V.UPの通知と森の中
翌日インすると通知があるというランプが点灯していた。ウィンドウを開けるとその通知は運営からだった。5日後にメンテナンスとV.UPがあるらしい。
・サーバーを強化するために5日後の0時から24時までの24時間メンテナンスを行います。その間はログインすることができません。
・サーバー強化と同時にV.UPを行います。
今回予定しているV.UPは次の通りです。
① 戦闘職が上級ジョブに転換できる様になったのと同じく合成職の方も上位職に転換できる様になります。合成上級職はマイスターと呼ばれ、新しいレシピを合成することが可能になります。合成職人のマイスターへの転換は各ギルドのお題をクリアすることで転換することができる様になります。またプレイヤーが複数の合成ギルドのマイスターを取得することも可能です。
② 一部の印章NMの仕様を変更します。従来は印章NMについてはそのNMのレベルが固定されていましたが今後はNM戦の参加者のプレイヤーの中の最高レベルを基準としてそれに対応した強さとなります。
③ 今まで連続ログインが12時間を超えると強制終了し、ペナルティとしてその後1時間はログイン出来ませんでしたが、ペナルティの時間を1時間から10時間に延長します。
1つ目については、戦闘職は上級に転換できるがこのPWLには戦闘よりも合成を楽しんでいるプレイヤーもいる。彼らがマイスターと呼ばれる上級職人になれるチャンスが出てきたというのは多くの合成職人に受け入れられるだろう。それと同時に全てのプレイヤーに公平であろうとする運営の意図が見えている。
2つ目については大きな反響があるだろうな。おそらくNMのレベルが参加者の最高レベルより10や20上になるとか上振れした設定がされるのだろう。レベルを上げてから楽に倒すというスタイルが通用しないということだ。印章NM戦という限定を考えると100枚、200枚の印章NM戦を指しているんだろうな。良いアイテムをドロップしたし。
3つ目については俺は関係ないな。元々ギリギリまでインし続けていない。PWLには廃人が余りいなさそうだから影響を受けるプレイヤーはいないと思うが念のための処置なんだろう。いや合成職人ならいそうな気もする。いずれにしても健康第一だよね。
(ミントはこのV.UPについて知識はあるのかな?)
(その情報は持ち合わせていません。V.UP後になれば説明できることがあると思います)
まぁそうだろうな。先に情報を開示することはないか。それにしても運営もなかなかいろんなことを考えているなと思って通知を見ているとタロウが俺の太ももに自分の体を押し付けてきた。
「主、畑の見回りの時間なのです」
タロウの上に乗っているリンネが言った。ランとリーファも同じ様にタロウの背中に乗って俺の方を見ていた。
「おお、ごめん、悪い悪い。行こうか」
V.UPについては情報クランに聞けば教えてくれるだろう。今日は忙しい、この畑の見回りが終わると試練の街から森の街へ船ではなく歩いて移動することになっている。
畑の見回りを終え、ランとリーファに留守番を頼んだ俺たちは自宅から試練の街に飛んでそこから街の外に出る。まずはサハギンNMがいる池を目指して進んでいく。途中で出会うトレントなどの魔獣はレベルが上がった俺たちの敵ではない。タロウとリンネも半分散歩気分で森の中を歩いてる様だ。
サハギンがいる池に着いた。他にプレイヤーの姿が見えないところをみるとNMはまだPOPするタイミングではないんだな。俺達は池を右手に見ながら池に沿って歩いていくと20分ほど歩いたところで森の中に伸びている獣道を見つけた。おそらくこれがその道だろう。クラリアは獣道と言っていたが道幅は結構ある。プレイヤー2人が横に並んで剣を振り回しても、問題ないくらいだ。単に整備されていないから獣道と言ったんだろうな。
「ここから森の中をひたすら歩いていく。途中でセーフゾーンがあるらしいからとりあえずセーフゾーン目指して進んでいくぞ」
「ガウ」
「分かったのです。途中で見つけた悪い敵は全部やっつけながら進むのです。タロウもやってやると言っているのです」
「そうか、タロウとリンネ、頼むぞ」
これから森の中に入っていくというのにタロウもリンネも尻尾をブンブンと振って楽しそうだ。やっぱりこいつらは戦闘大好きなんだよな。
実際森の中に入っていくとそれなりの頻度で接敵するがタロウとリンネが嬉々として戦闘をして魔獣を倒していく。
「主は見ているだけでいいのです。ここはタロウとリンネに任せるのです」
そう言われ、実際その通り従魔達だけでガンガン敵を倒していく。こっちは経験値が入るだけだ。まだ試練の街の周辺で敵のレベルが低いということもあるがそれを差し引いてもこの2体の戦闘力の高さには驚かされちゃうよ。俺よりずっと強いんだもの。
