7個と12個

 印章NM戦2戦が終わって試練の街に帰ってきた俺たちはそのまま攻略クランのオフィスに移動した。今回は勝利のあとにワールドアナウンスがなくてよかったよ。まぁ枚数は多かったとは言え印章NM戦だからな。オフィスにはタロウとリンネも入ってきた。従魔達はいつも通りタロウが俺の横の床の上、リンネは俺の膝の上だ。


 まずは印章100枚のNM戦の戦利品をスタンリーが端末から取り出してテーブルの上に置いていく。参加者全員がテーブルの上に置かれていく戦利品に目を向けた。


 ウルフアーマー(防具:ウォリアー、盗賊、マスターモンク)

 片手斧 (武器:ウォリアー)

 ハンターボウ(武器:ハンター)

 魔力の腕輪 (装備:魔法使い、神官)

 回復の腕輪 (装備:全ジョブ)

 敵対心プラスの指輪(装備:全ジョブ)

 マスターウルフの皮 (合成原料)

 

 アイテムが7つドロップしていた。AIのミントによるとウルフアーマーは素早さがアップする機能がついている。片手斧とハンターボウは上級ジョブでないと装備できない。つまりLV85武器よりも上位に位置する武器となる。腕輪と指輪はその名前の通りだろう。俺が見てもどれも有効な装備であることがわかるよ。


 印章100枚のNMからは価値のあるアイテムがドロップしたこともあり皆の表情も明るい。分配が終わると、次はタク、頼むと言われて今度は俺がテーブルに200枚のNM戦でドロップしたアイテムを並べていく。


 タイガーアーマー(防具:ウォリアー、盗賊、マスターモンク)

 重装の盾 (装備:パラディン)

 片手剣 (武器:ウォリアー、パラディン)

 大剣 (武器:ウォリアー)

 忍靴 (防具:上忍)

 盗賊の短剣 (武器:盗賊)

 魔力の腕輪(装備:全ジョブ)

 転移の腕輪(装備:全ジョブ)

 素早さの腕輪(装備:全ジョブ)

 従魔のスカーフ (従魔)

 フォレストタイガーの皮 (合成原料)

 火薬(合成原料)

 

 こっちは12個だ。AIのミントによるとタイガーアーマーはウルフアーマーと同じく素早さがアップする機能がついている。ウルフアーマーの上位版らしい。


 レーブルに並べられた19個のドロップ品を俺を含めた全員が見ている。15名のNM戦で7個、25名のNM戦で12個。印章NM戦でのドロップが分からないのでこれが普通なのかどうか。


 クラリアに聞いてみた。


「10枚、とか30枚のNM戦だと2つか3つドロップがあったの。そう言う意味では参加人数の半分近いドロップは普通だと言える。でもこちらの方はドロップしているアイテムにレア品が多い。今までのNM戦ではそれ程価値のあるのは出なかったのよね」


 必要な印章の枚数が多い分良いのが出るんだろうな。確かに装備ジョブが上級ジョブの表示になっている事からもわかる。そんなことを考えているとスタンリーの声が聞こえた。


「タク、約束通りにこちら側の200枚のNMからドロップしたアイテムの中から必要なものを取ってくれ。もちろん全部取っても構わない」


「いやいや、全部は要らないよ。装備できないのもあるし。俺が欲しいのはこれかな」


 俺が選んだのは忍靴と魔力の腕輪、従魔のスカーフの3つ。忍靴となっているので忍者が履く草鞋や足袋の様ではなく外見は普通の靴だ。ただ上忍専用ということで特殊効果がついていた。


(上忍が装備すると素早さがアップします)


(これって腕輪の素早さに加えて靴の素早さが加算されるってこと?)


(はい。そのとおりです。両方装備すれば両方の効果があります)


 AIのミントが説明してくれた。これでまた敵の攻撃を避けやすくなるぞ。魔力の腕輪は忍術の時に使える。そして従魔のスカーフもミントによると従魔が装備すると従魔が持っている能力がアップするらしい。従魔用の装備も初めて見たな。


(妖精に装備させても効果があるのかな?)


(あります。農作業時にプラスの効果が出ます)


 そう教えて貰ったので自宅と外とで使い分ければよさそうだ。どの従魔に装備させるのかは考えないといけない。


「それだけでいいのかい?」


 本当にいいのかと言う表情で俺を見てくるスタンリー。他のメンバーももっと取ったらとか言うが他のはジョブ的に持てないのとかすでに持ってる装備だし。素早さの腕輪もミントによれば俺が今持っているHQの方が効果は大きいと言っている。それに元々全て自分の物にする気は全くない。皆で協力して倒したNMだし、皆で分けてくれればそれでいい。


