主よりはちょっと落ちるのです
飛ばされた先は土の地面の周囲を石垣で囲んである円形の闘技場の様な場所だった。結構広いスペースがある。コロシアムって言うんだっけ?観客席は無いが、周囲が高い石の塀で囲まれていてよじ登るのは無理そうな高さだ。つまり逃げ出せないってことだよな。倒すか倒されるかのどちらかだ。その舞台の様な円形のコロシアムの端、石垣を背にする様に13名のプレイヤーと2体の従魔が飛ばされた。
「戦闘準備!」
スタンリーの声で全員が武器や盾を持ち、神官がパラディンをはじめ前衛ジョブのプレイヤーに強化魔法をかける。俺はリンネの強化魔法を受けながら空蝉の術2を唱えた。パラディン2名が前に出てその後ろにウォリアー、マスターモンク、マスターシーフと続く。ハンターは弓を構えて左右に散って行った。俺と従魔はパラディンの背後の左の端に固まっている。
「来るぞ」
闘技場の中央部分が光出したと思うとその中から3体の狼のNMが姿を現した。森の中で倒している狼よりも2回りほどでかい。予想に反して3体のNMが出てきた。
(マスターウルフです)
AIのミントがNMの名前だけ教えてくれた。すぐにジャックスがその中の1体を挑発すると3体が一斉にジャックスに襲いかかってきた。
「ヘイトは連動している。ジャックスとリックで頼む。神官はフォローを」
大きな狼のNMが3体いきなり襲いかかってきたがなんとかそれを受け止めるジャックス。もう1人のパラディンのリックが横に並んで彼らの攻撃を受け止める。交互にヘイトを稼いで2枚盾で受け止めるのを見ていたスタンリーから声が飛んだ。3体現れても慌てずに仕事をするプレイヤー達。すごいよ。
「攻撃開始!左からやるぞ!」
その声で前衛と後衛陣が左の狼を集中的に攻撃する。パラディン2人で3体をキープしているが厳しそうだ。俺はスタンリーの声を聞かずに前に出るとリックの横に立って攻撃をする。これで万が一盾が崩れた時も一時的にタゲを取って盾ができる。
3体の狼はタゲを取っている1人を集中的に攻撃してくるので短い頻度で盾を交代しながらなんとかタゲが他に移らない様にしていた。タロウは3体の背後から蹴りを繰り出しているしリンネは身体を震わせて精霊魔法を撃っている。従魔達も頑張ってるな。
「左が倒れた。中央のを狙え」
全員の集中攻撃で左の狼が消えると次はその右、中央にいた狼がターゲットになる。1体減っただけでかなりパラディンの負担が軽くなった。とは言っても体力の消耗は激しい。
「タク、頼む」
ジャックスとリックが攻撃を止めて盾だけで受け止めている間に俺が片手刀を振り回すと2体のタゲが俺に移った。その瞬間にパラディン2人がポーションを飲む。後ろは見えないがおそらく神官連中もマジックポーションを飲んでいるだろう。俺は2体の狼の前足の攻撃や突きを避けながら両手に持った刀で傷をつけていた。
「1時間経過」
クラリアの声が聞こえた。制限時間2時間の半分が経過したところでまだ2体残っている。分身が3枚消えるとすぐに再詠唱。分身と素早く動いて攻撃を避けているとジャックスとリックが前線に復帰してきた。
再びジャックスが2体のタゲを取る。それからしばらくして2体目が倒れた。残り1体だ。集中放火を浴びていた最後の1体だが突然後ろ足で立ちあがった。
「狂騒状態!」
その声でパラディン2名と俺以外のメンバーが攻撃を止める。3人が構えていると立ち上がった狼が着地したかと思うとあっと言う間に後ろを向いて蹴りを入れてきた。耐えきれずに背後に飛ばされるジャックス。すぐにリックが盾としてヘイトを稼ぐ。ジャックスからリックにタゲが移ると他のメンバーも攻撃を加え始める。俺も当然刀で足や胴に傷をつけるが狂騒状態のNMの動きは早くて刀の攻撃を交わされる。
それでも間隔を空けて精霊魔法や矢が飛んではNMにダメージを与えていたがすごい突進で今度はリックが背後に吹き飛ばされた。パラディン2名が回復するまで俺がタゲを取らないといいけない。
上忍を舐めるんじゃないぞ。
蝉を張ったままでNMの攻撃を避けながら刀で傷をつける。両手に持っている刀を連続して振っているのでかなりヘイトは稼いでいるだろう。途中で蹴りや突進を喰らったがいずれも分身で交わす。空蝉の術万歳!
