初依頼と月給並みの報酬
「
『ピギャーーッ!』
「これで31体目……3100サキンってとこか」
首都ナゴンから南に500メトールのところになる農園地帯付近にて、俺はクサクイスラムを順調に倒し続けていた。
「討伐数の証明のためにも、きちんとドロップアイテムは回収しないとな」
俺はさっきのクサクイスライムが残したドロップアイテムである『スライムコア』と呼ばれる石を回収した。
魔物の身体は動物や植物と違い、一部例外を除きドロップアイテムと魔力由来の成分で構成されている。
そのため、生命活動を停止すると魔力が循環されなくなって身体の維持ができなくなって消滅し、結果としてドロップアイテムだけが残るのだという。
「閃光、脚光、すなわち
一方、ナーシェンは歌っていた。
しかしこれは、れっきとしたスライムとの戦闘行為であった。
詠唱代わりの歌唱が終わり、彼女の前方に眼の意匠がある黄色いランタンが生成される。
ピシュウウウンンン……!!
『『『ピギャッ』』』
そして、そこから草むらに隠れたクサクイスライム6体めがけて的確な出力で繊細なビームが放たれ、辺りにはスライムコアが6匹分転がった。
ナーシェンはプルサ師匠の血のつながっていない妹であり、優秀な魔術師でもあった。
そして、先ほどのランタンは彼女が生まれつき持っていたスキル『
どうやら、光のビーム以外にも電撃や炎をくり出すこともできるらしい。
「よっしゃ!これで33体目だ!」
「おおう、ちょっと負けた。さすがナーシェン」
「すごいでしょ!ボクね、火力と攻撃範囲には自信あるんだ!」
俺はこの一年の修行を通じて薄々感づいている。
ナーシェンの火力も攻撃範囲も国内トップクラスであろうことに。
「んじゃ!もっともっとがんばろー!」
「そうだな!」
そうやって2人で決意を新たにしたそのとき、
ドタドタドタドタドタドタッ!
『バオオオオオオオオオオオ!!』
クマの身体とアリクイの頭が合体したような見た目の魔物が、突如として俺たちめがけて走り出してきた!
「あっ、あれはたしか依頼書にも名前が書かれていたスライムイーター!プルサ師匠の家にあった本以外で見るのは初めてだ……!」
2級魔物であるスライムイーターは、スライムしか食べない偏食性とスライムだけ食べているとは思えないガッシリとした身体を持つ。
どうやら、スライムが蓄えていた栄養素を体内で筋肉に変換しているらしく、その筋肉で外敵を追い払うのだという。
「ここは俺に任せろ!」
俺は修行の成果を確かめるためにも、率先してスライムイーターの前に出た。
『バオオオオオオオオオオオ!』
ガキンッ!
まず、俺が攻撃を受けそうになった時に発動する『
「藍湧水
続いて、身体から湧水を出す『
これによって、通常時では心もとない俺の身体能力を大幅に底上げすることができるのだ。
バシュッ!
底上げされた脚力を活かし、俺は一気に5メトールほど飛び上がる。
「
そして、緑和布の胞子と青鯱魂の攻撃を同時に浴びせたあと、地面に着地した。
『バオ!?バオオオオッ!!』
モササササササァ……!
俺の数撃ですでに出血していたスライムイーターの顔や身体を、ワカメのような植物が覆い始める。
相手が視界不良になっている隙に俺は自分の武器である
「いくぞおおおおおお!!」
グサアアアアアアッ!
そして、持てる全ての力を込め、スライムイーターの頭部を全力で突き刺した。
『バオオオオオッ……!』
断末魔はやがて止まり、スライムイーターはドロップアイテムである『スライムイーターの舌』へと変わり果てた。
「すっごいじゃんヨウロ!2級以上の冒険者じゃないと1人では倒せないとされる魔物を、3級時点たった1人で倒せるなんて!」
ナーシェンが俺の討伐行為に称賛を送ってくれる。
工場で粉々になった俺の自尊心が、少しだけ治った気がした。
「それでは、この依頼はここで終了とさせていただき、ただいまより報酬の支払いを行います」
あのあとも俺たちは日が暮れるまでクサクイスライムを狩り続け、俺が300匹ほどクサクイスライムを狩ったあたりでギルドセンターへと戻った。
そして今、報酬が支払われようとしていた。
「まずヨウロさんの報酬についてですが……35,000サキンですね」
「おお……!」
かつての給料約2週間分の金額を提示され、俺は思わず感嘆した。
「ドロップアイテムを全てギルドに買い取っても合う場合なら、プラスで40000サキン貰えますよ」
ギルドセンターには、依頼のなかで入手したドロップアイテムを買い取るサービスがある。
「では、お願いします」
俺はスライムコアもスライムイーターの舌も特に欲しくなかったため、素直に売り渡した。
「はい、では報酬の75,000サキンをお渡ししますね」
俺の手元に、かつての月給と同じ額の金貨が入った袋が手渡される。
「重っ!……でも、嬉しい。これで、もっと父さんや母さんに楽させることができる!」
こうして、俺の冒険者生活は華々しいスタートで始まったのであった。
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