リザード狩りの時間

「えっ、ナーシェンちゃんってそういう移動方法もできたの……?」


 旧ナガクテン町跡地への移動中、ゼロッタさんがナーシェンの移動方法に驚いた。




 ナーシェンは今、自分のスキルで生み出した空っぽで巨大なランタンの中に入り、それを浮かせつつ移動させることで目的地に向かっている。


 なお、俺とゼロッタさんは、それぞれ蛸鎧で強化した脚力と素の運動能力を活用し全力で走っている。


「あっ、大きめの池が目の前に……迂回しなきゃ」


 しばらく走ると、俺たちの目の前に大き目の池が現れた。


「ゼロッタさん、ここは俺に任せてください」


 そう言うと俺は、水場から蛸の足を生み出す赤蛸足を用いて、蛸足で作られた橋を作った。


「あっ、そのタコってそんな発動条件だったんだね……」


「水場を起点しないといけないけど、その分けっこう射程距離広いからけっこう便利だよ」


 そんな会話をしつつ池を渡り切ると、次は崖が目の前に出てきた。


「……そろそろ強がるのはやめて、ナーシェンのアレに乗っていいかな」


「だね……の、乗りましょう……か」


こうして俺たちは、目的地までナーシェンのランタンに乗ることになった。




「前方、前途、洋々と直進~!前方、堂々、居座る魔物を回避~!」


 移動中、ナーシェンはランタンの中で歌い続けていた。


 スキルは発動時に発動者が体内に蓄えた魔力を、多かれ少なかれ消費する。


 その消費を抑える手段のひとつに、詠唱というこれから起きるスキルの効果を遠回しに事前宣言する行為が存在する。


 ナーシェンは大好きで得意な歌と詠唱を結び付けるという特殊技能を開発したことで、魔力消費を極限まで抑えてスキルを発動することができるのだ。


 なお、物心ついたときからずっと毎日歌い続けてきたことにより、彼女の肺や喉は極限まで鍛え上げられている。


 もうかれこれ20分以上歌い続けているのに、いまだに息切れする兆しすら見えない。


「あっ!もうすぐ着くよ!」


 気が付くと、目の前にはかつて町だったであろう廃墟群とそこでうろつくデカいトカゲみたいな魔物たちが見えてきた。




 魔物の階級は、その魔物を1人で狩ることができる冒険者の階級によって決まる。


 1級冒険者1人で討伐可能な魔物は1級魔物、2級冒険者1人で討伐可能な魔物は2級魔物……といったように決まる。


 そのため、各階級ごとの境目はかなり曖昧な上、人間社会への有害さなど対人性能以外の項目ではけっこうな差がある。


 なお、1級冒険者1人でも討伐が難しいとされる魔物はまとめて『0級魔物』という項目に分類される。


 0級魔物の討伐が必要な場合は、1級冒険者を中心とした実力者によるチームアップが行われた上で討伐されるらしい。


「こ、今回倒すノーズリザードは眼がほとんど見えず、代わりに嗅覚が異常なほどに発達しています……」


「つまり、目くらましは効かないしニオイ系のワナはめっちゃ効くということか」


「あっ、そうです!あと、あんまり攻撃の精度も良くないので、1級魔物の中では比較的討伐しやすい方です!2級冒険者2人とかでも余裕なんだとか」


 ゼロッタさんが物陰越しに遠くにいるノーズリザードを見つつ、同じく物陰にいた俺たちに彼らについての解説を行う。


 彼らは真ん中に1つだけある眼を常時つぶっている代わりに鼻の穴を大きく開け、周囲を頻繁に嗅いでいた。




「とりあえず……まずは私が全体的に弱体化、させます!」


 そういうとゼロッタさんは思いっきり飛び上がり、左腰に付けてある剣を右手で引き抜きて白く輝かせた。


「あれが……『剣聖』!」

 

 ゼロッタさんのスキル『剣聖』は剣に魔力と反発するエネルギー『聖力』を付与することができる。


 剣を輝かせている物質こそが、聖力そのものであろう。


空歩剣スカイウォーク・ソード!」

 バシュバシュバシュン……!!


 剣は振り払われ、付着していた聖力がビームのごとく飛ばされノーズリザード数匹に被弾する。


『グオゥ!グオ!グオオーン!』


 被弾したノーズリザードは、毒を喰らったかのようにもだえ苦しみ始める。


 それもそのはず、聖力は魔力由来の物質で身体の大部分を構成する魔物にとっては身体を蝕む毒そのものなのだ。


「これでだいぶ弱体化しはず……さあ、試しにどうぞ!」


 ゼロッタさんの指示を受け、俺とナーシェンは攻撃体勢を整える。


緑和布グリーン・シーウィード!からの青鯱魂ブルー・オルカソウル!青鯱魂!青鯱魂!」


 俺は、自身の身体に生えたワカメっぽい植物の匂いに困惑させてから至近距離で放つ青鯱魂で内蔵を攻撃してどんどん弱らせる。


 青鯱魂は単独だと短距離しか飛ばせない上に低威力である。


 しかし、物体を透過できるため、至近距離なら内臓に対しダイレクトにダメージを与えることができるのだ。


 『グオオオオオオオン!』


 やがて、内臓に限界が来たのかノーズリザードはぶっ倒れ、ドロップアイテムとして眼球のみが残った。


「うーん……俺の戦闘スタイル、地味だな」


 自分の戦闘スタイルに悩みつつも、俺はドロップアイテムを荷物袋に入れた。




 一方ナーシェンはというと。


「業火!轟音!豪奢に燃えて~!」


 ボッ……ゴオオオオオオオオオオッドン!


 赤っぽいランタンを繰り出し、派手に爆発させて周囲のノーズリザード3匹を一気に焼却していた。


「ナーシェンはすごいな……1級魔物を一気に3匹も焼くなんて」


「範囲攻撃には自信ありますから!あと、事前に弱らせてくれたゼロッタさんのおかげでもあります!」


 ナーシェンは小柄こがらながら確かにある胸を自信満々に張りつつ、己の火力を誇る。


「正直、火力だけで言えばナーシェンちゃんは国内最高峰です……」


「でも、ボクはヨウロの臨機応変な戦闘スタイルも大好きです!」

 

「そうか……ありがとう」


 ナーシェンに戦闘を褒められた俺は引き続き、緑和布の臭いを利用しつつノーズリザードを1匹1匹的確に狩っていった。



 

バシャアアアアアアアッ!!


 そんな中、突然皮がハジケ飛ぶような音が少し遠方から聞こえてきた。


「こ、ここ、これは……!」


『グルウウウウ……ガアアアアアアア!!』


 気が付けば前方には眼をしっかりと見開き、翼を広げて空を飛ぶノーズリザードがいた。


 もともとは黒っぽかった体色も白っぽくなっており、あきらかに別種の生物と言ってもいい変化を遂げていた。


「まさか……脱皮して進化したのか!!」


「……おそらくそうだろうね。つまり、この竜は0級魔物のレーシックドラゴン……!」




 冒険者生活2日目。


 俺はいきなり最上級の魔物である0級魔物と遭遇してしまうことになったのであった。


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