装備を更新しました

 先に自宅に戻った俺達。今回は人数が多いので洋間じゃなくて和室がいいだろう。囲炉裏を片付けて広い畳の部屋にしてお茶を用意したタイミングでサポートAIのミントが言った。


(タクが許可を与えていないプレイヤーが入室を希望しています)


(うん、全員に許可を出していいよ)


(わかりました)


 しばらくして門から10名のプレイヤー達が入ってきた。マリアは早速タロウに近づいて撫で回している。いつもは4人だけがここに来るからな。


「これがタクの自宅か。いや、凄いな。想像していた以上だよ」


「全くだ。家も畑も立派なもんだ」


 ナイトのジャックスとリックがそう言いながら庭に入ってきた。全員が和室に入るとお茶とりんごを配ってから縁側の近くに座る。りんごも倉庫に取り置きしていたんだよ。もちろん梨もストックがある。


「タクの家を借りて悪いわね。これだけの人数で大っぴらに話ができる場所ってここしか思いつかなかったのよ」


 クラリアが申し訳なさそうに言うがこっちは全然問題ない。和室や縁側に全員が思い思いに座った。10名が入っても狭苦しく感じないだろう。


「大丈夫だよ。いつでも使ってくれていいから」


 タロウは俺の近くの縁側にゴロンと横になっていてその背中にはランとリーファがちょこんと座って羽根をゆっくりと動かしている。リンネは座っている俺の膝の上に座ってこれも顔を俺の太ももに乗せたまま6本の尾をゆっくりと動かしていた。皆お茶を飲んでは美味しいと言ってくれるし、リンゴを食べても美味しいねと言ってくれた。それを聞いていたランとリーファが羽根をパタパタとさせていた。



 始めようかというスタンリーの声で洞窟を攻略したメンバーによる検証が始まった。全員が認識しているのはあれはダンジョンじゃないということだ。ボスがいなかったことがその最大の理由だという。山裾の街の小さなダンジョンでもボスはいた。それがここにはいないということはあれはダンジョンじゃなく別の目的のためにあるのだろうということで意見が一致する。こうやって検証を進めているんだな。


 じゃあ別の目的って何の目的だ?

 その話になった時に情報クランの人族の女性が声を出した。ユーリという僧侶の女性だ。


「ひょっとしてあれって第二の試練に関係のある洞窟じゃないかしら」


「第一の試練をクリアした後のお題に関係がある洞窟ってことだな」


 トミーが彼女の言葉をフォローする。


「そう。だってボスがいなくて水晶があったでしょ?次の試練で最下層まで攻略を終えてあの水晶に触れるとか」


「確かにあそこにいる敵のレベルは高かった。こっちがレベル85でギリギリ倒せる強さだ。ちょっと強めじゃないか?」


「強さはこっちの装備が全て85になっていないことも関係してない?」


「それはあり得るな。全員の装備が揃えばもう少し楽になる」


「あの洞窟は第二じゃなくて第三の試練の可能性もあるよな」


 メンバーが思いついたことをどんどんと発言する。


「第二、あるいは第三の試練に関係がある場所か」


 黙ってやりとりを聞いていたスタンリーが声を出した。


「ありえる話だな。俺は今の彼女の話に乗る」


「可能性が高そうね。いずれにしても私たちが第一の試練をクリアした時にはっきりしそうね」


 スタンリーに続いてクラリアがそう言ってから俺に顔を向けた。


「それでタク、試練は受けてきたの?」

 

「受けてきた。レベル85以上の武器か防具を1つ装備してこのエリアで獣人か魔獣を800体倒せというお題だった」


「800体?」


 全員がびっくりした表情になったり声を出したりする。


「三桁じゃないかよ」


「5,000体の奴と比べたらどんだけ少ないんだよ」


「主は一番だから当然なのです」


 800体という数字を聞いて驚くメンバー達。リンネがそう言うと俺の隣にいるタロウもガウガウと吠える。


「こっちは決まりでいいでしょう。試練で倒すべき敵の数はPWLでの貢献度によって変化するってことで」


「そうだな。おそらくPWLをしているプレイヤーの中でタクが一番ゲームやNPCに対する貢献度が高いのだろう。倒すべき魔獣の数はその貢献度にリンクしている。800体が最低で、最大で5,000体だろうな」


 クラリアとトミーが言うと全員がそれで決まりだなと言った。


 スタンリーによると1,200体の試練の消化中で今でようやく400体強を倒したところであと780程だという。情報クランも同じくらいの数を倒したところらしい。洞窟で稼げたよと言っている。