「3つで十分。それにまた印章が貯れば挑戦できるし。それよりも他のを皆で分けてくれていいから」


「それにしてもここで火薬が出たのね。爆弾の原料だと思うけど」


「転移の腕輪もイベントNM以来2つ目だな」


 クラリアとトミーが言っている。俺が3個で十分と言ったので、残りの16個を俺以外の参加者で分配していく。情報クランも攻略クランも大人でアイテムの取り合いにはならずに話し合いながらこれはそっち、これはこっちと平和的に分配していた。大したものだよ。今回手に入らなかったメンバーもまた印章を貯めて挑戦したらいずれ手に入ると分かっているんだろう。ギスギスしている雰囲気はしていない。皆大人だよ。


 ウルフアーマーとタイガーアーマーは数値が見えないので分からないが、200枚のNM戦から出たタイガーアーマーの方が優秀だとAIのミントが言っていた。情報クランのウォリアーがウルフアーマーをゲットし、攻略クランのウォリアーはタイガーアーマーを手にいれる。パラディンのジャックスは敵対心プラスの指輪、リックは重装の盾を手に入れた。スタンリーとマリアは今回は手に入れていないが問題ないという。トミーは大剣を手に入れたみたいだ。


「次回印章NM戦をやった時に別のが出るかもしれないしね。今はクラン全体の装備品の底上げで問題ないわ」


「その通りだ。印章を集めればまた再戦できるしな」


 転移の腕輪は情報クランのクラリアが手に入れた。彼女は他のメンバーでと言っていたがクランメンバーからリーダーが持つべきだと言われたらしい。盗賊の短剣は別の盗賊のプレイヤーが手にした。


 そして注目の火薬は情報クランが手に入れた。クランにいる合成職人に渡すという。火薬だけで爆弾ができるとは思えないが錬金術ギルドに聞けばレシピに関してヒントを貰えるかもしれないので期待しているのとクラリアが言っていた。


 分配が終わると皆手にした武器や装備を身につけたり手に取ってじっくりと見たりしている。


「装備の靴が出たのは初めてよ。素早さが上がるみたいね」


 クラリアが近づいてきた。彼女もアイテムの詳細をサポートAIから聞いていた様だ。忍者専用装備が出たのって初めてじゃないかななんて言っている。


「これでまた回避率が上がんじゃないかと期待してるんだよ」


「もともと忍者の特性で敏捷性、AGIが高く設定されているみたいね。それに靴でプラスの補正効果があればまた強くなるんじゃない?腕輪だって持っているし」


 だといいんだけどね。


「それで従魔のスカーフはどっちに装備させるの?」


 皆それも気になっていたみたいだ。クラリアが空気を読んだのか俺に聞いてきた。従魔のスカーフは鮮やかな青色をしていてタロウの青みがかった体毛に合っている。真っ白なリンネの体毛にも合うだろう。


「どうしようかと悩んでる。妖精にも効果があるみたいなんで、自宅では妖精に装備して、外ではとりあえず2体に装備してもらって実際の戦闘の中で判断しようかなと思ってるんだ」


 印章NM戦を2線終えて俺と従魔達はレベルが1つ上がって上忍レベル4になった。これでまた探索が楽になるぞ。情報クランはこの印章NM戦についてはその情報を公開というか販売するが、このNM戦は上級ジョブに転換した後でないと厳しいという説明も同時にするそうだ。このトップクランのメンバーが組んでも楽勝とは言えなかったから当然だね。特に200枚のNM戦はプレイヤーが今のレベルだとタロウがいないとなると相当厳しくなるだろう。


 俺がタロウが上級従魔になって王者の威圧というスキルを覚えたらしいと報告するとあれがそうだったのかと皆が納得した。24時間のリキャストタイムだが使用開始から戦闘終了まで効果があるというとそれはすごいという声が上がる。


「ここ一番で使えるわね」


 その通りだよ。ボス戦やNM戦では使えるだろう。ただタロウがそれで大きなダメージを喰らわないかどうかが心配なんだよな。


 攻略クランでの戦利品の分配が終わって解散になるとその足でモトナリ刀匠の店を訪ねた。


「珍しい防具を手に入れたな。これは店では売っていないレアな靴だぞ」


 履いている忍靴を見せると開口一番そう言ったモトナリ刀匠。


「シーフ程ではないが、それでも素の状態でも素早く動けるのが忍の特性だ。その忍の特性にプラスしてタクが腕輪とその靴を装備することでシーフ並みになるんじゃないか」


 シーフ並みか。それと空蝉の術でダメージを喰らう確率がまた減りそうだ。いい装備を手に入れたぞ。喜んでいるとモトナリ刀匠が俺を見て言った。


「いいか、タク。良い装備とは苦労をして手にいれるものだ。おまえさんがその装備を手に入れたのは強いNM戦に勝ったからだろう?勝利したから手に入れられたのだ。装備とはそうやって強化していくものだ。もちろん店に売っている装備を買うのも同じだ。お金を貯め装備できるレベルに上げる。その結果装備を手にいれることができるんだ」


 言いたいことは分かる。良い装備は簡単に手に入らない。苦労をした見返りというかその報酬だということだ。


 俺たちは礼を言ってモトナリ刀匠の店を後にした。

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