手裏剣を作ってみよう

 ここ数日は久しぶりに誰とも話をせずに自宅で畑仕事をメインにしてのんびりと過ごしていた。攻略クランは次の街の探索で忙しいだろうし、情報クランはそうでなくてもやることが一杯ありそうだ。


「主、そろそろ敵を倒しに行くのです」


「ガウ!」


 戦闘をしていない日々が続いたからリンネもタロウも身体がうずうずとしてきたのかな。俺もそろそろかなと思っていたので朝の畑の見回りを終えるとそこから森の街に飛んだ。


 ギルドのホールに入ると顔見知りの情報クランのメンバー達がいた。挨拶を交わして最近どうなのと聞いてみると、彼らは試練の街からこの森の街のルートを見つけた後は市内のクエストをこなしつつ周辺で経験値稼ぎをしているらしい。既に全員が上級レベル9になっていた。こっちは上級レベル5だ。随分と差がついたものだ。


 彼らはルートを探しながら敵を倒しまくり、ルートを見つけた後も他のルートがないか森の中を敵を倒しながらあちこち動き回っていたらしい。こっちは自宅でのんびりと過ごしていた。元々差があったがその差が広がるのも当然だよね。


 とは言っても彼らにすぐに追いつこうという気は全くない。レベル上げもするけど他にもやることがある。のんびりと過ごすの自分の信条だ。


 丸1日森の街の郊外で経験値稼ぎをしていると上忍のレベルが6になった。タロウとリンネも同じ様に上級従魔レベル6になっている。少しずつ強くなればいいんだ。この日は戦闘しながら手裏剣の練習もしたがようやくとりあえず真っ直ぐ飛ぶ様になった。それだけでも上達したという気がする。ファーストタッチくらいは取れるだろう。


 夕刻に森の街で借りているコテージに戻ってくると近くの大きなコテージというかオフィスにいたクラリアとトミーが俺のコテージにやってきた。


「久しぶりね」


「久しぶり」


 クラリアとトミーが挨拶をしながら庭にやってきた。2人を見てタロウは尻尾を振り、


「いらっしゃいませなのです」


 リンネが言った。もちろん俺も挨拶をしたよ。このコテージには庭にテーブルと椅子が置かれている。そこに3人が座るとタロウは俺の隣、ウッドデッキの上で横になり、リンネは膝の上に乗ってきた。今は俺の膝の上の気分らしい。


「しばらく開拓者の街の自宅でのんびりしてたからね。この街にも来ていなかったんだよ」


 クラリアによるとまだここの森の街には俺たち以外のプレイヤーは来ていないがルートはすでに公開しているので早晩やってくるだろうという。なるほどこのコテージエリアも見る限りまだ空きが多い。


 聞かれたので今日上級レベル5になったんだよと答える。彼らはやはり上級レベル9だった。


「攻略クランは次の街を見つけたのかい?」


「それがまだなのよ」


 ん?川を下って行けばいいだけじゃないの?そう思っているとトミーが教えてくれる。


「船で川を下って行けば良いと思うだろう?俺たちもそう思っていたんだけどな。あの川は先で大きな湖にぶつかっているんだそうだ」


 桟橋を出て川を半日ほど下って行った川の先には大きな湖があり、そこには魔獣が生息しているらしい。また森の奥地に進んでいる為、湖の周辺の森に生息している魔獣のレベルも上がっていて攻略が進まない。彼らは一旦探索を諦めこの街の近郊でレベル上げをしているのだとトミーが言った。


「主、その湖に行くのです。主とタロウとリンネでその魔獣をやっつけるのです」


 膝の上でやり取りを聞いていたリンネが顔を上げて言った。横になっていたタロウも顔を上げて俺を見ながら尻尾を振っている。2体とも相変わらず戦闘好きだよ。しかも俺の従魔の2体は相手が強いと聞くとやる気が出るタイプなんだよな。


「気持ちはわかるが俺たちじゃまだ無理だぞ。俺たちよりもずっと強いスタンリーらが苦労しているからな」


「では主がもっと強くなればいいのです」


 そうだなと言ってリンネの背中を撫でてやる。頑張るのですと言いながら気持ちよさそうに目を細める。うん、ぼちぼち頑張るよ。


 俺たち3人が庭のテーブルで雑談をしていると外から帰ってきたスタンリーらのパーティが庭にいる俺たちを見つけてやってきた。


 挨拶を交わした後、苦労しているみたいだねと俺が言うとその通りだと先頭に立っていたスタンリーが言った。マリアは当然の様にタロウの横にしゃがんで撫で回しているよ。


「湖が広くてな。しかも魔獣の魚がいるんだよ。1体1体はまぁ普通の強さなんだろうけどいかんせんこちらは船の上で動きが制限される上に船の周囲から攻撃してくるんだ。パーティプレイに持ち込めないのがきついな」


