1級冒険者会議

「おい、そろそろ1級冒険者会議を始めてもいいか?」


 ヨウロたちが初依頼をこなした日の晩、首都ナゴンにあるギルドセンターの2階にて国内にいる1級冒険者全員による会議が始まろうとしていた。




 1級冒険者には、ギルドセンターの運営にある程度口を出す権限が与えられており、ギルドの受付員を司会にして時々会議が開かれているのだ。


「特に問題なしでございます。アーラメ様、会議の方を初めてください」


 魔術御三家の1つであるオルドアークス家の当主で1級冒険者でもあるクァガミが、ギルドの受付員で司会でもあるアーラメに少し変な丁寧語で語り掛ける。


 彼はオルドアークス家の正装を身に纏い、鏡のような水色の眼をしていた。


「本日のお題は、これだ。魔物どもがこれから盛り合う季節になってめっちゃ増える!……ってこの論文に書いてある」


 アーラメが、今年の魔物の繁殖期がいつになるかを予測している論文を机に置く。


 なお、アーラメの本性はすでに1級冒険者全員にバレているため、彼女は1級冒険者会議ではずっと素の荒い口調のままである。



『多くの魔物が繁殖期に入って暴れまわるので冒険者たちで対処が必要だが、人数不足である……要するに、そういうことだよね』


 とある1級冒険者が遠隔操作する影で出来た怪物『分身影アバターシャドー』がアーラメが言うはずだった説明を横取りする。


「そういうことだ。アンタは理解が速くて助かるな……速すぎて時々怖いけど」


 冒険者は後天的にスキルを習得する者が極端に減ったことにより、できる人間が少なくなってしまい、10年ほど前から人材不足に陥っている。


 オワリス王国の全盛期とされる50年前より総人数は8分の1になっており、かつて十数人ほどいた1級冒険者も、今では4人しかいなくなっていた。


 そのため、毎年魔物の繁殖期になるとすべての魔物に手が回らなくなり、常々問題視されているのだ



『まあでも、そこはもうギルド側で依頼を選別するとかしないと解決はムズいんじゃあないか?』


 東オワリスにいる1級冒険者アルク・シュタインが、遠距離間で会話ができる鏡型の魔道具『対話鏡たいわきょう』を越しに発言する。


 彼は赤髪と白い角、生まれ持った強靭な肉体を持っており、鏡には両肩の端が写っていないほどに筋骨隆々であった。


『皆がスキルを後天的に習得できることを信じ、習得してくれれば、冒険者が増えて話は変わるかもしれないけど……』


「し、師匠……それは難しいですって。そんなことより、もっと今からでもできる対処をしないと」


 分身影の現実性の低そうな意見に対し、つい半年ほど前に1級冒険者になったばかりの少女、ゼロッタが反論する。


「だな。確かにアンタの言う啓蒙けいもうも大事だが、もっと手軽な解決策を優先すべきだ。……例えば!」


 そう言いながらアーラメは、受付の仕事をしているときにつけた依頼達成記録の1ページを皆に見せた。


 そこには、ヨウロが2級魔物であるスライムイーターを倒したことが記録されていた。


「2級魔物を単独で倒せる実力がある3級冒険者は、即座に昇格させるとか!」


「な、なるほど……!確かにそういうのがあれば……モチベーションがあがると思います!」


「現在の昇給はある程度の依頼達成数が必要とされておりますが、実力があればそこを多少無視する……なかなかアリですね」


 アーラメの提案に、ゼロッタとクァガミが賛同する


『しかし、だ。経験を積んでいない者に対する安易な昇級は、事故のもとになる可能性がある。そこはどう思う?』


 対話鏡越しに反対意見を述べるアルク。


「ああ、そんな当ったり前のこと、すでにわかっているよ……でもなぁ、コイツに限っては昇格していいだろ!」


 続いて、アーラメがヨウロの冒険者情報が書かれた資料を4人の1級冒険者に見せる。


『1、2、3、4……この冒険者、なんでスキルをこんなに持っているんだ……?あのリンガですら、3つだったんだぞ……』


 アルクが16年ほど前に王族の半数を殺害した凶悪導師の名前を出しつつ、彼のスキル所持数に恐れおののく。


 人間は生まれながらにして、両親のスキルの片方か、2人のスキルが合わさったようなスキルを1つだけ持って生まれてくる。


 そのため、スキルは追加習得できないと思われているこの国において、2つ以上のスキル保持者はほぼいない。


 4つ以上持つ人物となると、過去にいた英雄くらいしか該当者がいなかった。


『確かに、こんなにスキル持っていたらいきなり昇格させてもなんとかなりそうだな……さっきの反対意見は、一部撤回する』


 『スキルを5つも持っている』ということは、スキルの真実を知らない人にとってはとても衝撃的な情報でだったのだ。




「これから数か月は重要度の低い依頼は掲示板に出さないようにし、ヨウロは特例で昇格させる!以上!解散だオラァ!」


 会議は終わり、アーラメは解散を告げるとともに退勤していった。


 対話鏡は休眠モードに入り、クァガミは家族会議を行うためにそそくさと帰っていった。


 ギルドセンター2階には、分身影とゼロッタのみが残った。


「……にしてもプルサ師匠……あのヨウロって人も……あなたの弟子、ですよね」


 ゼロッタが分身影の操り主であるプルサに対し、ほぼ確信に近い疑問を投げつける。


『ピンポーン。正解だね。あの子はキミのおとうと弟子ってヤツだよ』


「いいんですか……?いきなり2級に昇格させちゃっても?」


『あの子はね……とっても上昇志向が強いんだ。お父さんやお母さんにいっぱい仕送りしたいんだって。だから、いいかなって』


「ふーん……まあでも、ちょっと心配なんで今度見かけたら声かけてみますね」


『そっか……弟子同士の共闘……楽しみにしてるよ。じゃあ、またね』


 そう言い残すと分身影は消えていき、ギルドセンターにはゼロッタ1人のみが残った。




「恥ずかしいけど……頑張って声、かけてみるぞ……!えい、えい……おー!」


 誰もいない部屋で己を鼓舞した後、ゼロッタはギルドセンターから出ていった。

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