森の街忍具店と空蝉の術3

 新しい街に来たが日々のルーティンは変えない。ログインするとまずは自宅に飛んで畑の見回りだ。ランとリーファに交互にスカーフを巻いてやるとしっかりと畑と果樹園、そしてビニールハウスの面倒を見てくれる。それから収穫した農産物を農業ギルドに卸してお金を受け取る。この安定した金策のおかげで最近は金欠にならずに済んでいるんだよな。


 農作業が終わり、妖精達に留守番を頼むと開拓者の街から森の街に飛んだ。この街も従魔達と一緒に歩けるので俺が転移するとタロウとリンネも同時にギルドの奥の部屋に飛んでくる。


 扉を開けてギルドのホールに出るとそこには情報クランと攻略クランのメンバーが集まっていた。昨日はいなかったメンバー達も多くいる。あれから船でやってきたんだろうな。


 ロビーで知り合いと挨拶を交わすと、そのままロビーの奥に進んでそこのテーブルで打ち合わせをしていたいつもの4人組にも挨拶をする。俺に続いてタロウとリンネも尻尾を振って挨拶をした。


「人が増えてるね。何人運んできたんだい?」


 ロビーに多くいるメンバーを見ながら聞いた。


「情報クランと攻略クランで10名ずつだな。あれから2往復したんだよ。最後は連続ログイン時間の警告がでた」


 スタンリーが答えてくれる。2往復か、すごいな。彼らによると今日1日でそれぞれのクランメンバー全員がこの街に来る予定らしい。メンバーが揃ったら本格的に活動を開始するそうだ。攻略クランは森の街の周辺を探索というか攻略し、情報クランはここと試練の街とのルートを探るのだという。


「ルートを探す?」


「そう。今回は船を使ってこの森の街に来たでしょ?でも私たちは船という移動手段以外にも森の中を通ってくるルートがあると見ているのよ」


 クラリアの見立てというかこの4人の予想では、試練の街から森の街まで川を使った船以外のルートが必ずあるはずだということだ。途中にセーフゾーンがあり、そこでしっかりと休んで体力を回復しながら森を攻略してこの街に着くルートを見つけることで後続のプレイヤーも攻略がしやすくなるだろうと考えているらしい。


「船を使って移動したというのはタクが釣りをした流れで見つかった移動手段だけどそれだけじゃない、正規のルートというのかしら、森の中を進んでこの街に来ることができるルートがあるはず。それを見つけるつもりなの」


 確かに船でしか移動できないとなると制約が多くなるな。正攻法で森に来るルートを探すということか。船の移動は正解じゃない裏ルートという認識らしい。うん、確かに俺もそう思う。


「今試練の街では徐々に上級ジョブに転換しているプレイヤーさんが出てきているの。彼らのためにも複数のルートは探しておきたいところよ」


 情報クランによると森の街を見つけたことはまだ情報として開示していないらしい。森の中のルートを見つけてから情報を売り出す腹づもりをしているのだという。


「でもフレンドリスト見たら新しい街にいるって分かるんじゃないの?」


 フレンドの居場所はフレンドリストの名前と同時に表示されている。俺がそういうと4人から驚かれたよ。


 ウィンドウを操作して自分の居場所をUnknownにできるらしい。情報クランと攻略クランのメンバーはずっと以前からそうやって時々居場所を不明にして活動をしていたんだと言った。俺はそんなやり方を知らなかったので初耳だ。もちろん、すぐにクラリアにやり方を教えてもらった。


 早速変更してみたが、よく考えて見ると元々フレンドの数が多くない俺に取ってはあまり意味がないとも言えるんじゃないか。悲しい話だが事実なんだよな。


 クラリアが転移の腕輪を持っているので1パーティ5名でルートを探しながら試練の街を目指すらしい。試練の街の場所は分かっているので問題ないと言うが、森の中にいる敵のレベルが高いんだけど問題ないと言い切れるのはすごいよ。


 タクはどうするんだ?と聞かれたが俺のやることは決まっている。地図を作成しながらの忍術の店探しだ。



 冒険者ギルドで彼らと別れると森の街2日目の探索を開始する。


「いいか、今までに行っていない路地や通りを歩くんだぞ」


「ガウ」


「分かったのです」


 市内のあちこちの通りや路地を歩いていくが目的の店がなかなか見つからない。ただウインドウに映されるマップにはまだ空白部分がある。片っ端から歩くしかないな。


 午前中を歩いても目的の店は見つからなかったので俺たちはレストランで昼飯を食べることにする。ウッドデッキにあるテーブルに座ると店の中からエルフの給仕がやってきた。メニューを渡しながらこんにちはと挨拶をしてくる。


