タロウレーダー
定例の朝の畑の見回りを終えるとランとリーファに留守番を頼んだ俺達は転送盤で試練の街の別宅に飛んだ。
俺が別宅に着いたタイミングでクラリアのパーティとスタンリーのパーティがやってきた。俺の別宅で打ち合わせをする。スタンリーは武器屋で新しいレベル85からの剣を買ったそうだ。
「5層は沼だった。俺のNMからもらった片手剣じゃダメージを与えられない」
NMの剣は水属性だからな。それにしても気合いが入ってるな。
見た限りだと腰までの高さの草の中に魔獣が隠れていそうだというのでタロウの気配感知の能力をフル活用することにする。とりあえず1パーティで倒せるかどうか試してみようと言うことになった。
「タロウ頼むぞ」
「ガウガウ」
尻尾をブンブン振って答える。こいつも気合い十分だ。
「タロウがいるから大丈夫なのです。どんと来い。なのです」
俺の頭の上でリンネが鼓舞してるな。こっちも十分に気合いが入ってるぞ。それにしてもリンネはいろんな言葉を知ってるんだな。どんと来い、なんてどこで覚えたんだ?
何層のダンジョンかは分からないが行けるところまで行こうと言うことで打ち合わせが終わると俺たちは街の外から原生林に向かう。ダンジョンの入り口に着いた俺たちは早速中に入ることにした。ダンジョンがショートカットできないので1層からもう一度攻略していく。パーテイを3つ作ることで試練のお題の消化ができるので1層では俺達の出番はほとんどなく、情報クランと攻略クランが交互にゴーレムを倒していた。2層に降りると広場に3パーテイが広がってそれぞれ倒しながら攻略する。1度攻略しているフロアでもあり殲滅速度が早い。
俺たちもゴーレムや地竜を倒しては経験値を稼いで奥に進んでいった。3層に降りる階段で休憩を取る。俺は自分の畑で取れた梨を全員に振舞った。
「美味しい梨ね。甘くてジューシー」
「これはタクの畑の梨か。妖精が手伝ってくれるだけあって甘くて美味しいな」
口々に俺の梨を誉めてくれる。農業やっていて作った農作物を美味しいと言ってもらえるのが最高に気持ちがいいんだよな。
「主が作る果物や野菜は皆美味しいのです。評判なのです」
「ガウガウ」
「リンネちゃんの言う通りね。これは評判になるわよ。すごく美味しいもの」
梨を丸齧りしているクラリア。いくらで卸しているのと聞かれたのでだいたい5日に一度収穫した野菜や果物を農業ギルドに売って毎回7、80万ベニーくらいになってるよと言うと全員がびっくりする。
「良い金策ね。その金額が安定的に入ってきたら楽ね」
「それに加えてタクは俺達情報ギルドからもがっぽりと貰っているからな」
トミーが冗談ぽく言う。でも実際そうなんだよな。情報ギルドからは結構な情報料を貰ってるんだよ。農業も妖精が来てからギルドの買取価格が倍近くなっているしね。
「農業は初期投資がかかるけど元はすぐに取れるよ」
俺がそう言うとタクは広い畑があるからねと言われたよ。確かに買える最大の畑を持っているってのは大きい。あとは何と言っても妖精達だ。彼らがきてから農業ギルドの買取額が大きく上がったからね。
梨を食べて元気になった俺たちは3層の攻略を開始した。ここと4層は四つ足の猛獣のフロアだがタロウがいるから何も問題はない。狼だろうが虎だろうがタロウの前では雑魚だ。俺の前でじゃないぞ、タロウの前で雑魚なんだよ。
リンネの魔法も大きなダメージを与え危なげなく魔獣を倒しながら奥に進んでいく。その途中でも魔獣の気配がなくなるとタロウは撫でろと体を寄せてくる。
「リンネも頑張っているのです」
「知ってるぞ。リンネもタロウもすごいぞ」
2体を撫で回しながら奥に進んでいき、3層、そして4層をクリアした。いよいよ沼地の5層だ。階段でしっかりと休んだ俺たちはジャックスとリックを先頭にして5層の攻略を始めた。2人のナイトの後ろをタロウと俺たちが続いて歩く。
靴がめり込むほどぬるぬるの足場ではないがそれでも湿っている地面は歩きにくい。
フロアの攻略を開始して数分後、タロウが低い唸り声を上げた。
「左前方の草むらだ」