「俺たちが400体倒してやっとタクのノルマと一緒か」


「たまたまじゃないかな。数は少ないかもしれないけど俺は畑の面倒を見る必要もあるし、のんびりとやるつもりだよ」


 競争じゃないから誰が一番乗りでもいいと思っている。俺が一番になるぞ!と気合を入れてやるつもりは全くない。


「さっきのユーリの話に戻るけど。彼女のいう通りだと仮定してあの洞窟が第二の試練だとするとパーティで攻略するのが必須条件になるわね。その辺りもマリアンヌが言いそうだけどね」


 たまたまグループというかパーティ毎に別れてあそこを攻略したのが結果的に正解だったんだなとメンバーが言っている。


 そして次の話題は第二の試練で終わるのか。終わったらどうなるのかという事だ。これは誰も予想がつかないので各自が思いついたことを好きに話している。第三の試練があるとか、いやいやもう試練は終わりでレベル開放になるんじゃないかとか。


 話の中ではレベル開放説が一番有力だった。今まではエリア毎にレベルの上限が有ったが試練の塔のあるエリアでは試練をクリアすることでレベルが開放されていく。エリアは広大でまだほんの入り口付近しか探索できていない。レベルを開放して強くなったところでエリアの探索が進む様にしているのだろう。という見方だ。



 検証の後で雑談をし、彼らが帰ったあと。俺は試練の街に飛んだ。モトナリ刀匠のところに報告に行ってついでに刀を買うためだ。当然タロウとリンネも一緒に刀匠の店に顔を出した。


「こんにちは」


 俺に続いてリンネとタロウも挨拶をする。すると奥からモトナリ刀匠が顔をだした。俺を見るなり、


「レベル85に到達した様だな」


「おかげさまで85になりました。それで試練を受けたら85から装備できる武器か防具を持って獣人か魔獣を倒せという試練を受けました」


 俺の言葉に大きく頷いたモトナリ刀匠。


「それでタクは何体倒せという試練なのだ?」


「800体です」


 800体と聞いてモトナリ刀匠の目が大きく開いた。


「タクは相当あちこちの街の人たちから好かれておる様だの。三桁の数は初めて聞いたぞ。俺が知っている中で一番少ないのが1,000体だった。普通なら2,000体以上の数を言われるんだ。1,000体台の数字を言われたら相当貢献度が高いと思っていたがそれよりも上がいたか。800体というのは相当この世界に貢献し、と同時に多くの街の住民から好かれていないと出ない数字だぞ」


 そうなんだ。これでクラリアが言っている仮定が証明されたな。どうやら俺が思っている以上にゲームやNPCへの貢献度が高いみたいだ。倒す数が少ない方が良いに決まっているので助かったよ。


「以前俺が強い忍とはという問いかけをしたのを覚えているか?」


 もちろん。俺が頷くと刀匠が続けて言った。


「ただレベルを上げているだけではダメだというのは、それだけだと周りの人たちに貢献しておらず、試練の数が多くなるからだ。その点タクは強くなる忍の資格を十分満たしているぞ」


 おお、刀匠に褒められたぞ。タロウとリンネも尻尾をブンブン振って喜んでくれている。


 モトナリ刀匠は奥からこの前見せてくれた少し長めの刀を持ってきてテーブルの上に置いた。その刀をタロウと俺の頭の上に乗っているリンネがじっと見る。


「今のお前ならこれを持つ資格があるぞ。この刀は今使っているものよりも数段上だ。攻撃力、素早さ、全てが上がる」


 そして次に店に置かれている防具から黒い装束を持ってきた。これも85から装備できる装束だという。上衣は忍びの格好だが下半身は袴ではなくズボンタイプだった。それと手甲がセットになっている。


「これはセットで着ると素早さが上がり、敵に見つかりにくくなる。85になって刀とこの装束のセットを身につけたらかなり強くなるぞ」


 かなり強くなると言われて刀と装束セットを買うことにする。かなり強くなる分、かなり高いお値段になるが幸いにして俺には農業と情報という金策があってお金にはそれほど困っていない。


 刀と装束を買った俺は早速その場で新装備を身につけた。


「主、格好いいのです。前のも格好良かったのです、でも今回のはもっと格好いいのです。これでまた主が一番強くなったのです」


「ガウ!ガウ!」


 おお、リンネもタロウも喜んでくれてるな。よかったよかった。ただ一番強くなったかどうかは知らないぞ。


「しっかりと効果が出ているな。これを身につけて第一の試練を進めることができるだろう」


 俺は刀匠に礼を言い、ついでに術3について聞いてみたが術3はこの街には売っていないという。


「この街ではないが売っているのは間違いない。試練を終えて強くなってからあちこちを探索すると良いだろう」


 やっぱりこのエリアには他にも街がありそうだ。そしてその街に行くには試練をクリアするのが最低条件になっているな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る