試練をはじめよう

 インをして畑の見回りを終えた俺はランとリーファに留守番を頼んで試練の街に飛ぶと、そのまま情報クランのオフィスに顔を出した。


 アポイントはクラリアと取ったんだが部屋に入るとトミーも一緒にやってきた。忙しいはずのマスターとサブマスが出てきて大丈夫なのだろうか。ちなみにタロウは俺の後ろでゴロンと横になっていてリンネは俺の膝の上で横になってリラックスモードだ。


「外で試練の消化ばかりやってたら飽きてくる。作業になってしまうからな。実際に他のこともやっているよ。ゲームだし色々メリハリをつけて楽しんだ方が良いだろう?」


 そりゃそうなんだが。まぁ当人が納得してるのならいいか。俺は今日来たのはと言って、2人に忍具店のモトナリ刀匠から聞いた話をする。俺が話をしている間黙って聞いていた2人。話し終えるとトミーとクラリアが言った。


「なるほど。普通なら2,000体かそれ以上。1,000体台を言われたら相当貢献度が高いということか。NPCへのアプローチ以外にワールドアナウンスやNM戦などが関係しているんだろうな。そしてタクがありえない三桁の討伐数。これはワールドアナウンスの回数はもちろんだが、それ以外に隠れ里や果樹園、妖精など一見戦闘には関係のない部分で貢献度が高いんだろう」


「そうね。黒翡翠の欠片を貰ったのを見てもタクのNPCからの好感度は高いわね」


 俺の話から分析をする2人。


 情報クランでは攻略クランとも話をしていて、第一の試練に関わる条件についてはここ数日の内に情報を整理した上で公開して販売する予定らしい。あの洞窟については意味がわからない内にあの場所を公開する事は考えていない。しっかりと検証してから情報を公開、販売する方針だそうだ。いい加減な情報は販売しないというクランポリシーだな。


「第一の試練が終わった後のマリアンヌの対応。それから第二の試練があの洞窟なのかどうかの確認。仮にそうだったらその後に何がくるのか。そこをきちんと検証してから情報クランとして販売していくつもりなの。試練については皆が興味あるし誤った情報でミスリードはしたくないの」


 クラリアとトミーというか情報クランの予想では第一の試練の内容と倒すべき魔獣の数がプレイヤーによって差があることを公開すれば多くのプレイヤーが85になっても試練の塔に行かずにあちこちの街でクエストをこなすだろうと見ている。そりゃそうだよな。いきなり5,000体と言われるかもしれないのが好感度を上げてその数が減るのなら減らしてから試練の塔に行こうとするのが普通だろう。情報クランと攻略クランの試練のノルマが1,200体だというのはすでにプレイヤーの間には広まっているらしい。というかさりげなくリークしたんだろうな。その結果85になってすぐに試練の塔に向かうプレイヤーが出ないだろうという読みだ。


「ただ好感度は数値化されていないし自分で確認することも出来ない。だからゲームの貢献度やNPCの好感度はプレイヤー自身で判断して試練の塔に行ってくれとはっきりと言うつもりだ」


 これも当然だな。試練の塔にいるマリアンヌと会って試練を受ける人は自己責任でやってねということだ。一度受けると討伐する魔獣や獣人の数は変えられない。


「それにしてもその刀匠の話によると普通三桁という数が出てくることがありえないと言ったんだろう?それから見るとタクは相当ポイントを稼いでいたということだな」


「当然なのです。主は一番強いのです」


 膝の上でリラックスした格好でトミーの言葉に反応するリンネ。


「俺は一番強くないぞ」


「強いのです。タロウとリンネの主はいつも一番なのです」


「そうか、ありがとうな」


 膝の上に乗っているリンネを撫でてやると6本の尻尾を振って気持ち良さそうにする。それを見ていたタロウが後ろで起き上がると俺に顔を近づけてきた。撫でてやると尻尾をブンブンと振ってくる。そこまで言ってくれるお前達の期待に応えないといけないな。


「タロウとリンネを従魔にしてるってのもポイントに入っているんじゃないの?」


 俺に撫でられているタロウとリンネを見えいたクラリアが言った。


「リンネはワールドアナウンス絡みだからね。タロウについてはテイマーギルドを初めて見つけた報酬だったから貢献ポイントに入っていいるかもしれないな」



 情報クランが掴んでいる限り自分たちの後で85になっているプレイヤーはいないが84に達しているプレイヤーはそこそこいるので第一の試練の情報はできるだけ早く公開した方がプレイヤーのためになるだろうという判断をしている。