「あと少しだぞ」
その言葉で全員がヘイト無視の総攻撃を始めた。タロウとリンネも本気モードで蹴り、魔法を撃っている。戦闘好きの本領発揮だな。
俺がタゲを取っている間に背後に回っていたウォリアー達が同時にNMの後ろから片手剣や大剣で身体に傷をつけると残っていた1体も光の粒になって消えていった。
「よし!」
「やったぞー!」
戦闘時間1時間40分で俺達は印章100枚のNM戦に勝利した。
勝鬨を上げていると闘技場、舞台の中央に大きな宝箱が現れた。スタンリーが端末を翳して全てを収納すると全員が光に包まれ、次の瞬間にNMのPOPポイントである草原に飛ばされていた。
「勝ったぞ!」
「おおっ」
次の200枚のNM戦に備えて草原で待機していた10名のプレイヤーの前で勝鬨を上げる両クランのメンバー達。
「主、タロウとリンネはやってやったのです」
「ガウガウ」
「おう。お前達頑張ってたな。うん、えらいぞ」
「主も頑張っていたのです。一番頑張っていたのです」
俺のそばにやってきたタロウとリンネを撫で回してやる。この2体は本当に頑張って攻撃をしていたのは知っている。しっかりと撫で回してやるぞ。
「タクの忍盾が最後有効だったな。あの時間でジャックスとニック、それに神官達がしっかりと回復できたよ」
スタンリーがやってきてそう言ってくれる。
「いやいや、それよりもやっぱりパラディンは強いよ。3体をキープするなんて忍者じゃ無理だな。あっという間に分身が消されてしまうよ。本職の盾ジョブは硬いよね」
そんな話をしていると本職の盾ジョブであるジャックスとリックが俺のところにやってきた。その前にマリアがタロウのそばによってきていて、しっかりとタロウを撫で回していた。相変わらずだね、うん。平常運転なのはよろしい。
「そうは言うけどさ、タクがいたから俺たちも思い切ってやれたとも言える。スタンリーも言っているが最後に残った1体は狂騒状態になった。俺たちは吹っ飛ばされたがタクの忍者は持ち堪えていたからな。大したものだよ」
「ジャックスの言う通りだ。通常攻撃なら俺達でなんとか食い止められるが瞬発力の高い攻撃だと力負けする時があるんだよ。その時に蝉で攻撃を交わせる忍者の盾は有効だな。タクがいたから最後まで削りきれたんだよ」
2人がそう言うと待ってましたとばかりにリンネがジャックスとリックに顔を向けた。
「その通りなのです。主は一番なのです。強いのです」
「リンネ。ジャックスとリックも頑張ってたのは見てただろう?」
「見てたのです。よくやったのです。でも主よりはちょっと落ちるのです」
リンネの言葉でその場にいる全員が爆笑した。俺達はタクよりもちょっと落ちるらしいぞとジャックスが言い、リックもリンネに褒められる様にもっと頑張らないとな。とか笑いながら言っている。放っておくとこれ以上何を言い出すか分からないので俺はリンネを抱き上げた。
「リンネ、まだもう1戦あるんだぞ。今はしっかりと休む時間だぞ」
俺がリンネを両手で抱え上げて首から背中を撫でると尻尾をブンブンと振って分かったのですと言う。本当に天真爛漫というか天然というか。まぁそこが可愛いんだけどね。
「リンネちゃんは主のタクが大好きだものね」
クラリアがリンネを見て言うと俺の腕の中で尻尾をブンブンと振る。
「そうなのです。リンネとタロウは主が大好きなのです。だから次も主の為に頑張るのです」
頑張ってもいいが無理はするなよ。
メンバーの1人が気がついたが、NM戦に勝利すると20,000ベニーが報酬として入ってきたらしい。俺も確認したがその通りだった。どうやらNM戦の参加者全員にアイテムとは別で報酬金が出るらしい。これってもし戦闘中に死んじゃった場合はどうなるんだろう。
この草原はNMの湧きポイントであるからか一種のセーフゾーンになっている様で魔獣が入ってこない。流石に勝手に回復することはないが魔獣が入ってこないというだけでも随分と助かる。
1戦を終えて俺たちはしっかりと休養を取ることにする。水分を補給し食事を口に入れる。それ以外にも薬品を再装備したりハンターは矢を補充したり。各自が休憩を取りながらも次の200枚のNM戦に向けて準備をしていた。
総勢23名のプレイヤーと2体の従魔が草原に固まっているのでその辺に座っても皆のやりとりが聞こえる近さだ。
「正直NM戦で敵が複数体出てくるのは予想していなかったよ」
「ただヘイトが連動していたので助かったわね」
スタンリーとマリアがそんなやりとりをしているのが聞こえてきた。聞いていた他のメンバーも3体とはな。とか、しかもデカかった。等言っている。確かに3体は予想外だった。ただヘイトがリンクしていたので1体の時と変わらない対応で出来たので事故が起きなかったんだろうと思いながら俺は皆の話を聞いていた。
「次の200枚はおそらくでかい虎。それが1体なのか複数体なのか。複数体だったらヘイトはどうなっているのか。まずそこを確認しないとね」
「どのパターンであってもパラディンのヘイト稼ぎからスタートするのは変わりない。ジャックスとリック、頼むぞ」
任せておけと気合いの入った返事をする2人のパラディン。
「タクは今と同じで遊軍から、必要に応じて盾のフォローで頼む」
「OKだ」
スタンリーはその後は他の前衛連中や魔法使い、そして神官の連中らと打ち合わせをする。次から参加する10名にもヘイト管理のところは詳しく話をしていた。
「そろそろ2戦目をやろうか。タク、頼む」
その言葉で俺は立ちがると光っている場所で端末を近づけた。
『印章を200枚使って特殊戦闘を行いますか?人数は最大25名、時間は4時間となります。NM戦をする場合は端末を光に近づけてください。専用フィールドに移動してから10分後にNMがPOPします』
イベントNM戦の時と同じアナウンスが脳内に聞こえてきた。
ウインドウに【はい】、【いいえ】が表示され。【はい】をタップすると全員が光に包まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます