ワールドアナウンス

「安定してるね。文句のつけようがないよ」


 収穫した野菜と果物を農業ギルドに持ち込むとネリーさんが検品をしながら言う。相変わらず俺の畑でできた野菜や果物は幻の食材として飛ぶ様に売れているらしい。


「妖精達が頑張ってるからね」


「その妖精を自宅の畑に呼び込んだタクも評価されるべきだよ。あたしゃ評価してるよ」


「ありがとう」


 納品を終えた俺は自宅に戻ると野菜の種を蒔く作業をする。例によって4体の従魔達と一緒だ。俺が種を植えるとタロウの背中に乗っているリンネが水を撒き、その後でランとリーファがステッキを振ってくれる。畑が終わって果樹園のりんごと梨の木に水をやり終えると最後はビニールハウスだ。ここに来ると俺は収穫の時以外、やる事がなくなる。従魔達の後ろからのんびりと歩いて彼らの仕事を見ているだけだ。


 全ての見回りが終わるとビニールハウスの中で遊びまわるのも日課になっている。タロウとリンネはビニールハウスの中を走り回ったり戯れあったりし、ランとリーファは好きに飛んでタロウやリンネの背中に乗ったり俺の肩に乗ったり。


 しっかり遊ぶと自宅の庭に戻ってくる。ランとリーファは指定席の木の枝に並んで腰掛け、その根元にタロウがゴロンと横になる。リンネが縁側に上がると俺の膝の間に体を入れてきて顔を上げた。


「主、今日はどうするのです?」


「台地の上の洞窟に行くか?」


 ここ2日間は台地の上には行かずに試練の街やここ開拓者の街の周辺で体を動かす程度だった。毎日がっちり試練をこなす事はせずに畑を見たり試練の街の市内をうろうろしたあとで街の周辺で魔獣を倒しただけだ。試練の残数を見ると560体になっていた。2日で40体程倒しただけだった。


「行くのです。タロウとリンネで敵をバンバンやっつけるのです」


 洞窟に行くと聞いて横になっていたタロウが起き上がると近づいてきた。今日はがっつりと試練を消化するか。そう決めると妖精に留守番を頼んで俺たちは試練の街に飛ぶ。妖精の任せとけというサムズアップにももうすっかり慣れたよ。


 試練街の別宅の縁側に飛んだ俺たち。するとすぐに隣からマリアが庭に入ってきた。彼女のタロウを見つける嗅覚恐るべし。タロウもマリアを見ると尻尾をブンブンと振っている。


「外に出ていないのかい?」


「もうすぐ出るわよ。それよりタクもここ数日見なかったわね」


「農業メインでやってたからね。昼間は開拓者の街に居座ってたかな。こっちには午後から夕方に来て周辺の森でトレントを倒してたよ」


「今日は例の洞窟?」


「タロウとリンネの気合いが半端ないんでね」


 そう言うとリンネがマリアに顔を向けた。


「今日は主と洞窟に出向いて敵をぶっ倒してくるのです」


 おいおい、物騒な言葉を知ってるな。そう感じてタロウを見るとマリアに撫でながらそうだと言わんばかりに尻尾を大きく振っている。こっちも過激だったか。


「私たちも洞窟に行くのよ。というかあそこが試練を消化するのに一番いい場所ね。ライバルも少ないし」


 マリアによると試練の残数は残り400ちょっとだという。俺が560だと言うと私たちの方が早そうねと言う。当然でしょう。情報クランも残り400それくらいになっているはずだとマリアが教えてくれた。


 そんな話をしていると隣からスタンリーがやってきた。挨拶を交わすと俺の残数を聞いてきたので560体だよと言う。


「こっちはあと403体だ。貸切の洞窟でやっているから消化が進んでいるよ」


「確かに、ライバルがいないし敵は比較的集まっているからストレスなく進められるよな」


 俺が言うとその通りだと頷く二人。彼らはパーティメンバーがインするのを待っているというので俺たちが先に街の外に出る。


「タロウが背中に乗れと言っているのです」


 すでに背中に乗っているリンネが言う。タロウもガウガウと言っているのでタロウの背に乗って一気に台地の下まで走っていった。やっぱり早いわ。


 階段を登って原生林の中を歩いて洞窟に着くと早速攻略というか試練を開始した。


「主、ガンガンやるのです」


「おう。やったろうじゃないか」


「ガウ!」


 もう何も言わなくても自分達の仕事を完璧にこなすタロウとリンネ。装備がよくなったことや慣れてきたこともあって片っ端から1層、2層の魔獣を倒して3層に降りて同じ様に魔獣を倒しまくる。そうして戻ってくると階段を2層に上がってREPOPしていた魔獣をひたすらに倒していく。2層、3層、そしてまた2層を攻略して2層と3層との階段で休憩をとっているとスタンリーらのパーティがやってきた。マリアやジャックスとも挨拶を交わす。