 いつの間にか俺も85になってしまったが普通なら混雑している街の周辺で経験値稼ぎをするとレベル差もそれほどないし時間がかかるだろう。そうは言っても時間が経てばレベルもあがる。85になってやったーとそのまま塔に言って数千体とか言われたら辛いわな。そう考えると最初の5,000体を受けちゃったプレイヤー達には同情するよ。


「タクは試練の消化はあの洞窟でやるんでしょ?」


「そう。あそこはライバルがいないし俺たちだけでも攻略できそうなのでね」


「俺たちも攻略クランもあそこで消化するつもりなんだよ。あとクランメンバーで洞窟に行っていない85の連中もそうするつもりだ」


 あそこなら今のところは貸切りみたいなものだし。何より魔獣との遭遇率も高いから効率的に試練を進めることができる。


「当然そうなるよね。各フロアも広いしいいんじゃない?」


 現地で出会ったらよろしくねと言われてオフィスを後にした俺は情報クランに話をした通り、街から出ると台地の上の洞窟を目指す。タロウとリンネはもうすっかりやる気モードになっていた。


「今日もガンガンやっつけてやるのです」


「ガウガウ」


「頼むぞ」


 洞窟に入ると通路に出てくるゴーレムと遭遇した。今日は俺と2体の従魔だけだが新しい装備の威力が半端ない。刀の切れ味が鋭くてこの前は大した傷をつけられなかったゴーレムに大きなダメージを与える。あっという間にゴーレムを倒した俺たち。レベルと装備の相乗効果だ。


「すごいのです。やっぱり主は一番なのです」


「ガウ!ガウ!」


「タロウも凄い凄いと言っているのです」


「そうか。お前たちもすごく強くなってるぞ。この調子で敵を倒しながら進んでいくぞ」


「はいなのです。タロウとリンネもガンガンやるのです」


 その言葉通りエンジンが入った俺たちは1層から2層でゴーレムや地竜やらを片っ端から倒しては進んでいった。


 3層、4層は俺たちのフロア、いやタロウのフロアだ。フロアにいる猛獣達がタロウの威圧で萎縮している間にガンガン攻撃して倒していく。4層には獣人もいたがこちらの装備も上がっているので問題なく倒しまくって5層に降りた。


 沼地のワニだがこれも新しい刀と防具のおかげで前回よりも討伐がずっと楽になっていた。本当に85以上というレベル制限のある武器や防具は優秀だよ。昨日の苦労が嘘みたいにサクサクと倒せる。もちろんタロウとリンネの活躍に依るところが大きいんだけど俺自身も昨日よりはずっと貢献していると実感できるレベルだったよ。モトナリ刀匠の刀と装備が半端ないんだよ。


 そして俺たちは6層に着いた。獣人達を倒しまくって通路を抜けた先には昨日と変わらず水晶が置かれていた。それに両手で触れてみたが相変わらず何も反応はなかった。まぁ当たり前なんだけど一応確認しておかないとね。


 この広場は魔獣が湧かないので休憩に良い場所だ。タロウとリンネを休ませながらウィンドウを見てみると80体ほど倒していてウィンドウには712と試練の残数が出ていた。この場所が貸切状態だったのもあってがっつりと敵を倒すことができたよ。


 土の上に座っているとその隣でタロウが横になり、リンネが俺の膝の上に乗ってきた。2体の従魔を撫でて労わってやる。


「疲れただろう?」


「大丈夫なのです。タロウもまだいけると言っているのです」


 無理はしてほしくはないが、折角貸切り状態なのでもう少し試練を進めたい。しっかりと休憩をして体力を回復した俺たちは今度は逆に6層から上を目指して言った。5層は沼地なので最短距離で移動して4層から3層に到着すると、そこで腰を据えて敵を倒す。タロウとリンネには無理をさせたかもしれないが結構長い時間3層と2層を往復しながら魔獣を倒しまくった。


 結局この日1が終わった時に端末を見ると第一の試練の残数は607になっていた。


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