「こんにちは」


「こんにちは、なのです」


「ガウ」


「お話ができるんだ、可愛い九尾狐さんね」


 感激しているエルフの給仕さん。おすすめを聞くと鹿の肉とサラダらしいのでそれを注文する。運ばれてきた料理は美味しかった。というかこのPWLの中でレストランで出される料理で美味しくないと感じた料理はない。誰だってゲームをして不快な思いはしたくないよな。


 料理をあらかた食べ終えたところでこれからどこに行こうかと考えているとオーダーを取った給仕の女性とその後ろから白いエプロンをきたコックさんが近づいてきた。コックさんもエルフだ。


「プレイヤーさんに料理を出すのは初めてだったのよ。気に入ってくれたかしら」


 給仕の女性がお皿を引いている間にコックさんが聞いてきた。


「美味しかったですよ。エルフのお店でも肉料理が食べられるんですね」


 そう言うと当たり前よと声を出して笑われたよ。彼女はヘレンさんという名のコックさんで同時にこのレストランのオーナーらしい。


「レストランで肉料理が出せないってなったらお客さんは誰も来ないわよ。それよりも何よりもエルフが肉を食べないってのは迷信ね。無益な殺生はしないけど生きるために動物を狩るのは問題ないのよ」


 そうなんだ。いや、変な先入観を持っていてすみません。謝ると平気平気、そう思っている人多いからと言われた。ヘレンさんがおおらかな人で助かった。


 他にも美味しい料理が沢山あるからまた来てねという声を聞いて店を出た俺たちは再び街の探索を続ける。午後の日差しの中、街を歩いて新しい路地を見つければそこに入って奥まで調べ、また通りに出てくる。


 その日の夕刻にようやく路地の奥に忍術を売っている店を見つけた。こじんまりとした店構えで店の扉に小さく『森の街忍具店』と木の板に書かれた看板が貼ってあった。これは見つけにくい、というか商売っ気ゼロだよ。


「こんにちは」


「こんにちは、なのです」


「ガウガウ」


 俺たちが扉を開けて挨拶をすると奥から年配の女性が出てきた。彼女もエルフだ。


「いらっしゃい、上忍のプレイヤーかい。珍しいね」


「どうも、忍術の店を探して2日間うろうろしてやっと見つけたよ。疲れちゃいましたよ」


「リンネとタロウも歩き疲れたのです」


 そう言うとここは路地の奥だしねと笑いながら言うおばさん。こちらが自己紹介すると自分はエルフのシーナだよと言った。ちなみにリンネは歩いてないぞ。俺の頭の上かタロウの背中に乗っていたからな。


「忍者は多くいない。当然商売として成り立たない、ここはあたしの趣味でやっている店さ」


 そう言ってからこの店のことは試練の街のモトナリから聞いたんだろう?と言ってきた。


「モトナリ刀匠は森の奥にいけば街があり、そこで忍術を売っているとしか教えてくれませんでしたよ」


 そう答えるとうんうんと頷くシーナさん。彼女によればこのエリアでは忍具店はモトナリさんの店とここだけらしい。しかし店の中に置いてあるのは撒菱、そして手裏剣が売っていた、忍術はなくこれだけ?と店の中の陳列物を見ているとシーナさんの言葉が聞こえて顔を上げて彼女を見る。


「モトナリ師匠が打つ刀、そして彼の奥さんが作っている装束はレベルが高くてね、このエリアをうろうろする分には全く問題がないよ」


 装束は奥さんが作っているのか。初耳だ。


 忍術を買いにきたんだろうと言った彼女が奥から忍術の巻物を持ってきてくれた。忍術は上忍でないと販売しないので普段棚に並べていないのだと言う。


「忍術はどれも高級品だからね。それでね、空蝉の術3については分身が4体まで出せる。リキャストは5分で術2と同じだね」


 遁術については2より3の方がダメージが大きくなるのだと教えてくれた。俺は買える術3を全て買ってその場で読んだ。これで空蝉の術3をモノにすることができた。また戦闘がまた少し楽になりそうだし、生き残る確率が上がったよ。

 

 読み終えた巻物をシーナさんに返しながら聞いてみた。


「このエリアにはまだ他にも街があるんだよね?」


「あるよ。探してごらん。たださっきも言ったけど次の街では忍者に関する装備や忍術は売ってないけどね」


 それが分かっただけでも自分に取っては良い情報だ。忍術以外に手裏剣を買った。忍者といえば手裏剣。これを練習しよう。


「この街にいる時はいつでもおいでよ。タクなら歓迎するよ」


「ありがとう」


「ありがとうなのです」


「ガウガウ」


 お礼を言って俺たちはシーナさんの店を出た。


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