そういったことは魔術御三家や関係者しか知らなかったものね。クァガミ、説明頼んだよ」
「まったく、ウルティメイト家当主さんは人使いが荒いですね。いいでしょう、語りましょう、御三家の汚点たる彼女のことを」
そして、クァガミはリンガについて語り始めた。
今から100年ほど前、魔術御三家の1つであるトムソロ家にリンガという女の子が生まれました。
トムソロ家は血の濃さを重視するあまり、自分と遺伝的に全く同じなクローン人間を作り、それを娘と称して家督を継がせ、代々権威を保っていました。
リンガも姉や母と同じ形、同じスキルを先天的に有していましたが、ただ1点だけ違う特徴がありました。
彼女はごくまれに起きるクローンミスにより、顔の右半分が裂け、右眼を失った状態で生まれてきたのです。
そのため、彼女は幼少期の夢であった舞台役者の夢を諦めなければならず、その苦しみのなかでとあるスキルを作り出しました。
それは、ニオイを嗅いだ者や直接食べた者を、諦めやすい精神状態にしてしまうリンゴを作るスキル『ギブアップル』でした。
リンガはそれを使い、当時オワリス王国に挑発行為を仕掛けていた周辺国の人々を次々を堕落され、国を滅ぼしていきました。
王国もその蛮行を知っていましたが、周辺国との外交に悩んでいたこともあり、むしろ彼女に権力と資金を与えてしまいました。
しかし、オワリス王国以外の国が無くなり、『導師』という称号が送られてもなお、リンガは止まりませんでした。
今度はオワリス王国をデマとギブアップルで腐らせていき、実家であるトムソロ家に属する人々も潰し始めました。
そして今から16年前、王子が誕生した日の晩に王族の半分を虐殺した後『生まれてこなければ良かった!』と叫び、どこかへと姿を消していきました。
そして今も、リンガの消息はつかめておりません……この話は、ここでおしまいでございます。
「とんでもねぇクソ野郎だな!!リンガってヤツは!!」
話を聞いた後、アーラメの口からは真っ当な意見が出た。
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