洞窟を見つけた

 先ずはモンゴメリーさんに話を聞いて現地に出向いてみよう。そこで応援が必要ならフレに声をかける。そんなことを考えながらレストランから別宅へと大通りを歩いていると、路地に入る手前で後ろから名前を呼ばれた。立ち止まって振り返ると情報クランのクラリア、トミーらのパーティだった。


「食事から戻ってきたのかい?」


「そうそう。別宅経由で自宅に戻るところだよ。そっちは?」


「一緒だな。外で魔獣を倒して試練を進めて帰ってきて飯を食ったところだよ。ライバルが多すぎて効率が非常に悪いがこればっかりはどうしようもないな」


 森の中は獲物の取り合いだという。レベル上げパーティが多いので敵を見つけるだけで一苦労らしい。それで日が暮れてきたので引き上げてきたのだと言った。こっちと違って彼らは数を多く倒す必要があるからな。


 夕刻でもあるし、帰宅はだいたい同じ様な時間になるよな。トミーとクラリアの後ろに3人のクランメンバーがいた。俺は全員と顔見知りなので挨拶をしながら並んで通りを歩いてから別宅のある路地に入った。折角だから触りだけでも話しをしておくか。そう思った俺は別宅が並んでいる路地に入ったところでちょっと話があるんだけどというと5人全員が俺の別宅にやってきた。


 タロウが庭に出ると待っていたかの様に隣からマリアがやってきた。聞くと彼らも少し前に戻ってきたらしい。折角関係者が皆いるからここで話をしてしまおう。タロウを撫で回しているマリアに言うと彼女の声かけで隣からスタンリーがやってきた。彼が情報クランのメンバーと挨拶を終えると俺に顔を向けた。


「どうしたんだい?」


「実はね…」


 そう言って今レストランで聞いてきた話をこの場にいるメンバーに話をする。聞いていたメンバーの表情がだんだんと真剣になってきた。これはちょっとまずい。


「ただまだ俺も詳しいことは何も知らないよ。とりあえず原生林の中で果樹園をやってるNPCに話を聞いて、それから実際に洞窟を見てから皆に声をかけようかと思ってたんだけど、たまたまこうして会ったからさ」


「面白そうじゃない」


 そう言ったのはクラリアだ。彼女に続いて全員がそうだな、面白そうだという。だからまだ何も分かっていないって。


「まだ全然状況が分かっていないからさ、とりあえず俺とタロウ、リンネでその洞窟を見てこようか?そっちは今あれだろう?試練の消化中じゃないの?忙しいんだろう?」


 そう言うと全員が首を横に振った、いや忙しいに決まってるだろうが。そう思っているとトミーが言った。


「もちろん俺たちもスタンリーらも今、正に試練のお題を消化中だ。ただそれだけやってもつまらない。あれは一種の作業だしな。気晴らしに丁度いいじゃないの」


「トミーの言う通りだな。試練は試練で進めるがそうやって新しい発見があればそれがたとえ無駄足だったとしても問題ないな。正直試練の消化はライバルも多いし進みが遅い。いい気分転換になりそうだ」


 スタンリーもやる気満々だ。マリアも当然賛成で自分たちのパーティで参加しましょうと言っている。クラリアのパーティとスタンリーらのパーティで10名。それに俺と2体の従魔達だ。


 これで洞窟に何もなかったらどうしようか。


「仮に何もなかったとしても問題ないわよ。探索して調査することが大事なんだから。このエリアは広いから少しずつ調べていくしかないのよ。しかも森の中は同じ景色ばかり。洞窟があるって聞いたらそっちが優先になるのは当然よ」


 俺が思っていることを察したのかクラリアが言った。


「主、ここは洞窟探検に参るのです。タロウもリンネもしっかりお供をするのです」


 俺の膝の上で撫でられているリンネが言ったことで話が決まった。



 翌日、試練の街を出ると原生林の台地を目指す。メンバーは情報クラン、攻略クランがそれぞれ1パーティで5名x2で10名、それに俺とタロウとリンネのパーティだ。


「街の西方面は魔獣がいないこともあって放置してたのよね」


「実際こっちには魔獣がいないしな。他のプレイヤーもここには来ないだろう」


 クラリアとトミーが話をしながら歩いていた。実際このエリアは全く敵がいないエリアになっていた。プレイヤー達は自分も含めて街の北、東、南方面で経験値稼ぎをしている。


 台地の下に着くとそのまま九十九折りの階段を登る。リンネは例によってタロウの背中に乗っている。ちょっと羨ましいぞ。


「ここからの景色は本当に綺麗ね」


 全員が台地の上から試練の街があるエリアを見下ろしている。タロウとリンネも風を正面から浴びながら心地良さそうだ。何度見てもずっと遠くまで森が続いていてその中にいくつか池が見えていた。