俺が言うと同時にジャックスが盾をその方向に向け、攻略クランの他のメンバーが前に出た。俺たちは背後に下がる。その直後草むらがガサガサと動いて体長2メートルほどのワニの魔獣が口を開けて襲いかかってきた。それを盾でガッチリと受け止めると背後にいたメンバーが攻撃を開始する。タロウは気配を感知しているだけなので一切ヘイトを取っていない。タロウが見つけパーティが倒すという作戦だ。
「LV91だ」
上の層と魔獣のレベルは変わらないがワニは硬い。元々硬い皮膚を持っているので剣でなかなか傷をつけられない。ただ沼に生息しているということで雷系の魔法を撃つと大きなダメージを与えることができる。精霊士が2回ほど魔法を撃ったところでワニが光の粒になった。
「硬いがなんとかなるな」
硬いワニを5人のパーティで倒し切ったあとでスタンリーが言った。トミーもなんとかなりそうだと言ってる、いや、彼らは凄いよ。91の硬いワニ相手に何とかなると言えるんだよな。85の武器の威力の強いことよ。格上の硬い魔獣を相手にすると武器の威力の差が顕著にでるね。
「それにしても今までのフィールドのトレントと蜂しかいなかったエリアからいきなり多種多様な魔獣が現れだしたわね。流石にダンジョンだけあるわ」
水分を補給しているマリアが言った。トレントと蜂にも飽きてたから丁度いいじゃないという他のメンバー。やっぱり彼らは強いのと戦うのが好きなんだな。俺なんて刀で大きなダメージを与えられないから寄生丸出しだよ。
5層は視界が良いので遠くまで見えるがフロアが広い。沼地の中には道らしきものがあるのでそれを進んでいくがその左右の草むらから次々とワニが飛び出してくる。幸いに単体で徘徊している様なのでタロウが先に見つけるとメンバーが準備をしてパーティ単位迎え撃つので大きなダメージは喰らっていない。タロウが大活躍だな。俺とタロウとリンネの組も時間はかかるが蝉で回避している間にタロウとリンネで倒しては前に進んでいった。
ワニを倒しながら沼地を進んでいくと前方に沼地の中の土の上に建っている小さな小屋が見えてきた。ジャックスが扉を開けると中はガランとした部屋だがその中央に下に降りていく階段が見えている。このフロアは草むらの中から魔獣が飛び出してくるのと足場が悪い。普通なら苦労するだろう。タロウのおかげで俺たちはそうでもなかったけど。
「これが6階に降りる階段ね」
「ここでしっかりと休もう」
休憩している時の話で俺以外のメンバーはこのダンジョンで試練をこなすのもありだろうという話をしている。上層で効率よく狩った方が総数が増えるらしい。確かにフィールドと違ってダンジョンの中は動き回る必要はないよな。しかもダンジョンの上層はレベルが低いから下層に比べると安全だろうし。
そう大きくない小屋だが11名と従魔2体が入る余裕はある。タロウとリンネも頑張ってるからここはしっかりと休んで回復した方が良いだろう。俺は2体にサーバントポーションをかけた。尻尾を振って応えるタロウ。リンネも6本の尾を振りながら俺の太ももの上に顔を乗せている。
休んでいる間に情報クランのメンバーの1人が階段を降りて下の様子を見に行った。しばらくして戻ってくると全員を前にして言う。
「6層は獣人のフロアっぽいぞ。隠れる場所が少ない荒野のフロアにオークやゴブリンが徘徊している。魔法使いもいるな。見た限りレベルは1つ上がって92になっているのがいる。91と92が混在しているな」
彼の報告を聞きながら作戦を考えるクランメンバー達。スタンリーが俺に顔を向けた。
「魔法使いは任せていいか?タクなら蝉で魔法を回避できるだろうし」
「分かった」
俺がそう言うと太腿に顔を乗せているリンネがその格好のままで言った。
「任せるのです。主は分身があるから無敵なのです」
「無敵という程強くないぞ」
「無敵なのです。主はいつも無敵なのです」
「ガウガウ」
リンネとタロウがいるからだよと言うと尻尾を振って嬉しそうな仕草をする。俺は2体の従魔を撫でながら魔法使いは俺が担当しようと答えると他の前衛系の獣人はまかせろと役割分担が決まった。
小屋でしっかりと休んだ俺たち。スタンリーの行こうかという声で全員が立ち上がると6層に続く階段を降りていった。
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