王者の威圧
「思っていたよりもでかいな」
「1体だけだったか」
先ほどと同じ様な闘技場の様な場所に飛ばされた俺たち。戦闘準備をして構えていると円形の闘技場の中央部分が光ってそこから1体の大きな虎が現れた。1体だけだがそれが大きい。さっきの狼3体も大きかったが虎NMはそれよりもでかい。どう見てもタロウよりも2回り以上でかいぞ。
そいつが光の中から現れるとこちらを睨みつけてくる。
(ジェネラルフォレストタイガーです)
「フィールドにいる虎の3倍はあるぞ」
「森の将軍ってか」
メンバーが口々に言っている中、スタンリーの声が飛んだ。
「2枚盾で対応」
その一言でジャックスとリックが並んで前に出て2人同時にNMを挑発する。息がぴったりだ。2人が前に出ると同時に戦闘が始まった。いきなり突進してくるNM。まともに受けたジャックスが足を地面についたまま数メートル後ろにやられてしまう。吹き飛ばされないのは流石だがそれでも強烈なダメージを喰らってすぐに神官が回復魔法を飛ばしてきた。その時には隣のリックが片手剣を虎のNMに振り翳してヘイトを稼ぐ。
この中のコンビネーションは慣れているのか流れる様に行われている。いや、凄いよ。違うクラン同士のパラディンなのにいつも一緒にやっているかの様な連携だ。彼らは普段から格上と対峙することが多く、格上との戦闘時のセオリーが同じなんだろう。
ジャックスには中央から勢いをつけて突っ込んできたのでぶちかまされて背後に下がったジャックスだが、近くで向かい合っていたリックはNMの突進では背後に下がらない。ガッチリと足を地につけて突きを受け止めていた。
「攻撃開始だ。全力でやるぞ」
すでに散開していたウォリアーやマスターモンク、マスターシーフの連中が虎NMを取り囲む様にして剣を振り翳していく。ハンターは遠距離から足や首を狙って矢を射り、魔法使いは精霊魔法を顔に打ち始めた。
俺もウォリアーと同じ様に横から虎の足に片手刀を振って傷をつけていく。
ただNMは固く、そして正面を向きながらも後ろ足で蹴りを入れたり急に横を向いて前足で突っかかってくる。その度に俺たちは離れ、そしてまた近づいて物理ダメージを与えていた。
虎NMは大きくて体力がありそうだ。俺たちの攻撃は当たっているがどれだけのダメージを与えているのか分からない。とは言ってもこうやってやり続けるしかないんだろうけど。
NMを囲む様にして攻撃をして90分が過ぎた頃、突然タロウが唸り声を出した。今まで聞いたことがないもっと低くて迫力のある唸り声だ。どうやら本気モードになったらしい。これは初めて見るぞ。
唸り声をあげながら威圧もかけているのだろう。虎NMの顔がタロウに向いた。ヘイトをパラディンから奪い取るほどの強烈な唸り声、威圧だ。その時を逃さず神官がパラディンやウォリアーに回復魔法をかけ、自分たちはマジックポーションを飲んで魔力を回復している。
睨み合っていたNMとタロウ。NMがタロウに突っかかって行ったがそれを華麗に交わして虎NMの腹に蹴りを入れる。
「タロウがタゲをとってるぞ、今なら攻撃できる」
思わず叫んでしまった俺だがその声を聞いて全員がNMに近接、遠隔攻撃を加えていく。その間もタロウとNMはまるで1対1の戦いの様にぶつかっては離れてを繰り返していた。猛獣系同士のプライドを賭けた戦いだ。さっきの狼戦ではこの強い威圧を使わなかったタロウ。こいつが強敵だと認識しているんだろう。
大きさでは虎NMが上だが迫力では同じくらいか。ひょっとしたらタロウの方が迫力が上からも知れない。常にNMを睨みつけて唸り声を出しっぱなしだ。ここまで迫力のあるタロウを見るのは初めてだ。完全に1対1のサシの勝負だ。その間にプレイヤーが各自虎に攻撃をしていく。もちろん俺もだ。
「2時間経過」
タイムキーパーを兼務しているクラリアの声が飛ぶ。今で半分か。このNMの体力をどれだけ削っているんだろう。タロウとNMとのせめぎ合いは依然として続いている。タゲはどうなっているんだ、ヘイトはどうなんだとか関係がないみたいだ。こんなのもあるんだな。まるで2人、いや2匹の世界に入ってる様に見えるぞ。
またNMがタロウに突っかけた。それを読んでいたのか後ろにジャンプしながら身体を逆にして突っ込んできたNMの顔に後ろ蹴りを入れた。これは効いてる。
「タロウはすごいのです」
魔法を撃つ合間に俺の隣にいるリンネが言った。
「リンネも頑張るのです」
タロウの蹴り、そしてリンネや他のメンバーの攻撃で虎NMが大きな咆哮を上げた。
「狂騒状態!」
スタンリーの声が飛んだ。俺は蝉の枚数をチェックして問題ないとわかるとNMの矢面に立つ。分身最大6体で回避する間に狂騒状態のNMの動きを見極めてもらおう。
NMはそれでもタロウをターゲットにしている様だ。体毛を逆立てて何度も突きや蹴りを繰り出してくる。それを避けるタロウの横から刀で身体に傷をつけていく。一応俺が矢面に立ったがNMはこっちには見向きもしない。暴れたままタロウをターゲットにして攻撃を仕掛け続けている。
