魚が売れた
翌日俺たちは街を出ると川に沿って森に入っていった。船じゃなくて歩きだ。常に川を右手に見ながら森の中にいる魔獣を倒していく。タロウとリンネも久しぶりに体を動かしているからかすこぶる機嫌が良い。しかも上級になったこともあるのか殲滅速度が早いのなんの。蜂だろうがトレントだろうがどんどん倒しては奥に進んでいく。
船に乗っていると絡まれなかったが歩くと普通に魔獣と遭遇する。それを倒しながら進んでいくとウォルシュさんの釣り場である川と池が隣接しているポイントに着いた。
「この池の中には魔獣がいるかもしれない」
「警戒するのです」
タロウの背中に乗っているリンネが言ったがタロウの耳は立っていない。とりあえず池の周りを見てみようと歩き出してしばらくすると池ではなく森から狼の魔獣が現れた。いつの間にか蜂とトレントのエリアを越えていた様だ。街からはかなり離れている場所になる。
(フォレストウルフ。レベル92です)
洞窟の狼が90だったっけ。それよりも上なんだな。相手のレベルが上がっても俺たちには猛獣系には滅法相性が良いタロウがいる。今も威圧で相手を怯ませている間にタロウとリンネと少しだけ俺の刀で狼を倒した。どうだと言わんばかりに体を寄せてくるタロウをしっかりと撫でてやる。リンネもタロウの背中に乗っていたので一緒に撫でてやる。2体一緒にしないとね。
地上の魔獣を倒してから池の周りを歩いているとタロウがピンと耳を立てて池に向かって低い唸り声を出した。その直後、池から20センチ程の魚が飛び出してこちらに襲ってきた。準備して抜刀していた俺は刀で飛んできた魚を一刀両断にする。二つに斬られた魚の魔獣はすぐに光の粒になって消えた。消える時点で魚ではない。見た感じピラニアの様な魚の魔獣、魔魚だ。これが池に住み着いているんだろう。タロウの気配感知で助かったよ。
池をぐるっと回ってから再び川沿いに奥に進んでいくが出会うのは狼ばかりだ。この辺は狼のゾーンなんだろう。釣りをしたポイントはまだ先だがこの日はそこまで行かずに街に戻ってきた。次からは船で釣りをしてそれから河岸に船を付けて森の中で鍛錬をすれば一石二鳥になるな。今日の狩りでこの辺りの魔獣のレベルも分かったし。レベルは上がらなかったがそれなりの経験値を稼げて満足だよ。
転移の腕輪で試練の街に戻ってきた俺たちはまずウォルシュさんのレストランに顔を出した。
「そうそう。その小さな魚が水の中から飛んでくるんだよ。ただあの池には魔魚もいるが美味しい魚もいるんだよな。罠を仕掛けて引き上げる時はいつも緊張しながらやってるんだ」
やっぱりあいつだったか。ウォルシュさんによるとあの池では俺たちも倒したあの魔魚以外の魔獣は見たことがないという。あの池に住んでいる固有種かもしれないな。こっちは一応上忍だからあの魔魚だけなら問題はないだろう。俺はそのままウォルシュさんの店で夕食を食べて試練の街の中にある別宅経由で自宅に戻ってきた。今日はよく頑張ったぞ。
自宅に戻ると待ってましたとばかりにランとリーファが精霊の木から俺の肩に飛んできた。妖精達はいつもしっかりと留守番をしてくれている。彼らも労わってやらないとな。
「タロウもリンネも今日はよく頑張ってくれたな」
「ガウ!」
「へっちゃらなのです。タロウも問題ないと言っているのです」
「ランとリーファもお留守番ご苦労様だったね」
そう言うと2体の妖精が肩から飛んで俺の目の前の空中で止まるとサムズアップする。それが終わるとまた俺の肩に乗った。うん、癒されるよ。
明日は収穫して農業ギルドに卸してから船に乗って釣りをしながら奥を探検しようという話をするとタロウもリンネも尻尾をブンブンと振り回してくる。
「お船に乗ってお魚を釣って、それから敵をやっつけるのです?」
「そうだよ」
「素晴らしいのです。明日も頑張るのです」
この日は農作物の収穫から始まった。野菜を収穫して種を蒔く。するとリンネが水魔法で水を撒き、その後ろからランとリーファがステッキを振って土に栄養を与える。果樹園に行くとリンゴを収穫してから同じ様に水魔法とステッキを振って最後はビニールハウスだ。ここでは作業が終わると4体の従魔達がハウスの中で遊びまわるのが日課になっていた。今もタロウとリンネが走り回っていて、ランとリーファはハウスの中を思い思いに飛び回っていた。俺はこの時間は地面の上に座って遊び回っている従魔達を見ているだけだ。時々彼らが俺のところにやってくると撫で回してやる。するとまた走り出して遊びまわる。
