コテージ

 この桟橋の情報は情報クランから攻略クランにも伝えておこうと言ったあとでトミーが続けた。


「冒険者ギルドで聞いたが俺たちが入ってきた門は西門、これは池で釣りをする人たちが出入りする門らしい。メインは冒険者ギルドの近くになる南門、それ以外に東門と北門もあるって話だ」


 なるほど。俺たちは本来街に入るためにある正門じゃなくて住民が釣りをするためにある門から入ってきたのか。それにしても短時間でそこまで調べてくるなんて流石だね。


「それと池に続く道の周囲には魔獣がいなかったでしょう?この理由も分かったのよ」

 

 そう言ってクラリアが教えてくれた。どうやらあの道路の左右で魔獣の生態域が変わっているらしく、魔獣同士が行き来しない場所、緩衝地帯になっている場所に道を作ったらしい。


 つまりあの道路は安全である。と同時に道路の北側には更にレベルの高い魔獣が生息しているエリアになっていると言うことだ。俺がそう言うと2人もその通りと肯定している。


「試練の街もそうだけど、この街でも調査すべき事は多いわ」


 そう言っている彼女はやる気満々だ。情報クランの本領発揮だ、応援するよ。


 俺は彼らと別れると再びテイマーギルドを探しつつ市内をウロウロする。


 大通りに戻って奥に進んでいくと探していたテイマーギルドがあった。他のギルドはもっと手前、街の中心部に近い場所にあったのでテイマーギルドは相変わらずの場所にあるとも言えるよ。


「こんにちは」


「こんにちはなのです」


「ガウガウ」

 

 テイマーギルドの扉を開けて挨拶しながら中に入ると受付に座っていた2人の猫人のNPCが立ちあがった。テイマーギルドの受付は猫人。これはどこの街でもそうだ、ブレないな。


「いらっしゃいタクさん」


「タロウとリンネもいらっしゃい」


 やっぱり俺の名前は知られている様だ。ここでも入るなり名前を呼ばれて挨拶されたよ。


「主は有名だから名前を知っているのは当然なのです」


 俺の思っていることを読んだのかリンネが言った。隣でタロウもそのとおりだと言わんばかりに尻尾を振っている。


 ここのテイマーギルドの受付の人の名前は、スーさん、ティーさんと言うらしい。俺がタロウとリンネを撫で回していると本当によく懐いていますねと言ってくれる。


「タロウもリンネも大きくなったというか成長しているんだけどまだ子供なんでしょ?」


「そうですね。2体とも随分と成長していますが、まだまだ成長しますね」


 スーさんがそう言うとティーさんも今後の成長が楽しみですねと言った。まだまだ伸びると聞いて安心したよ。なんと言っても俺の場合はこの2体の従魔頼りだからな。


「ところでこの街には従魔と泊まれる宿はあるの?」


「ここ森の街ではどこの宿でも従魔と一緒に泊まれますね。ただ普通なら転送盤がないので他の街に行くときには従魔をここに預けてという形になりますが、タクさんは転移の腕輪をお持ちですから宿からそのまま移動できますよ」


 それは便利だ。さらにテイマーギルドによるとこの街にある宿の中にはコテージ風になっている庭付きの宿もあるらしい。森の街ならではだよね。値段は高くなるがタロウとリンネのことを考えるとコテージの方が良いのかもしれないな。


「主、コテージとは何なのです?」


 俺の頭の上からリンネが聞いてきた。


「試練の街の別宅の様なものだよ。庭付きの小さな一戸建ての家をそのまま丸ごと宿として貸し出してくれるんだ」


「コテージにするのです。タロウもお庭で遊べるのです」


 お前も遊びたいんだろう?と思ったが俺もその方が良いと思ってるよ。タロウを見るとガウガウと言いながら尻尾をブンブン振り回している。


 テイマーギルドでコテージ風の宿がある場所を聞いた俺達は森の街の中をマップ作成をしながら歩いていく。その場所は森の街の中心部から外れた所にあった。公園の様に整備されているエリアにコテージが点在している。コテージとコテージの間に木が植えられていた。プライバシーもある程度確保されている様だ。