「このまま押し切ろう。タロウ頑張れ」
スタンリーの声と同時に全員で総攻撃をする。タロウが盾となって完全にNMのヘイトを稼いでいる中残りのメンバーの集中攻撃を喰らったNMは狂騒状態になってしばらくすると突然倒れて光の粒になって消えた。
「やったぞ!」
メンバー全員が大きな声を上げている中、タロウが俺に近づいてきて体を寄せてきた。戦闘時間は3時間20分。結構余裕があったな。それもこれもタロウのおかげだ。
「タロウ、すごいぞ」
タロウを撫でているとクラリアの声がした。
「タク。宝箱」
そうだ、忘れていた。虎NMが倒れた場所に大きな宝箱が現れていた、その中身を端末に放り込むと俺たちはその場から最初の草原に身取ってきた。今回は1人あたり40,000ベニーが勝利の報酬として参加者に配られていた。と同時に多くの経験値も貰えた様で俺も含めて何名かのレベルが1つ上がった。先にやった100枚戦に勝利した時も経験値があった。ただレベルが上がるには足りなかったんだろうと推測している情報クランの連中。
「いやぁ、タロウ凄いな。あの威圧で勝てた様なもんだよ」
誰一人戦闘不能になることなく印章200枚のNM戦に勝利した俺達が草原の上で休んでいると俺のところにスタンリーが近づいてきた。その言葉でその場にいる全員が俺の方に顔を向ける。座っている俺の隣には大活躍だったタロウが撫でろと横になっていて座っている。俺の膝の上ではリンネが同じ様に尻尾を振っていた。
「上級従魔になったからなのか何か他に理由があるのか俺も理由が分からないんだけど、タロウがガッツリとタゲをとってキープしてくれていたな。いやここまでやってくれるとは俺も思わなかったよ。それにしてもすごい威圧だったよな、俺も初めてみたよ。タロウ、よく頑張ったな」
スタンリーに答え、隣に座っているタロウを撫で回すとガウガウと声を出しながら尻尾をブンブンと振り回して喜んでいる。さっきまでの迫力のあるタロウじゃなくていつもの甘えん坊のタロウだ。
「タロウは主のために頑張ったんだと言っているのです。リンネも主のために頑張ったのです」
「そうだな。リンネの魔法もよかったぞ」
俺の膝の上で7本の尻尾を振り回して喜ぶリンネ。タロウとリンネは今回のNM戦では大活躍だった。俺よりもずっと貢献してたのは間違いない。
「タロウがあそこまでタゲを持ってくれたら俺達は楽だ。好きに攻撃ができた」
「そうそう。ヘイト気にせずできたから狂騒状態でも問題なかったしね。逆に言うとタロウがいなかったらどうなっていたか」
トミーとクラリアもベタ褒めだ。もちろん他のプレイヤー達もタロウとリンネが頑張ってくれてたなと声をかけてくれる。その度に尻尾を振って応える俺の2体の魔獣達。
200枚の印章NM戦に勝利して皆気分が高揚している。もちろん俺もだよ。でかい虎を倒したんだよ。ジェネラルを倒したんだよ。みんなすごいよ。
しっかりと休んだ俺たちは試練の街に戻ることにする。戦利品は情報クランのオフィスでスタンリーと俺の端末から出すことになった。
「従魔無しでプレイヤー25名だけでやるならこちらのレベルがかなり上がっていないとあのNM戦は厳しいだろうな。タロウというか従魔は上級になると一気に強くなった気がする」
「確かにそうですね。私の魔法のダメージからの想像ですがあのNMは上級レベルが15近くあったかも知れません。そして上級従魔の強さを目の当たりにしましたよ。タロウはNMのタゲをずっと取り続けてたし、リンネの精霊魔法も私よりも強力だっし」
街への道すがらスタンリーとマリアがそんな話をしているのが聞こえてきた。いや、マリアがタロウを撫でながら歩いているからさ、隣にいる俺にも聞こえてくるんだよ。それにしても彼女の言う通りだろう。タロウとリンネは上級従魔になってまた一段と、いやそれ以上強くなった気がする。
歩きながら俺はAIのミントに聞いてみた。
(タロウがすごい威圧をしたんだけどあれは新しいスキルかい?)
(その通りです。タロウは上級従魔になって新しいスキル、王者の威圧を覚えました。このスキルは発動してから戦闘終了まで敵対する相手のヘイトを常に取り続けるものです。リキャストは戦闘終了後から24時間です。従魔のレベルが上がると王者の威圧の力も増加します)
(新しいスキルだったのか。それにしてもすごいスキルだ。ってことはリンネも新しいスキルを覚えたのかな?)
(リンネは新しいスキルは覚えていませんが上級従魔になったこと、尾が増えたことで魔力量の増加と魔法の威力が増加しています)
なるほど。こっちは能力の底上げだな。いずれにしても俺にとってはありがたい。
途中で出会う敵を瞬殺しながら森の中を進んでいると見慣れた試練の街の城壁が目に入ってきた。
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