ハルパー工場長、集団辞職されてしまう
「申し訳ないですが、我々はこれ以上あなたには従えません!」
ヨウロが初めての依頼をこなしていた日の夕方、ハルパー工場長は総作業員数の9割に匹敵する数の辞職届を副工場長から受け取ることになってしまった。
「それを出して後悔するのは……オマエたちの方じゃないか?だってオマエら、この工場以外の就職先なんて……ないだろ!!」
辞職届を出されてもなお、強気な姿勢を崩さないハルパー工場長。
しかし、対する副工場長も毅然とした態度を崩さない。
「私は貴方がヨウロくんをクビにしたその時から、虎視眈々と再就職の準備を進めておりました。これを見てください」
副工場長がとある書類を見せつける。
「これは……王国東の方にある工場の内定書……!しかも俺の工場と同業者な上に月給が2倍……!」
「探すのにけっこう苦戦しましたが、無事、辞職届を出した従業員全員の再就職先が決まりました。今までありがとう、ございましたぁ!」
副工場長が今までの恨みつらみを込めて少しイヤミったらしい言い方で感謝の言葉を述べる。
「うっ、ウグウウウ……!!」
ハルパー工場長は自主退職など想定していなかった。
いざとなったら、自らのスキル『筋力増強』で筋肉を増やして脅せばいいと思っていたのだ。
しかし、この数となるともう止められない。
仮に暴力で黙らせようと思っても数の差で取り押さえられるのが目に見えている。
「お疲れ様でしたー」
「おつー」
「ケッ、もう二度と来るもんか」
「うっ、うぐっ、ぐう……」
従業員が捨て台詞を吐きながら次々と帰っていく中、ハルパー工場長はただうなだれることしかできなかった。
「貴方が従業員に暴力や暴言を振るわずに、きちんと適切な給料を払っていたなら、結末は違っていたかもしれませんね」
最後に、元副工場が捨て台詞を吐いて去っていき、工場内には1割の従業員と工場長のみが残った。
「ああっ、なんで!なんでぇ!なんでなんだ!」
工場長の嘆きが、すっからかんになった工場にこだました。
「にしてもジュピテルさん、みんなの分の再就職先を紹介していただき、ありがとうございました」
それから1時間後、元副工場長であるサイクルォは工場長の息子であるジュピテルと料亭で会食していた。
「いえいえ、僕もヨウロが解雇された件に関しては思うところがあったので」
ヨウロの解雇がきっかけで、サイクルォは集団退職を計画し始めた。
もともと工場の労働環境が劣悪なのもあって、賛同者はすぐに集めることができ、9割にまで膨れ上がった。
しかし、彼らの再就職先がなかなか見つからず苦労していたところ、ジュピテルがこの計画に賛同し協力。
結果、オワリス東部にある同業者を紹介してもらい、無事に受け入れられることになったのだ。
「それに、まだまだ親父には苦しんでもらわないと……」
「……ん?どうしましたか」
「いいや、ただの独り言だ。気にしないでくれ」
ジュピテルは独り言を誤魔化しつつ、リンゴ酒をゴクリと飲みほした。
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