 フロントがある建物に入ると情報クランのトミーがそこにいた。


「タクもこのコテージを借りるのかい?」


「そう。従魔達がいるからね。それでそっちは?」


「この森の街ではオフィスとして貸し出している建物がないんだよ。だから俺たちも攻略クランもこの街のオフィスとしてコテージを借りるんだ」


 彼によるとそのかわりに大きいコテージがいくつか用意されていてそれを利用するシステムになっているんだという。ただ大きなのは数に限りがあるので後続が来る前に押さえておく必要があるんだと言った。先駆者利益って奴だな。


「オフィスでもコテージでもどちらも賃料、部屋代を払うんで俺たちからしたら同じなんだよな」

 

「確かにそうだな」


 トミーから、どうせなら俺たちの近くのコテージを借りてくれよというので彼らが借りた大きなコテージの近くにあるこじんまりとしたコテージをとりあえず1ヶ月借りた。広い敷地の中を歩いていくと周囲よりも大きなコテージがいくつも見えてきた。大きなコテージは2階建になっている。俺が借りたのは平屋のコテージだ。


「あれが主のコテージなのです?」


 頭の上に乗っているリンネが言った。タロウは大人しく俺の横を歩いている。


「違うな、あれはトミー達のだろう。俺のはあれほど大きくないぞ」


「大きい方が良いのです」


「うん、でも値段が高いんだよ。俺たちのはあれだよ」


 トミー達情報クランが借りた大きなコテージの裏側にこじんまりとしたコテージが木々の間に点在している。俺と従魔2体なら十分な広さだ。敷地に入ると早速タロウとリンネが庭で遊び始める。部屋も庭も試練の街にある別宅よりは広い。洋間と寝室の2部屋だが洋間は10人は余裕で入れる広さがある。その洋間は庭に面していてウッドデッキが備えられていた。


「ここは気に入ったかい?」


 一通り部屋を見た俺がウッドデッキに出ると庭で遊んでいた2体の従魔達が同じ様にウッドデッキに上がってきた。 


「ガウガウ」


 尻尾を振って喜んでいるタロウ。


「タロウはここで問題ないと言っているのです。リンネも気に入ったのです。大きさは関係ないのです。主と一緒ならいいのです」


 お前、さっきまで大きい方が良いって言っていなかったか?とは言っても、今更大きい方にしてくれと言われてもこっちが困るんだけどな。俺は近寄ってきたタロウとリンネの背中を撫でる。


「お前達が気に入ってくれたのならよかったよ」


 とりあえず森の街での拠点は確保した。俺はまた市内をうろうろとするがどうする?と聞くとそれまで遊んでいたタロウとリンネが寄ってきた。一緒に行ってくれるんだな。


 まだこの街に来ているプレイヤーは俺たちだけだ。街を歩いてはあちこちの店に顔を出していくがまだ忍術を売っている店は見つからない。この街じゃないのかもしれないな。


 NPCに聞いたら教えてくれるかもしれないが、その前にまずは自分で探してみたい。苦労するのもこのゲームの楽しみ方だと思っている。


 今までの例から見ると忍術関係の店は大通りではなく路地の奥など目立たない場所にあった。しらみつぶしに路地を見ていくしかないだろう。街が広いので歩き回るだけでも数日かかりそうだ。


「主は忍具を売っているお店を探しているのです?」


 通りを歩いていると俺の左側にいるタロウの背中に乗っているリンネが俺に顔を向けた。タロウもリンネも時々俺が考えていることを言い当てるんだよな。付き合いが長いからだろうが時々ドキッとするよ。


「そうだ。この街には無いかもしれない、有るかもしれない。街の中を隅々まで歩いてみるつもりだよ。ただ今日はもう遅いから明日以降にしよう」


「分かったのです。今日はコテージでしっかりと休むのです」


「ガウガウ」


 新しい言葉を覚えたら使いたがる気持ちはよく分かるぞ。ギリギリまで通りを歩いたがこの日は見つからなかった。俺たちはコテージに引き返し、そこでログアウトした。

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