100枚と200枚

「タク、印章を何枚持ってる?」


 俺の別宅の部屋に入るなりスタンリーが聞いてきた。言われて端末を見ると203枚ある。結構あるな、一度も印章NM戦をしてないからか、知らない間に貯まっていたよ。


「203枚あるよ」


「やっぱり100枚以上持ってたか。でも203枚って多いな」


「タクはNM戦を全くやっていないからでしょう。でも確かに多いわね」


 俺の枚数を聞いている4人。マリアもタロウを撫で終えて部屋にいる。


「どうしたんだい?」


 いきなり印章のことを聞かれたが、何のことだかさっぱりわからない。俺がポカンとしていると実はなとスタンリーが話てくれる。


「試練の街の郊外でも印章NM戦ができる場所を見つけたんだ。ただ印章の枚数が増えていてな。100枚で行う戦闘と200枚で行う戦闘の2つがあるんだ。情報クランとも話をしたんだが皆印章をそこまで持っていない。今まで結構NM戦をやってきたからストックがないんだよ。両クランのメンバーの印章をかき集めても300枚には足りない。折角見つけたNMの湧きポイントだ。100枚と200枚の両方をやってみたいと思ってな。ドロップ品はタクの総取りで良いからその200枚を出す気はないか?」


 100枚、200枚の印章NM戦? 10枚とか30枚のに比べたらものすごく多いじゃないの。


「上級ジョブに転換したあとでこの枚数のNM戦でしょう?相当強い敵が出てくると思っているのよ」


 そう言うクラリア。印章NM戦をする場所は街を出て森の中を北に進んだちょうど狼と虎のエリアの境目辺りでそこだけ草原になっている場所を見つけ、攻略クランの連中がその草原に行くと2ヶ所地面が光っている場所があったらしい。攻略クランだけでは印章の枚数が足りないので情報クランにも頼んでかき集めた枚数が250枚強。これでは同時に100枚と200枚の2戦はできない。


「印章NM戦の情報は取れているの。100枚の方は人数が15名、時間は2時間。そして200枚の方は人数が25名、時間は4時間」


 今までは1パーティ、5名だった印章NM戦が15名とか20名に増えている。必要枚数が多くなり、人数が増える。つまり強敵が出てくるということだよな。200枚の方が25名で4時間って言ったらイベントNMの時と同じじゃないか。あの時もかなりの強敵だった。タロウが素晴らしい働きをして倒してくれたおかげで倒せたけど強かった。


「主の出番なのです。やってやるのです」


 頭の上からリンネがけしかけてきたが、俺自身も今話を聞いて面白そうだと感じている。レベルは彼らより低いけど。


「分かった。俺は200枚出したらいいんだな?」


 印章NM戦はパーティ戦だ。いつかやろうとは思っていたけどその機会がないまま試練の街まで来てしまっている。気がつけば印章が貯まっていたが、いかんせん1人だと簡単にNM戦をすることが出来ない。ここはクランのお誘いに乗るべきでしょう。


「タクが200枚出してくれるのなら200枚のNM戦でタクの印章を使う。100枚の印章NM戦はこちらで印章を出す」


 100枚と200枚の2戦をやることとなったがNMの情報が全くない。やるからには勝ちたいのはプレイヤーなら当然だ。4人で打ち合わせが始まった。俺は場所を提供した関係から同席はしているが、戦闘のプロ4人達の話を黙ってやり取りを聞いているだけだ。こっちはやっとこさ上級レベル2に上がったばかりだしここは黙っているしかない。


 スタンリーらによるとNM戦のフィールドは上級ジョブのレベル3か4のエリアらしい。そこから推測してNMは最低でも上級レベル8、おそらくそれ以上だろうと言うことだ。俺よりも6つ以上も上だ。


「タクのレベルは?」


 マリアが俺に聞いてきた。


「今日上級レベル2になったよ」


「従魔も一緒?」


 その言葉に頷く。彼らは上級レベル4らしい。


「盾としてナイトと忍者、いや今はパラディンと上忍か。この2枚は必要だろう。毛色が違う盾がいれば大抵の事態に対応できる」


「100枚のNM戦は2つのクランで相手をするんじゃないの?」


 俺は印章を200枚出すからそっちだけの参加だと思っていたよ。


「忍盾ができるのはタクだけだ。それにタクと2体の従魔は十分に戦力になる。両方のNM戦に参加してもらいたい」


「主に任せれば問題ないのです。タロウとリンネが主をサポートしながら敵をとっちめてやるのです」


 スタンリーの言葉に俺が言う前にリンネが言った。相変わらずの戦闘好きだよ。そう思っていると庭からガウガウと声が聞こえてくる。顔を向けるとタロウがテラスに上がってこちらに向かって唸っていた。