 水の中から飛んできて攻撃してくるらしい。俺たちが池で遭遇した魚と同じ攻撃方法だろう。もちろんスタンリーらが相手をしている魔獣の方がずっと強いんだろうけど。


 攻撃されると応戦すると船が漕げなくなってその場で止まる。すると周囲からさらに攻撃をされるというパターンらしい。聞いているだけでも相当厳しいというのが分かるよ。


「なので一旦攻略は中止して森の街周辺でレベル上げをすることにしたんだよ」


 彼らは上級レベル9だが感覚的にもう直ぐレベル10になるだろうと言っている。情報クランといい彼らは本当にゲームの最先端を走ってるプレイヤー達だ。


「次の街の攻略はまだまだ時間がかかるだろう。まずは森の街の周辺の敵をしっかりと倒せる様になってこちらが強くなるのが先だよ。印章も貯めないといけないし」


 とりあえず川の下流が大きな湖になっているところまで分かっただけでも収穫だという。その後は情報クランの連中と攻略クランの連中が話をしているのを横で聞いている俺。レベルは違うし最近は外にも出ていない、ましてやフレンドが少ないとなると入ってくる情報量が少ない。彼らのやりとりを聞いているだけで情報が入ってくるので助かるんだよ。


 多くのパーティが試練の街からこちらに向かってきているらしく明日か明後日にはこの街に着くだろうということだ。彼らは森の街に移動する目的で集団になって移動しているらしい。頭の良いやり方だと思う。目的が移動だけなら数が多い方が事故が減る。ルートがわかっているのならそのやり方はありだよな。


 自分も従魔達と一緒に船じゃなくて森の中を通って試練の街から来てみよう。タロウとリンネがいるしまぁ大丈夫だろう。


 2体の従魔にそう言うと早速リンネが反応する。


「主、今から行くのです。タロウとリンネがいれば安心なのです」


「ガウガウ」


「今日はもう夕方だぞ。また今度な」


「リンネはいつでも大丈夫なのです。タロウも任せておけと言っているのです」


 やりとりを聞いていたクランメンバーがタロウとリンネがいたら問題ないよと言っちゃったので2体の従魔のテンションがまた上がる。しまった、言わなければよかったかなと思ったがもう遅い。タロウとリンネが行こう行こうとうるさいくらいに言ってくる。


「わかった。じゃあ明後日だ。明日は自宅で合成をしたいので明後日にしよう。な。明後日は試練の街からここまで森の中を歩いてみるぞ」


「やったーなのです。任せるのです」


「ガウガウ!」


 話の成り行きで明後日は畑の見回りをしてから試練の街に飛んでそれから森の中の行軍になった。


「タクらなら問題ないぞ。タロウの気配関知とリンネの魔法、それに空蝉の術があればサクサク来られるだろう」


 空蝉の術で思い出した。この街で術3を手に入れたというと攻略クランのメンバー達とクラリア、トミーが詳しく教えてくれと聞いてきた。

 

 空蝉の術3は分身が4体、リキャストは蝉2と同じ5分だということを説明する。


「リキャストは同じでも分身がもう1体増えるのは大きいな。これでまた強くなったじゃないか」


 説明を聞いたスタンリーが言う。どうだろうか。自分は強くなるが敵も強くなっているからな。


 シーナさんというエルフがやっている店の場所を教えると後で見に行くというクラリアとトミー。何故か忍者の店は忍者以外には見られなかったがこの森の街は基本上忍でないと来られない。そこでどうなるのか検証するらしい。


 

 翌日は自宅でログインするといつもの畑の見回りを終えると工房に籠って手裏剣の合成にトライする。ミントに聞くと手裏剣の合成は鍛治スキル28が必要だ。撒菱が20だったのでそれよりも少し高い。そして鍛治スキルは撒菱を作っていらい上がっていなかったので20のままだ。ということでこの前の撒菱同様力技でスキルを上げることにする。


 自宅の隣にある工房に鍛治ギルドで買った鉄鉱石のインゴットを積んで合成開始!


 トンカチトンカチやっていると4体の従魔達が開いているドアから中に入ってきた。タロウが俺の作業が見えるところに座るとその背中にリンネ、ラン、リーファの順に座って作業を見る。


「見てもいいが楽しいか?」


「楽しいのです」


 リンネがそう言い、タロウはガウと吠え、ランとリーファはサムズアップをする。楽しいのなら構わないんだけどな。


(手裏剣1個の合成に成功しました)


(手裏剣の合成に失敗しました)


(手裏剣の合成に失敗しました。スキルが1上がりました)


(手裏剣1個の合成に成功しました)


(手裏剣の合成に失敗しました。スキルが1上がりました)


 

 手裏剣を15個程作ったところで鍛治スキルが25に上がった。それから失敗の回数が減ってきた。買ってきたインゴットを全部使って最終的に50個ほど手裏剣を作ったので当分は大丈夫だろう。スキルは28になったよ。


「手裏剣が沢山できたのです」


 俺が合成を終えて大きく伸びをするとリンネが言った。彼らは俺の合成が終わるまでそそばでじっと黙って見ていてくれたんだよな、できた従魔達だよ。リンネの声を聞いて顔を4体の従魔達に向ける。


「沢山できたぞ。あとはこれを投げる練習をしないとな」


 ランとリーファに留守番を頼んで開拓者の街の郊外で木を相手に投げる練習をすると投擲スキルが上がったらしく最後の方は結構な威力で手裏剣が狙った場所に飛ばせる様になった。


(投擲スキルが上がったので威力と命中率が上がっています)


(となるとまだまだ威力が増す可能性があるってことだね)


(そうなります)


 なるほど。

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