「無理をするなよ」
これくらいしか言うことがない。タロウの気配関知で事前に敵が近づいてくるのがわかると俺も準備をするがタロウとリンネで倒しては森の中を進んでいく。空蝉の術4で分身を出しているがずっと4体のままだ。
夕方に獣道が開けた場所に出た、木が生えていない一角が木の柵で囲まれている。セーフゾーンの様だ。そこには誰もいなかった。
「ここで休憩しよう。しっかりと休んで夜が明けたらまた出発するよ」
情報クランから聞いている話だとこういうセーフゾーンがこの先にもう1箇所あるらしい。休める時にしっかり休んでおかないとな。とは言っても俺自身はほとんど戦闘をしていないので疲れてないんだけど。
「分かったのです。ここにいると力が回復して元気になるのです」
タロウも柵の中に入って尻尾を振っている。タロウが横になると俺にもたれてこいと言うのでいつもの格好、上半身をタロウの腹に預けて足を伸ばすとその間にリンネが入ってきて太ももに顔を乗せた。
「リラックスできるのです」
「ガウガウ」
2体がリラックスできるのならそれが一番だよ。
持って来た夕食を食べ終えてタロウの背枕でのんびりとしているとタロウが顔を上げた。耳はピンと立っているが緊張感はない。
しばらくすると森の中から5人の男女のプレイヤー達がやってきた。セーフゾーンに俺たちがいるので一瞬びっくりした表情になったがすぐに柵の中に入ってくる。
「「こんにちは」」
5人が声を揃えて言う。
「フェンリルのタロウちゃんと九尾狐のリンネちゃんだ」
挨拶の後で女性プレイヤーが声を出した。
「こんにちは」
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
俺が挨拶を返すとちゃんとリンネとタロウも尻尾を降りながら挨拶をする。うん、それでいいんだぞ。挨拶は大事だからね。挨拶が終わるとお互いに自己紹介となった。とは言っても彼らは俺と俺の従魔達は有名で知っていますよと言われてしまう。従魔達が有名なのは知ってるが俺も?嘘だろう?と思っているとパーティのリーダーをしているウォリアーのバモスという男性が教えてくれた。
彼が言うには初期組で実質1人しかいない忍者のタクは公式の配信の動画等で有名になっているんだと教えてくれた。そう言うことかと納得したよ。それにしても動画配信の影響力ってのは半端ないんだな。
このパーティは野良で知り合ってそのまま固定パーティを組む様になったらしく、リーダーのバモス以外はパラディンのジャン、同じくウォリアーのタケシ。後衛は2人とも女性で魔法使いのモクレンと神官のブランカだ。全員が上級レベル2になったところでここのセーフゾーンを基地にして経験値稼ぎをしているのだという。俺が上級レベル6だよというと強いなと言われた。本当は従魔達が優秀なんだけどな。
「タクはここで経験値稼ぎ?印章稼ぎ?」
バモスが聞いてきたが俺は首を左右に振ってから答える。
「このルートで森の街を目指しているんだよ」
そう答えると5人が驚いた。
「タク達ってもう森の街に着いているんでしょ?」
掲示板などでタクと従魔を森の街で見かけたという書き込みがあったんだよと言いながら聞いてきた。
「うん、森の街にはすでに行っている。でも今回は歩いて行こうと思ってね」
どう言うこと?と5人から聞かれたので最初の時は自作した船で行ったんだよと言ったらえらく驚かれた。
「自作の船?」
「そう。最初は釣りをしようと思ってさ。調べたら船は売ってないんだよ。だから試練の街の木工ギルドに出向いてギルドの職員に教えてもらいながら船を作ったんだ。最初はそれで釣りしてたんだけどさ、このまま下流に行ったらどうなるんだろうって思ってね。フレンドの情報クランと攻略クランの連中に話をしたらさ、彼らも船で探索したいって話になって彼らの船も作って一緒に川を下って行ったら森の街を見つけたって訳」
「主が作った船は快適なのです」
「ガウガウ」
そう言った2体の獣魔を撫でてやる。お前達は船に乗るのが好きだものな。
「船で行くルートがあったんだ」
感心する5人のプレイヤー。だから今回は自分の足で森の街を目指しているんだよと言うと彼らが納得した表情になった。船で行くってズルしてるみたいだろう?というと皆が口を揃えてそうは思わないという。自分で見つけたルートなんだからズルとかは関係ないんじゃないかと言ってくれた。
「船という発想は普通は思い浮かばないよ。やっぱりタクなんだな」
「掲示板でもタクは持っているプレイヤーだって言われているけどその通りね」
何がやっぱりなのか、何が持っているのか自分はよく分からないが、船の移動がズルじゃないという認識をしていると聞いて少し安心したよ。
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