「タロウもやる気満々なのです」


「タロウとリンネがいれば大きな戦力になる。もちろんタクもだ」


 スタンリーの言う通り、うちの従魔達が優秀すぎるんだよ。俺以上にね。


 印章100枚の15名、200枚の25名のNM戦の参加メンバーについては、ここにいる5人と2体の従魔の7枠は決まりなんだそうだ。4人はそれぞれのクランメンバーの中から選抜するという。


 NM戦をいつするのかも含めて両クランで調整するらしい。俺は基本ソロなのでいつでもOKだと答えておいた。NM戦が先になった方が少しでも経験値を稼げて上級レベル3に上げられるかもしれないが、自分の都合を押し付ける訳にはいかない。彼らに合わせることにする。


 ドロップ品については印章200枚のNM戦で勝利した場合は俺が総取りというか最初の選択権を持って、もしいらないアイテムがあれば、その時点で他のメンバーで分配するということになったので100枚のNM戦についてはドロップ品の所有権を最初から放棄する。


「それでいいのかな?」

 

 スタンリーが聞いてきた。


「問題ないね。100枚の戦闘については俺は印章を出さない。200枚の方で最初にアイテムを選べる権利を貰っているから当然でしょ?」


 もちろん勝てないと言うことも普通にあり得るが、それはそれでゲームとして楽しめれば俺には何の問題もない。何事も経験だよ。


「タクも言っているが勝つ努力はしよう。でも負けたら負けたで印章を集めてまた挑戦すればいいだけだの話だ。最初で最後のNM戦という訳でもない。楽しもうぜ」


 そうそう、楽しめばいいんですよ。


 

 両クランが日取りや人数の調整に何日かかるのかは知らないけど、その間に少しでも経験値を稼いでおこうと俺はタロウとリンネを連れて毎日船で森の奥に出掛けては虎を相手に経験値稼ぎをする。釣りは夕方街に戻る前の少しの間だけ釣ってほとんどの時間を経験値稼ぎに当てた。その結果3日目に上忍が上級レベル3に上がった。これでまた少し強くなったぞ。相手が格上で経験値が多いのが助かった。うちのタロウとリンネなら問題ないからね。


「主、やったのです」


「ガウガウ」


「お前達が頑張ってくれたからだよ。しんどかっただろう?」


 自宅の庭に戻ってくるとタロウとリンネを労ってやる。もちろんランとリーファもだ。妖精達もしっかりと留守番をしてくれていたからな。依怙贔屓はしないよ。


「大丈夫なのです。タロウもリンネも主の為に頑張るのです」


「うん。でも休むのも大事だ。明日は外に出ないぞ」


 翌日は畑の見回りや収穫した野菜と果物の納品などをしてからは種を蒔いたり水をやったりと久しぶりの農業デイだ。


 精霊の木は20メートル程に育ったあとはそれよりも大きくなっている様には見えない。


(ミント、精霊の木の高さは?)


(20メートルですね。20メートルから伸びてはいません)


 しっかりと成長したということかな。リンネ経由で妖精に聞いてみると精霊の木はこれくらいの大きさになるとそれ以上は大きくならないらしい。この大きさで長きに渡って生きていくのだと教えてくれた。横に伸びている枝には独特の菱形の葉っぱを沢山付けている。立派な木に育ってよかったよ。


 この日の夕刻、情報クランのクラリアから印章NM戦は明後日になったと連絡があった。それで明日の午後に試練の街の攻略クランのオフィスで打ち合わせをやるという。


「いよいよなのです?」


 やりとりを聞いていたリンネが俺の膝の上に乗ったまま聞いてきた。


「明日は試練の街で打ち合わせ、そして明後日にNM戦を2回する。タロウとリンネ、頼むぞ」


 そう言うとタロウは精霊の木の根元のいつもの場所で横になりながら分かったと尻尾をブンブンと振る。リンネも7本の尻尾をブンブンと振り回す。


「任せるのです。タロウもリンネも準備は万端なのです」


 うん、2体とも気合い十分だな。

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