LV85
今までのPWLのフィールドでは見たことがない景色が目の前に広がっていた。この上の沼のフロアもそうだった。新しい風景は新鮮だ。
新鮮だけどそこに徘徊している獣人は91、92とレベルが高い。俺よりも7つも8つも高いよ。ただ隣にいるタロウとその背中に乗っているリンネは2体とも鋭い視線で前を見ている。気合い十分だ。
「俺たちの担当は魔法使いだ。いいか。杖を持っている敵を攻撃するんだぞ」
「ガウガウ」
「ばっちりなのです。杖を持ってる悪い奴をとっちめてやるのです」
階段から広場を見て杖を持っているゴブリンを見つけるとあれだと声をだす。タロウとリンネに続いて俺が広場に出るとタロウに向かって精霊魔法を撃つゴブリンだがそれを綺麗に交わすタロウ。8つもレベルが上の魔獣の魔法を交わすなんてタロウ、凄いぞ。
交わしている間に俺が刀で切りつけるとゴブリンがこちらを向いた。するとすぐにタロウの蹴りとリンネの魔法がゴブリンに命中する。俺も刀を連続で振り回して攻撃するとゴブリンが魔法を撃つことができない。詠唱をさせない様に連続で攻撃していると最後にリンネの魔法で止めを刺した。
「タロウ、リンネ。凄いぞ」
「これくらいは朝飯前なのです。主のために頑張るのです」
「ガウ!」
おう、頑張ってくれ。お前達が頼りなんだからな。
俺たちが魔法使いの獣人をメインに倒している間に情報クランと攻略クランのパーティは個別で前衛ジョブの獣人達を倒していた。当然だがあちらの方が殲滅速度が速い。俺たちが2体倒す間に3体から4体を倒していく。彼らが強いと分かっていてもちょっと凹むよ。
荒野に点在して徘徊している獣人達を倒しながら奥に進んでいく俺達。敵の数は多いがこちらの戦闘能力も高いので危なげない場面がない。3組のパーティがほぼ横並びでフロアを攻略して奥に進んでいくと広場の奥に洞窟の様な通路が見えてきた。
ここに来るまでにノンストップで結構な数の獣人を倒してきた俺達は洞窟から少し入った所が安全だとわかるとそこで休憩する。
タロウとリンネがゴロンと横になって休んでいる隣で俺はまた全員に梨を配った。これがいいんだよ。栄養価もあるしジューシーで美味しいし。と自画自賛してみる。でも実際にメンバーからは好評なんだよね。
「この通路は奥にまっすぐ伸びているけど奥が見えないわね」
「休んだらタロウを先頭にして進もうか。敵はいなさそうだしな」
「ガウ!」
任せろ!とばかりに尻尾を振るタロウ。いつの間にかそのタロウの背中をマリアが撫で回していた。ブレないな。
「リンネは主と一緒に行くのです」
「そうか。じゃあ一緒に行こう」
「はいなのです」
しっかり休むとタロウを先頭にして薄暗い洞窟を奥に進んでいく。今までよりもずっと暗いが真っ暗ではないのでかろうじて前方10メートル程度の視界がある中、普通なら歩く速度がかなり遅くなるのだがタロウが平然と歩いているので全員がその後に続いていた。リンネは俺の頭の上で警戒をしているつもりなんだろう。
「大丈夫なのです」
とか
「気配がないのです」
とか言っている。うん、リンネも役に立ってるぞ。
数百メートルは進んだだろう、前方に明かりが見えてきた。近づくとこの洞窟の先はちょっとした広場になっている様だ。結局魔獣に会うこともなくその広場にたどり着いた俺達。
洞窟の奥の広場の様な場所の中央には石の柱の上に真っ青な綺麗なガラス玉の様な石が置かれていた。水晶みたいだな。
「触ってみるわね」
「注意しろよ。何かあったらすぐに手を離すんだ」
クラリアの言葉にトミーが言い、彼女以外の全員が広場から洞窟の出口まで戻ってクラリアをじっと見る。
俺たちが見守るなか、クラリアが片手を、そして次に両手を水晶に触れた。しばらくしてから手を離したクラリア。
「何も反応がないわ」
「次は俺がやろう」
そう言ったトミーが近づくと水晶に触れる。そして彼も何もないと言う。その後攻略メンバーが全員が水晶に触れたが何も起こらなかった。一番最後に俺も触れたが俺の時も何も起こらなかった。
「タクはどうだった?」
クラリアが聞いてきた。
「当然俺も何もなかったよ。皆が何もないのに俺が何か起こるとは思えない。レベルも84だしさ」