「タクは2層と3層かい?」


「そこを行ったり来たりしてる。そっちがやるのなら重ならない様に俺たちが下に降りるよ」


「じゃあ俺たちは1層と2層にしようか、いいかな?」


「OK、俺たちは3層と4層にするよ」


 彼らが2層に戻っていくのを見ると俺たちは立ち上がって攻略を開始した。休憩を挟んで3層、4層を行ったりきたりしながら試練を続けた俺たち。試練の残数が400を切ったところでこの日の活動を終えた。がっつりと鍛錬をしたので流石に俺も従魔達も疲れが見える。転移の腕輪で自宅に戻ると庭でタロウとリンネをしっかりと労ってやる。横になっているタロウを撫で、膝の上に乗っているリンネを撫でる。


「疲れただろう」


「主のために頑張ったのです」


「嬉しいが無理するんじゃないぞ」


「大丈夫なのです。明日も頑張るのです」


「いや、今日結構頑張っただろう?明日は休もうと思ってるんだけどな」


「やるのです。タロウもリンネもやる気満々なのです」


 今日の討伐数から見ると1日で200体近くを倒している。頑張れば明後日にはノルマの800体をクリアしそうだ。きついけどあと2日やればしばらくはまたのんびりできるかな。ほぼ貸切り状態の今の間に稼ぐしかないよな。


「分かった。お前達がいいのなら明日もあの洞窟でやるぞ」


「ガウガウ」


「任せろ!なのです」



 次の日は朝の畑の見回りを終えるとそのまま試練の街に飛んで外に出るとタロウの背中に乗って台地の下に。階段を登ると再びタロウにまたがって土の道を走ってあっという間に洞窟の入り口に着いた。


「タロウ、大丈夫か?」


 尻尾を振りながらガウガウと答えるタロウ。どうやら元気な様だ。サーバントポーションをタロウにかけてから試練を開始した俺たち。この日は1層から3層を行ったりきたりして魔獣を倒しまくる。


 タロウもリンネも戦闘大好きな従魔達なので嬉々として蹴りを入れ、魔法を撃ってくれる。俺の装備も85以上のものになってからは貢献度が上がり、その結果敵を倒すスピードが上がった。


 この日の活動でノルマは後168体になった。


 その翌日再び洞窟に出向いて試練を進めていて、ちょうど3層と4層の階段で休憩をしているところに攻略クランのメンバーがやってきた。マリアはタロウを見つけると当然の様に撫で回している。


「予想通りここは第二の試練の場所だったよ」


 スタンリーらは第一の試練を終えて試練の塔に出向いたところ神官のマリアンヌから、


『このエリアのどこかにある洞窟を見つけ、その洞窟を攻略して最深部に辿り着く事。最深部に辿り着いた時にあなた達の苦労は報われることになるでしょう。洞窟を攻略するパーティは最大5名までです。倒したらまたここに来てください』


 と言われてピンときたらしい。やっぱりここは試練に関係のある洞窟だったんだ。


「情報クランの連中もすぐにやってくるだろう。今回は俺たち攻略クランが少し早かったがほとんど同じタイミングで第一の試練を終えたんだよ」


 スタンリーらはお先にと進んでいった。その後俺たちが試練を進めているとスタンリーの言葉通りに情報クランのメンバーがやってきた。


「タクがこの場所を見つけてくれていたからすぐに分かったけどそうじゃなかったら洞窟探しからやらないといけないところだったわ」


 クラリアや他のメンバーにお礼を言われたけど偶然に聞いた話がたまたま当たりの場所だっただけなんだけどな。


 お先にと情報クランの連中が奥に進んで行き、俺たちが洞窟の中で試練のノルマを消化しているとワールドアナウンスが来た。




『ワールドアナウンスです。初めて上級ジョブに転換したプレイヤーが出ました』




 試練とは上級ジョブへの転換の試練だったんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る