0級魔物レーシックドラゴンの討伐

 1級魔物であるノーズリザードは、大多数の個体が成体になることなく生殖し、その生涯を終える。


 しかし、同じく1級魔物であるメザメを喰った個体は、その中に含まれている成長ホルモンの影響で最終脱皮を行い、失われたはずの成体へと進化する。


 そうして、0級魔物レーシックドラゴンが生まれるのだ。




「みんな……どのスキルが封じられましたか?私は……『剣聖』が使えなくなってます」


 ドラゴンから逃げるなか、ゼロッタが状況確認のための質問を俺達に問いかける。


 レーシックドラゴンは魔物でありながら視界に入れた相手のスキルをランダムに1つ封じるスキル『聖眼せいあい』を使うことができる。


 おそらくゼロッタは、今後の作戦を立てるためにもドラゴンに見られたら真っ先に何が封じられたのかを把握する必要があるのだ。


「ボクは提灯ランタンが使えません!これしかないですけど!」


「俺は……黄剣魚イエロー・ソードフィッシュが使えなくなっている」


「そっか……ヨウロさん、申し訳ないんだけど、私と共にあのドラゴンの足止めをしてほしい……あのドラゴン、現ナガクテン町目掛けて移動してて……!」


 俺が後ろを振り返ると、ゼロッタさんの言う通り、ドラゴンが俺達のことそっちのけで現ナガクテン町へと向かっている。


「あっ、もし荷が重いのでした別に……」


「大丈夫、足止めできるよ」


 俺の身体には5つものスキルがある。


 それぞれの特徴を活かせば、たとえ1つ使えない状況であっても足止めくらいはできる。


「じゃあ俺、ひとまずアイツの視界を塞いで嗅覚をダメにする」


 聖眼の効果は対象者を使用者が見ている間だけ発動する。


 つまり、視界を塞げば黄剣魚も提灯も剣聖も再び使えるようになる。

 

 そうなれば後は、ナーシェンの火力で焼くなりゼロッタの聖剣で苦しめるなりすればいい。

 

 俺は覚悟は決め、複数のスキルを組み合わせ始める。


藍湧水インディゴ・ウォーター青鯱魂ブルー・オルカソウル藍青らんせい併用、泳鯱スイミングオルカ!」


 俺は湧水と共にシャチの魔法弾を放つ。


 水を得たシャチは、獲物目掛けてどこまでも空を自由自在に泳ぎ、相手の心臓や眼へと食らいついていく!


『グルァアアアアアアアアアアッ!』


 デリケートな部分を攻撃されたレーシックドラゴンの高度がどんどんと下がり、動きが鈍くなっていく。


「よし……これでだいぶ当てやすくなってきた……いくぞ!」


「藍湧水+青鯱魂+緑和布グリーン・シーウィード、藍青緑併用、泳鯱種スイミングオルカシード!!」


 そして、俺は真水と緑和布によって生み出した胞子を付与したシャチ魔法弾をドラゴンの眼を狙って飛ばす。


 なお、この技は3つのスキルを同時発動する分、相手を狙いにくいという欠点があったため、事前に相手を消耗させてから放った。


『グルッ、ググッグ、グアアアアアアアア!!』


 レーシックドラゴンの眼を起点にワカメに似た植物が生い茂り、ドラゴンの眼が隠されていく。


 封じられた黄剣魚が解放される感覚を感じつつ、俺はさらに追撃の構えを取る。




 その時であった。


『グルアアアアアアアオンッ!グラララァオンッ!』


 得たばかりの視野を奪われ、嗅覚さえもワカメのような植物のニオイで支配されてしまったレーシックドラゴンが、癇癪かんしゃくを起した。


『グルァアアアン!グララアン!』

 ガキ、ガキッバキッ!


 激しく身体を揺さぶり、進化に伴い硬質化し鋭くなったウロコをどんどんと俺の下へ落としてくる。


 その時


こもり!」


 ゼロッタさんが掛け声とともに、もともと持っていたというもう1つのスキル『こもり』を発動させ、ウロコの勢いを止めた。


 『籠』とは、発動と同時に自分の周囲の物を集めて自分を覆い隠す防衛向きのスキルである。


 今回の場合は、『周囲の物を自分に当たらない範囲で引き寄せる』という過程を応用し、ウロコを引き寄せて勢いを無くすことで止めたのだろう。


「ありがとうゼロッタさん!」


 バシイイイーーーン!


 続いて、レーシックドラゴンの頭上に突如ランタンがあらわれ、巨大な稲妻を突きつける。


 これがナーシェンの攻撃であることは言うまでもない。


『グアアッ!グアアア!』

 ズドオオオオン!


 ドラゴンが地へと堕ち、震え始める。


「よし……!ここは俺がトドメを刺す!」


 討伐まであと一歩という興奮のあまり、普段はあまり言わないような勝気なセリフが俺の口から出てしまった。


 トドメを刺せる手段なんて何一つ考えてないのに。


「じゃあ……頼みましたよ……」


「ヨウロ、頑張って!」


 応援してくれているナーシェンやゼロッタさんと違って、俺には火力がでる技を習得していない。


 どうしよう。

 

『ヨウロ、鋭くとがったオレをブルーさんと共に使え。そうすりゃあ、アイツにデカい一撃を入れられるぜ!』


「……その声は!」

 

 俺の脳内に、なじみ深い存在からの声が聞こえてきた。


 こんなことは初めてだが……確かにその組み合わせは興味深い。


『青鯱魂+黄剣魚イエロー・ソードフィッシュ、青黄併用、魂剣ソウルセイバー!』

 

 俺は黄剣魚が出す剣に青鯱魂の魔法弾が持つ透過の性質を組み合わせ、すり抜ける剣をドラゴンの内臓目掛けて差し向けた。


『グアアアッ!』


 内臓が傷ついた影響か、ドラゴンが吐血する。


「よし……感覚は掴んだ!次の組み合わせで決める!」


 俺はついに確実にドラゴンを葬ることができるスキルの組み合わせを思いつき、実行に移す。


「藍湧水+赤蛸足+黄剣魚+緑和布+青鯱魂……!五色併用、恵比寿 《オーシャンズトレジャー》!」


 ニュルッ……ルルン!


 藍湧水と赤蛸足を使い、両腕を起点にタコの足で発射台を形成。


 ファサ……ホオオ……!


 緑和布の胞子を周囲に巻いて植物を生やし、光合成で得たエネルギーを魔力に即時変換し魔力出力を増強。


 グオオオオオオオオオオン!


 そこから、黄剣魚と青鯱魂、そして藍湧水を組み合わせて剣のような角を持った巨大なシャチの形をした魔法弾を発射し、確実に相手の心臓を貫く。


 文字通り、持てる全てを使った最大最強の技。


 俺にとっての宝物である、5つのスキル全員の力を借りた集大成の技。


『グルッ……アアーーーーーッ」


 ドサッ……


 心臓に致命的なダメージを受けたレーシックドラゴンは倒れ、ドロップアイテムである眼を残して散っていった。


 


「や、やった……勝ったぁ!」


 俺は強大な魔物を倒した喜びで、胸がいっぱいになった。


「ありがとう、藍湧水、赤蛸足、青鯱魂、緑和布、そして黄剣魚!」


 そして、自分を支えてくれたスキルたちに、感謝の念を述べた。

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