寂しがり屋で甘えん坊な同居人、ナーシェン

「ただいま」

「たっだいま!」


 初依頼の報酬を抱え、俺とナーシェンはプルサ師匠が待つ屋敷へと帰宅した。


「おかえり。その量の報酬を持っているってことは……きちんと成功したみたいだね」


 師匠が金貨が入った袋を見て、俺たちの成果を察して微笑んだ。

  

「そういえば、夕食はどうする?」 


「あ、それに関してはギルドセンターで提供されていた肉入りシチューですでに済ませました!」


 ナーシェンが元気よく、外食したことを告げる。


「そっか。まあ、若い子たちにワタシが食べるゼリー食品は合わないからね」 


 プルサ師匠は外見相応に小食かつ食へのこだわりが薄いため、食事は基本的に最低限の栄養素が入った『ゼリー食品』しか取らない。


 そして、師匠が俺たちに用意する食事も9割がそれである。


 俺たちは夕食がゼリーになるのを防ぐべく、事前にギルドセンターで食事を済ませることにしたのだ。 


「んじゃ、俺たちは自室に戻りますね」


 そう言って俺は、玄関を兼ねた大広間を抜け、廊下に入っていった。




 プルサ師匠は、ウルティメイト家という魔術師のエリート家系の血を引き、現当主を務めているすごい人である。


 俺達が暮らしている屋敷もウルティメイト家の魔術師たちが100年以上前に建てたもので、本来は20人前後が住むことが前提の家なのだという。


 しかし、現時点で住人は俺を含めて3人しかいない。


 数十年ほど前から流行り始めたエリート嫌悪主義によって家柄の高い人間を狙った一般市民による襲撃事件が多発。


 師匠曰く、その凶刃から逃れるべく、一族の多くがウルティメイト家であることを捨て去っていったのだという。


 さらに、先代当主であったプルサ師匠の両親も3年前に暴徒250人に襲われ殺害。


 この事件を契機に、師匠とナーシェンを除いたウルティメイト家の人々がその名を捨てさり、今に至るのだと、数か月前の師匠が言っていた。


「エリートにはエリートなりの悩みがあるんだろうな……」


 空室の部屋を横目にそう呟きつつ、俺は自室となっている部屋へとたどり着いた。




「さてと、今日のスキル使用記録でもつけとこうかな」


 俺は師匠の指示でここ1年間ずっと書き続けているスキル記録をつけるべく、記録用の手帳を開いた。


 師匠いわく、毎日の記録をつけることでスキルの可能性に気付きやすくなるのだという。


「やっぱり藍+赤の組み合わせは利便性が高いな……身体能力が一気に上昇するだけで魔物の意表を突けるし。あと緑で視界を遮る作戦も上手くいったし……」


 俺は独り言をつぶやきつつ、今日使ったスキルの組み合わせと戦闘過程を挿絵を交えつつ書き記した。




「……さてと、そろそろ寝ようかな」


 23時になったころ、俺は寝間着に着替えて布団の中に入る準備をし、待つことにした。


 ドンドンドン!


 少し力の入ったノックが、俺の部屋のドアを響かせる。


「入っていいよ、ナーシェン」


 扉が開くと、俺と同じく寝間着に着替えたナーシェンが思いっきり飛び出してくる。


 消防団の服装に似た冒険者としての装備とはまた違った魅力が、彼女の寝間着から醸し出される。

 

「ヨウロー!」


 ナーシェンが思いっきり俺に抱き着いてくる。


 柔らかい感触が、俺の肌に伝わってくる。


 俺は軽く抱きしめ返した。





 「実は、ナーシェンは3年前に育ての親が殺された精神的ショックで……極度の寂しがり屋になっているんだ」


 半年前、俺はプルサ師匠の口を通じて、ナーシェンが心に負った傷のことを知った。


 「ナーシェンは……1人では街の外に出ることや寝ることもできない。だから、キミもナーシェンと添い寝をしてほしい」


 そのころから少しナーシェンのことが気になっていたのもあって、俺は師匠の願いを了承した。


 そしてそれ以降は、ほぼ毎晩のごとくナーシェンが添い寝してくるようになった。


 師匠曰く、『気に入られた』のだという。





「ヨウロぉ……眠い……」


 俺に抱き着いてから数分後、ナーシェンが眠気に呑まれ始めた。


「よし、じゃあ一緒にベッドに入ろうか」 


「うん……」


 俺は夢見心地なナーシェンを先にベッドに入れた後、続いてベッドに入った。


「おやすみ……明日もがんばろぉ……」


 そう言ってナーシェンは眠りについた。


「そうだね。……おやすみ、ナーシェン」


 俺はナーシェンの寝顔を見つめつつ、そのまま眠りへと落ちていった。


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