「格上を結構な数倒したじゃない。85になってない?」
マリアが俺を見て言う。確かに沢山倒したなと思ってウィンドウを見るといつの間にか85になっていた。1体倒した時の経験値が多かったんだろう。
「なってた!85になっていたよ」
いやぁ、想像以上に早く85に到達したな。やっと到達したよ。というかいつ85になったのか全然気が付かなかった。
広場の周囲を歩いていたスタンリーが戻ってきた。
「ダンジョンと思っていたがボスらしきのはいない。隠し扉的なものもない。完全に行き止まりの広場になっている」
「意味のないダンジョンを作っているとは思えない。まだ何かが足りないのね」
クラリアの言葉に頷く他のメンバー。俺ももちろん彼女と同じ考えだ。スタンリーもおそらくそうだろうと言ってから皆を見る。
「このダンジョンについてはすり合わせが必要だな。一旦上に戻らないか」
結局最下層の6階で何も分からなかった俺たちは来たルートを戻って4階と5階の間にある転送盤からダンジョンの入り口の横に飛んで戻ってきた。皆はここは何だろうと戦闘の合間に話し合っているが、俺は自分が85になった事の方がずっと嬉しかった。こんな事はこの場で言えないけど。
原生林の道を歩きながら、すり合わせはタクの自宅でやろうと誰かが言ってそれがいいねという話になった。あそこなら周囲を気にせずに話ができると言うのがその理由だ。俺が問題ないよと言うと彼らは歩いて試練の街に戻ってから開拓者の街に移動するというのでその間に果樹園のモンゴメリーさんに話をするのが俺の役目になった。
「そうか、あれはそういう場所だったのか」
モンゴメリーさんの果樹園に顔を出した俺と従魔達。俺が話をすると納得した表情になった。
「そうみたいですね。ボスとかがいたわけじゃないので我々の間じゃあそこはダンジョンかそれ以外の何か、いずれにしてもあそこから魔獣が外に出てくることはないでしょう」
「それを聞いて安心したよ。いや、いろいろと調べてくれてありがとうな」
お礼を言われて彼と別れた俺と従魔は転移の腕輪で試練の街に飛んだ。85になったから試練が受けられる様になったんだよね。
「主はどこに向かうのです?」
街に入って通りを歩くと頭の上に乗っているリンネが聞いてきた。
「うん。試練の塔に行くんだよ。85になったからな」
「試練を受けるのです。受けて強くなるのです」
早速はっぱを掛けてくるリンネ。隣のタロウもそうだと言わんばかりにガウと言っているし。通りを歩いて試練の塔に近づくと、これまで柵から中に入れなかったがそこにNPCが立っていた。
「試練の塔に入る資格があるな。試練を受けに来たのか?」
「ええ。お願いします」
そう言うと門を開いて柵の中に入れてくれた。そのまま従魔達と一緒に塔の中に入るとそこは大きなホールになっていてその中央にはこの街で最初に会った神官のマリアンヌさんが立っていた。
「こんにちは」
「こんにちはなのです」
「ガウガウ」
挨拶をするとマリアンヌさんは微笑みながらこんにちはと言ってきた。
「タクと従魔達は試練を受けにきたのですね」
その通りですと言うとわかりましたと言ったマリアンヌ。塔の中では流石にタロウもリンネも大人しくしている。とは言ってもリンネは俺の頭の上に乗っているんだけどね。多分キョロキョロと周囲を見ているのだろう。顔を動かしても良いが余計なことは言うんじゃないぞ。
「ではタクに第一の試練を申し渡します。試練の内容は、レベル85から装備できる武器また防具を最低1つ装備した上でこのエリアで魔獣、獣人を800体倒してください。パーティは最大5名までです。倒したらまたここに来てください」
800体か。クラリアらが1,200体といっていたがそれよりもずっと少ない。彼らの予想通りだったのかな。5,000体と言われていたプレイヤー達に比べたら6分の1弱だぞ。
「分かりました」
彼女はそれ以上は話さなかったのでお礼を言って塔から出た俺たちはそのまま試練の街の別宅から開拓者の街の自宅に飛んだ。
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