ジョンストンさんの話
情報クラン、攻略クランともにLV85になったプレイヤーは全員装備の一部を85からのに変更したらしい。武器屋や防具屋に顔を出すと奥から85以上の装備を取り出してきたという。NPCがこちらのレベルを判断して対応を変えてきたんだな。
「85以上の武器や防具って結構いい値段するのよ。だからとりあえず武器だけ変えたの」
85から装備できる短剣に変えたというクラリアが言った。スタンリーはNM戦でゲットした水属性の片手剣を装備している。彼らによると85以上の武器はどれも威力が相当アップしているらしい。
「それにしても話を聞いていると第一の試練ってことは今のお題をクリアしてもまだ続きがあるってことか」
とりあえず85にしてくれという話はわかった。ただこっちはソロだしレベル上げばかりやるつもりはない。頭の上からは今直ぐにやるのですという声が聞こえてきているが基本はのんびりするつもりなんだよ。
それよりも第一の試練って言葉に引っかかりを覚えた俺。
「それについては全く予想がつかないのよ」
「内容もそうだし、その試練がいくつあるのか。試練が終わった後に得られる成果についても予測できない」
トップクランでも予想がつかないのか。となると俺じゃ全く無理だな。
「試練の街というだけあるね。一筋縄じゃいかないか」
俺がそう言うと頭の上から声がした。
「主ならできるのです。主は何でもできるのです」
「それは流石に無理だろう」
リンネは俺の膝の上に降りてくると主は完璧なのですと言ってくれる。嬉しいが買い被り過ぎだぞ。それにそこまでよいしょしなくても撫でてやるよ。
攻略クランは山裾に沿って街から北側の森を攻略しながらレベルを上げたらしい。南側はサハギンNMが徘徊する池があることもあり、NM狙いのプレイヤーが多くて混雑しているのだという。トレントと蜂という魔獣は変わらないのだが奥に進むと敵のレベルが上がってくる。1,200体のお題をこなしながら北を進んでいく方針だ。ただ周辺はライバルが多いから簡単じゃないって言っている。
情報クランは東の森を攻略しているらしいがこちらも今のところ新しい魔獣は見つかっていない。
「タロウやリンネの様なモフモフをテイムしたいプレイヤー達が探しているけどまだ見つかっていないのよ」
クラリアのクランにはモフモフの情報があるかという問い合わせが多くきているのよと言っている。
「このエリア、草原がほとんどなくて森ばかりでしょう?奥がどうなっているのか見えないよのね。原生林の台地の上から見ても遠くまで見えないし。相当広いわよ」
運営はこのエリアで時間をかけさせるつもりなのだろう。情報クランも試練のお題をこなしつつ東の探索を続けると言っている。
タクはどうするんだ?と聞かれたが俺は変わらない。農業をやりつつレベルに応じて街の周辺の森の中で敵を倒すつもりだよ。レベル85という目標はあるが急がないつもりだ。
「そうそう、第2陣が次々と山裾の街に到達し始めているの」
縁側でお茶を飲んでいるとクラリアが教えてくれた。その中には忍者もいるだろう。いよいよ彼らも空蝉の術を覚えられるんだな。これでまた強くなれるよ、忍者頑張れ。
4人が自宅から出ていった後、俺はリンネとタロウにせがまれて試練の街に飛んでから外に出た。相変わらずプレイヤーが多い。その中をとりあえず山裾に沿って北に進みながら出会う魔獣を倒しては経験値を稼ぐ。2体の従魔達がフル回転で活躍してくれるので夕方までに結構な数を倒すことができた。レベルは上がらなかったが問題ないぞ。
「今日は頑張ったな」
「ガウガウ」
「平気なのです。タロウも大丈夫だと言っているのです」
「うん。でも無理しちゃだめだぞ」
自宅に戻ってタロウとリンネを撫でながら言う。こっちが心配になるくらいに2体は頑張ってくれているんだよな。嬉しいがしっかりと休まないと。
俺が何もしなくても畑の面倒を見るのはランとリーファがやってくれている。とは言っても彼らに任せっきりにはせずに毎日従魔と一緒に見回りをするのは俺の日課だ。
野菜と果物、だいたい5日ごとに収穫しては農業ギルドに持ち込んで買い取ってもらう。ギルマスのネリーさんによると妖精が手伝って作った野菜や果物は飛ぶように売れているらしい。
「もっと売ってくれっていう声が多いんだけどさ、幻の野菜と果物は安売りするつもりはないんだよ。タクは今の数量を安定して卸してくれたらあとはこっちでやるよ」