このビニールハウスの中では彼らが満足して俺のところに戻ってくるまで待って、絶対に自分から帰ろうかとかそろそろ行こうかと言わない様に決めている。折角従魔達が楽しんでいるところに水を刺す様な事は言いたくないからね。遊ぶ時はしっかりと遊んで欲しい。特にランとリーファはずっと俺の自宅にいるからこうやって大勢で遊ぶのは楽しいだろうし。
1時間程経つとすっかり満足したのか4体の従魔が俺の周りに集まってきた。
「いっぱい遊んだか?満足したか?」
そう言うとランとリーファはサムズアップをし、タロウはガウと吠える。そしてリンネは、
「いっぱい遊んだのです。主、お船に乗る時間なのです」
「分かった。じゃあ行こう」
ランとリーファに留守番を頼んで試練の街に飛ぶとそのまま東門から外に出た。タロウが乗れというので乗って河岸まで移動して船を浮かべる。ちゃんと俺が乗るまで待っている2体の従魔達。全員乗ると櫓を漕いで下流を目指していく。今日はこの前よりも奥に行ってみよう。
船では船首にリンネ、その後ろにタロウというのが指定席になりつつある。俺は立ったまま船尾で櫓を漕いでいるが船首にいる2体は時折首を動かして両岸を見たり川面を見たりして楽しそうだ。この前の釣りポイントを過ぎてさらに30分程進んだところで船を止めて釣りを開始した俺たち。ウォルシュさんからは美味しくない魚を教えてもらっていたのでそれが釣れるとリリースして美味しいと言われている魚を狙って釣りをする。
釣り上げると大喜びするタロウとリンネ。船の中でぴちぴちを跳ね回す魚を見ては尻尾をブンブン振り回して感情を爆発させている。
「この前よりも大きな魚なのです」
「確かに。これは初めてだな。あとで食べられるかどうか聞いてみよう」
「主は釣りもすごいのです。何をやっても一番なのです」
「ガウガウ」
「ありがとうな」
船の水槽を泳いでいる魚を見ている2体を撫でまわしてやる。
いつもこうして褒め称えてくれるタロウとリンネ。そう言われるとこっちも頑張ろうという気になるよ。
ウォルシュさんが美味しいと言ってくれた魚とそれよりも大きなサイズの魚の2種類の魚が入っている水槽が一杯になってきたので、俺は船を河岸につけた。と言っても川の近くまで森になっているのでタロウが周囲を警戒して問題がない場所で船をつける。ここからは戦闘の時間だ。
俺たちが降りた場所はちょうど狼と虎が生息している境目だったらしく時に狼、時に虎の魔獣が相手だ。レベルは94から95と高くなっているがこっちの装備とタロウとリンネの従魔が優秀なので単体なら問題なく倒せるまでになっていた。
森の中で数度戦闘すると上忍がレベル2に上がった。従魔も同じだ。
「やったのです。これでまた強くなって主をお守りできるのです」
「ガウ!ガウ!」
「俺もちょっと強くなったがタロウとリンネも強くなってるぞ、頼むぞ」
「ガウ!」
「任せるのです」
森の中で経験値を稼いだ俺達。日が傾いてきたので水槽と船を収納すると転移の腕輪で試練の街に戻ってきた。この腕輪は本当に使い勝手がいいいよ。街に戻ると早速ウォルシュさんの店に顔を出す。
「この魚は初めて見るぞ」
水槽の中にある大きな魚を見たウォルシュさん。ちょっと調理してみようと厨房で魚を焼いてみたらこれがすごく美味しいらしい。俺も一口もらったが川魚の水臭さが全くなくて滅茶苦茶うまい。
「この魚は大きいのに身が締まっているな。この魚とこっちのいつもの奴を買い取らせてくれ。つまりだ、水槽の中にある魚を全部俺が買い取ろう」
結局釣った魚を全て買い取ってくれたウォルシュさん。俺としても自分が釣った魚が売れると嬉しい。
「また釣れたらいつでも買い取るからな」
「お願いします」
「主に任せるのです」
レストランを出て別宅に戻ってくると、待ち構えていた様にマリアが隣の庭から入ってきた。ただし今日はその後ろからスタンリー、クラリア、トミーも続いて入ってきた。
「タクが帰ってくるのを待ってたんだよ」
スタンリーがそう言った。
上級レベル2になったばかりの俺を待っていた?なんだろう。
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