 しばらくそうしていたがスタンリーの行こうかという声で原生林の中に伸びている道を歩き出す俺たち。場所を知っている俺たちが先頭だ。


 タロウがしっかりと道を覚えているので途中から左に曲がって原生林の中を歩いて行くと見覚えのある果樹園とその向こうにある小屋が目に入ってきた。


「こんにちは」


「ガウガウ」


「こんにちはなのです」


 挨拶をすると小屋の向こう側からモンゴメリーさんが顔を出した。俺の後ろにいたメンバー達も挨拶をする。


「おお、タクか。後ろはプレイヤーさん達かな。大勢でどうした?」

 

 立場上俺が窓口にならざるを得ないよな。俺はレストランのジョンストンさんから聞いた話をすると合点がいったという表情になった。


「その件か。そうなんだよ。この前、道の向こう側に行ったら洞窟を見つけたんだよ。今まであんなところに洞窟があるなんて知らなかったよ」


 モンゴメリーさんは道の向こう側の原生林の土の質がどうなのか調査に出かけたらそれを見つけたのだという。


「その話を聞いたんで我々でその洞窟の調査に行こうと思って場所を聞きに来たんですよ」


 そう言って先ずはお土産を渡す。梨を渡すと早速一口食べると、相変わらず美味いなと言ってくれた。妖精の手助けがあるとは言え自分の畑で作ったものを美味いと言われると気分がいいね。モンゴメリーさんは梨を食べると俺の背後にいるクラリアらを見て言った。


「じゃあ悪いが皆で見てきてくれるかい?」


 モンゴメリーによると洞窟があるのは土の道から山裾に沿って1時間程歩いたところだという。


「その中に入ったんですか?」


 そう聞いたクラリアの言葉に首を左右に振る。


「プレイヤーさん達と違って俺はただの農民だ。魔獣を倒す力なんてないからな。洞窟を見つけたらそのまま引き返してきたんだよ」


 何かわかったら教えてくれという彼の言葉を聞いて俺たちは再び原生林の中を道を目指して歩き出した。


「しかしまぁよくあんな場所にある果樹園を見つけたもんだよ」


 トミーが言うと全員が本当だよなとか普通は見つけられないぜ等という。偶然だったんだよと俺が言うが、


「その偶然がタクの場合は多いんだよな。常に先頭を走っている気がするぞ」


 いやスタンリー、それは言い過ぎだろう。


「主は常に一番なのです。当然なのです」


 タロウの背中に乗っているリンネが言った。タロウも吠える代わりにその通りだと言わんばかりに大きな尻尾をブンブン振り回している。それにしてもタロウは大きくなったよ。どこから見ても霊狼フェンリルの姿になっているぞ。まだ甘えん坊だけどな。


「リンネちゃんもそう言ってるじゃない。決まりね」


 何が決まりなんだよ。リンネもタロウも俺を過大評価し過ぎなんだよな。

 原生林に伸びている土の道に戻ってきた俺たちはそのまま西に進んで山裾に着くとそこから山裾に沿って北を目指して進んでいく。魔獣はいないと言うことになっているが何があるかわからないので先頭は相変わらず俺たちだ。


 道がない原生林の中を1時間程歩くと、モンゴメリーさんが言っていた通り山裾にぽっかりと穴が開いている場所に着いた。ここがその洞窟の様だ。幅6メートル、高さもそれくらいあり奥に続いている。


 ちょっと見てくるとシーフジョブのクラリアが中に入っていき、数分したら戻ってきた。


「奥に行っても中が暗くないの。壁が明るいのよ」


 彼女の報告を聞いて全員が戦闘モードになった。洞窟の中が明るいという事から考えられるのはただ1つ。



 ここはダンジョンだ。


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