農業のプロにそう言ってもらっているのでお任せだ。こっちは畑で育てるだけだと思ってるからね。農業ギルドが買い取ってくれる金額で十分に金策になる。まだ83だけど、レベルが85になった時にはできるだけレベル限定装備を身につけたい。従魔がいるとは言え自分ではソロプレイヤーの認識だ、装備はケチりたくないんだよ。
この日はほとんど自宅から出ずに過ごした俺は翌日試練の街に飛ぶとタロウとリンネを連れて街の外にでる。
「森の奥に行くぞ」
「はいなのです。たくさん敵を倒すのです」
「ガウガウ」
タロウの気配感知が優秀なので森の奥に入って行っても俺が周囲を警戒する必要はない。鍛錬として警戒するがその前にタロウが敵を見つけてしまうんで途中から無意味だと分かって止めたよ。
82の俺が相手にしているのは83から85のレベルがあるトレントと蜂。どちらも街の周辺にいる同じのよりも上位種というかレベルが高い魔獣だ。
クラリアやスタンリーが言っていたがこのトレントと蜂を相手に85まであげていくそうだ。レベルこそ違うが試練の街の外からはこの2種類の魔獣しか相手をしていない。毎日同じ敵を相手にするのも試練なのかな。目新しさがない分作業になりがちだ。
ただうちの従魔達は敵を倒すのが好きそうで同じ敵であっても相変わらずテンションが高い。
「ガンガンやるのです」
「ガウ!」
リンネもタロウも敵を見つけると嬉々として攻撃していく。2体の活躍でこの日レベルが83になった。
「今日もやってやったのです」
「ガウガウ」
外から試練の街に戻ってくると頭の上でリンネがそう言った。隣を歩くタロウもやってきたぜと言っているな。いや知らんけど。
「いっぱい倒して満足したか?」
「満足なのです。主の為に明日もまたやるのです」
「ガウガウ」
リンネは尾が6本になってから魔法の威力がまた一段とアップしていて一発で大きなダメージを与えている。タロウも攻撃力がアップしていてこの2体で魔獣を瞬殺していると言っても良いくらいだ。俺の出番が少ないのは嬉しいが、反面ちょっと情けなくなってきている。いや、2体とも本当に強いんだよ。
丁度夕刻時でもあったので多くのプレイヤーが市内の通りを歩いていた。モグラやカブトムシと一緒に歩いているプレイヤーもいるがその中でもタロウとリンネは目立つ。すれ違うプレイヤー達はほぼ全員が大きなタロウと俺の頭の上に乗っているリンネを見ていくんだよな。
俺は試練の街で食事をする時、3回に1回は梨を教えてもらったジョンストンさんのレストランに顔を出している。給仕のNPCともすっかり馴染みになっている。
「どうだい?梨は順調に育ってるかい?」
料理を食べ終えた頃に奥の厨房からジョンストンさんがテラスにやってきた。
「ええ。順調です。自分で育てた梨を食べるのは最高ですよね」
「だろう?俺はそれに加えて育てた梨をお客さんに出すのが至上の喜びなんだよ」
料理人ならそうなんだろうな。仕事に誇りを持っているのがよくわかるよ。
「最近は外の様子はどうなんだい?」
「相変わらずですね。森の中にいる魔獣を倒しているところです」
プレイヤーは大変だな。そう言ったあとでそう言えばとジョンストンさんが言った。
「この前久しぶりにモンゴメリーがこの店にやってきたんだよ。そんときにあいつが言ってたんだんが原生林の中の土の道が洞窟まで伸びているだろう?」
俺はその通りですねと相槌を打つ。
「奴の畑とその土の道を挟んで反対側の原生林の中の山裾にでかい洞窟があるらしいんだよ、最近見つけたらしいんだが中がどうなってるのか気になってるって言ってたな。タク、良かったらモンゴメリーに話を聞いてその洞窟を調べてくれないか?」
洞窟?何だろう。奥に何かいるのか、それともダンジョンなのか。俺が考えているとタロウの背中に乗って休んでいたリンネが言った。
「主、やるのです。タロウとリンネがお手伝いするのです」
「そうだな。やろうか」
俺はリンネを見てからジョンストンさんに顔を向けてやりましょうと言った。
「おお、やってくれるか。とりあえず俺も又聞きだから直接モンゴメリーから詳しい話を聞いてくれるかな」
「分かりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます